開拓者たち -北方の陸の孤島-
第19話 ウーベントの街
ep.4-1 day / 6
空が青い。
雲も白い。
吹いてくる風は肌寒いが穏やかで、ここが別の惑星と考えてもまるで信憑性がないし、今でも信じ難い。
でも今までに人が巨大トカゲに追い回されて牛で逃げたなんて話は聞いたことがない。
ガッハに揺られながら、そこでふと思ったことを男:アシフに聞く。
「なぁ、そう言えばあんた達はどうやってプクティスを仕留めるつもりだったんだ? あんなの勝てるのか?」
あの大きさで、あんなに素早く動く巨大生物を、たかだか槍と弓矢で倒せるとは到底思えない。
「ふつうじゃむりだ どくだよ どくでよわらせてからだ」
「毒か。 持ってるのか? どんなふうに使うんだ?」
「ゆみだよ やじりにぬってある かいのはこだが… なかまがもってた」
「貝の箱で、弓? あいつの荷物か」
ちょうどの俺のガッハが射手の荷物を積んでるはずだ。まとめた荷物の中の衣類を漁って見ると、ホッキ貝みたいなケースがあった。蓋を開けると乳白色の軟膏が入っている。
「この軟膏を矢じりに塗るのか? 強いのか?」
「ひとやどうぶつじゃ たすからない」
っつーことは、ウウクはコレで狙われたのか。 かなり危なかったな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
May / 3 / T0059
あれから更に一日歩き続けると草原の途中から道が現れ、そのまま麦のような穀物畑の道へと繋がった。
ぽつぽつと人が目に入り始め、納屋や民家も目立つようになる。そしてさらに歩き続けると遠くに高い石垣の塀が見えた。
外壁となる塀の内側にはそれよりも高い煙突もちらほら見え、屋根がわずかに突き出て見える。
かなり大きな街がぐるりと塀で囲まれている。結構な人口なのかもしれない。
ウウクもその街並みを表す外観を眺めている。
ウウクの文明初体験になるかもしれない。でも、目立たせたくないし、目立ちたくもない。
とりあえず、俺がなるべく矢面に立ってなんとかするしかない。
「なぁ、ウウク。俺が話をつけるから、俺の側を離れないように後ろから付いて来て」
「うん」
「それと、パーカーのフードはちゃんと被ってるんだよ?」
「うん。 これ、ショウタの匂いがするから気に入ったよ♪」
そう言いながら、フードをの裾を持ってギュッとしながらクンクン嗅ぎ始める。しかし隠したい黄色い髪がフードの首元から流れ出ていて見えている。
DQNっぽい金髪娘の全身スウェットのパーカー姿がエロく感じるのだが、それを思い出した。
ガッハに乗りながら寄り添うウウクに手を伸ばして、髪の毛と服装を整えてあげる。
俺達の仲も良いが、俺達の乗るガッハも仲が良い。お互いに離れる素振りが無い。
そのまま道なりに進むと塀の敷地内に入る検問所に辿り着いた。門番らしき男達が槍を持って歩いてくる。
「誰だ?どこから来た?」
革の鎧を着た男達が聞きながら俺達をジロジロ見てくる。どいつもこいつも厳つくてゴツい。
「えーと、旅の途中にこの男に襲われました。捕まえたら、ウーベントの街のギルドのベンリーで、名前はアシフだと言うので連れて来ました」
「襲われた? ベンリーに? そいつを見せろ」
後ろに居た、一人だけ黒い革の服を着た男がそう言いながら前に出てくる。
髭は綺麗に剃られ、たくましい体の茶色い髪。俺と同じくらいの身長だ。
俺はガッハから降りて、男:アシフをガッハから降ろす。そして折れた手足のアシフを無理やり立たせる。
「見かけない顔だ…。 タグを見せろ」
黒い革の服を着た男が命令すると、部下らしき門番の男が下着姿のアシフの胸元からネックレスのような物を手で引っ張りだした。ドックタグそっくりだ。
部下の男はそれを上官と思しき、黒い革の服を着た男へタグを渡す。
「ふん。確かにベンリーだな。だが、ウーベントのアシフじゃない。【ハッサリー】の“ハデム”だ」
あぁ、やっぱりな。半信半疑だったが、案の定か。
まぁ、悪い事して本名は言わないよな。
黒い革の服の男は、男(本名:ハデム)を地面に座らせ、俺の目を見ながら尋ねて来た。
その目はまさに警察官や軍人といった感じだ。
「経緯を聞きたい。説明しなさい」
「はい。 二日前に、ここから北西の湖でこの男を含めた4人に襲われました。偶然助かり、幸運にもプクティスから逃げてきました。
この男は先ほど説明した、ウーベントの街のギルドのベンリーで、アシフと名乗りました。仕事でプクティスの狩りに来たと。
でも、後ろにいるわたしの恋人を攫おうとして、わたし達に襲ってきました。」
「なるほど。だが、コイツのタグが本物なら、ここから南の【ハッサリー】の街のハデムだ。君は騙されたな」
「そうですか…。身柄は引き取って頂けないでしょうか?」
「私では無理だ。ギルドに行け。街の中の事は仕事の範囲だが、君の事情は町の外だ。この男がもし、ハッサリーのギルドのベンリーで、ハデムに間違いがないなら、ベンリーの犯罪としてギルドが責任を取る」
「わかりました。どちらにありますか?」
「案内させよう。 フセイン!!」黒い革の服の男が名を呼ぶと、別の門番:フセインが前に出る。
「彼が案内する。 それと、私はここのウーベント守備隊の“ムッサウィル”だ」
自己紹介をしてくれた、守備隊のムッサウィルさんは手を差し出し、握手を示す。
「わたしはショウタです。後ろはウウク」
俺はその握手に応え、しっかりと手を握る。
その手は今まで見てきたどの手よりも堅くて大きく、傷だらけだった。
「うん。それでは、タグか、身分証明書はあるかショウタ?」
来た。
どこかで必要とされることを想定してたけど、まさか真っ先にブチ当たるとは運が無い。
「それが事情があって持ってないんです。 その、道に迷ってといいますか…、偶然この土地に来たんです」
「偶然?」
ムッサウィルさんが顔をしかめ、怪しむ。そりゃそうだ。
「はい、ちょっと訳ありで…。どなたか助けてくれそうな人に相談したいのですが…」
俺の直感ではこのムッサウィルさんは良い人だと感じていた。何とかしてくれる。そんな雰囲気を持ってる人だ。
「……。良いだろう。ギルドの用事を済ませたら私の所に来なさい。
フセイン? 今の通りだ。保護官もしろ」
“フセインさん”は、「はい。」と返事をすると俺達を街の中へと先導してくれた。
ハデムは歩けないのでガッハに乗せられ、俺達はハデムとウウクを乗せたガッハを引き連れて保護官:フセインさんの後に付いて行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
街はほとんど石と木で作られていた。
レンガのような素材もあるが、切り出した石と、木材が多い。
街の中に入ると板を掲げた家が立ち並び、通りを分けている石の歩道の上を歩いて行く。
街の奥には石の歩道が無く、より多くの木材を使った家々が立ち並ぶ。そっちは居住地なのだろうか?
すると、今までずっと黙って様子を見守っていたウウクが、器用にガッハから飛び降りて、俺の服の袖を引っ張ってきた。
「ねぇ、ねぇ、ショウタ。どうなったの?」
「あの男は俺達に嘘をついてた。それでその相談に行く。それから、俺達もどこから来たのか説明できないから、この後で相談に行くよ」
「相談してばっかりだね」
「お互いに見知らぬ土地で、見知らぬ世界だからな。相手の縄張りを荒らしたくないし、俺も頑張るから、我慢できる?」
「うん。平気。」そう言って笑ってくれるウウクに元気づけられた。
歩き続けた歩道の先に、大きな二階建ての建物が見える。看板に文字が書いてあるが、もちろん読めない。
保護官のフセインさんが俺にガッハを建物の前へ止めるように指示を出す。
ガッハ達の手綱を柵に結び、ハデムを降ろすと無理やり歩かせ、先導する保護官のフセインさんに従って中へと入る。
木でできた頑丈な両扉。それを開けて入ると建物の中も木造だった。
壁は石で組まれているが、床や天井は木材で、入ってすぐに広々としたサルーンが作られている。丸いテーブルと椅子が並べられ、暖炉もある。
更に、そこの奥にはカウンターがあり、受付らしき黒人に似た男性が事務仕事をしている様子が見て取れる。
受付の男性以外にも女性、フセインさんと同じような門番や、強面の男や女。場違いそうな親子まで、様々な人々が居た。
銀行とバーが同居しているような施設が目の前に広がっていたのだ。
初めての施設に俺もウウクもキョロキョロと周りを見回していた。
このサルーンのテーブルや椅子、ソファには、いかにも荒くれ者と言った感じの風貌の男達が散らばって座ったり、話したりしていた。
そんな彼らは入館して来た俺達を一瞥し、椅子に寄り掛かりながら様子を伺うように、保護官のフセインさんにエスコートされる俺達を見ていた。
フセインさんは受付のカウンターまで進むと、受付に座っているの黒人男性に話しかける。
「やぁベフ、元気かい? 悪いが面倒事が起きた。他所の街のベンリーが違反行為をしたみたいなんだ。見てくれないか?」
フセインさんは挨拶をしながら立ったままカウンターに手を置く。
話しかけられた、カウンターの反対側に座っていた黒人の“ベフ”と呼ばれたアゴ髭を生やした男性はペンを止め、フセインさんを見上げる。
その顔は真剣で、高い知性を感じ取れる。
「違反者か? 誰が? まず話しを聞かせてくれ。」
そう言うと別の紙の様なものを広げた。羊皮紙ってやつだろうか?
保護官:フセインさんに促され、俺はムッサウイルさんに話したのと同じ内容を黒人:ベフさんに説明する。
それが終わると保護官のフセインさんがハデムのタグをベフさんへと渡す。受け取ったアゴ髭を生やした黒人のベフさんはそれを慎重に自分のドックタグと見比べ始める。
目で見て確認し、触ったり、目録を取り出してドックタグに記入されている内容との確認なども続けた。
「……。タグは本物だ。あとは本人の確認だな。
おい、ハデム。お前はハッサリーのギルドのハデムで間違いないか?」
きつい口調で呼ばれたハデムは身じろぎ、目を泳がせ、目を合わせず黙る。
沈黙がしばし続く。
すると、後ろのサルーンで事の成り行きを見ていた男達がこちらに近づいてきた。
全員革の服に、革の帽子をかぶっていて、カウボーイに似た格好。腰には剣や手斧を差している。
帽子は
身長はそんなに高くない。俺とそれほど変わらない。でも横幅は広く、ガタイは良い。
さらに武器を
近づいてきた彼らはそのまま俺達に軽く挨拶をする。
そしてあっという間にハデムを6~7人のカウボーイ達が囲み始める。
強面の男の一人がハデムの顎を掴み、顔を上げさせ、ジロジロと仲間内で見始める。するとその中の一人で赤いスカーフを巻いた男性が、もう一人のリーダー格らしき男へ耳打ちした。
耳打ちされた男が「分かった。」と言うと、ハデムから手を離し、黒人のベフさんへと向き直る。
ハデムの額からは膨大な脂汗が滲み出ている。
「なぁ、ベフさん。俺の連れがコイツに見覚えがあるらしいんだ。良ければ事務所の裏でコイツとお話しをさせて貰ってもいいかい?」
「頼めるかいスコット?」
その申し出にベフさんは安堵の声を出す。信用できる人なのだと一目で分かるやり取りだ。
ハデムは
俺はその光景を見ながらベフさんに更に詳細を尋ねられ、俺とウウクが襲われたこと。ハデムに白状させた強盗、暴漢、違法人身売買、密輸などのことを伝え、ハデムは嘘ばかりで信用出来ないことを伝えた。
そんな調書を取っていると、事務所の奥からくぐもった声と不快な音が聞こえてきた。あまり良い想像は出来ない音である。
そして少し長い調書が終わると、ベフさんとフセインさんで相談を始めた。俺達の事だ。
結果としては、自白内容と、ハッサリーのギルドへの確認などで時間が掛かるので、倍賞の問題の為にも守備隊の保護の下で待つ必要があると説明された。
組合ギルドメンバーの違反者よる被害へは、ギルドが賠償責任などを担当する。
賠償金はギルドの依頼の報酬から控除された、保険のようなもので支払うらしい。
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