第3話 ウウクと出会う

ep.1-3 April / 24 / 2016



 特集されていた黒澤明の映画を見て時間は過ぎた。


 NHKのニュースを見て時間を計ると、そろそろ48時間立つと思う。


 あの男が言う、自称「宇宙人」は信じがたいが、今この環境が異常なのは俺でも理解できる。

 こういう変な実験を被験者に行ったりするのを、映画やインターネットで見たことがある。


 できればそうであって欲しい。 ただ、そう願うしかできない。


 椅子に座っていると、あの男が入ってきた。


 でも、一人じゃない。女の子と一緒だ。

 触手で背中を押すように誘導しながら横に従えて連れてくる。


 でかい。身長も、胸も。


 俺の身長が171cm。彼女は俺よりも10cm以上はありそうだ。

 着てる服は、ダボダボの白い入院服みたいなのを着ているが、そんな服でも彼女の胸は大きく盛り上がっている。


 しかも、すごく可愛い。金色の髪と顔つきから白人だと思う。


 俺は仕事で制服を着るので、通勤は私服。ジーンズと柄シャツとパーカーだ。


 狭い部屋に宇宙服を着たイソギンチャクと男と、デカイ白人巨乳美女、そしてしょぼいアジア人。

 異質だ。普通じゃない。



 たじろいでいると、イソギンチャク男は女の子を俺が座っている椅子の正面に向かわせる。


 だが、彼女のその足取りは覚束ない。

 心なしか、眼の焦点も合っていないし、俺とも目を全く合わせていない。


 彼女を椅子に座らせると、男は背中から生えた触手の一つが持っていた器具を彼女の首筋に押し当てる。

 注射器だろうか?



 「この女はしばらくしたら意識がハッキリする。起きたら君はこの端末に手を乗せなさい。

そうすれば必要なことができる」



 そう言うと男はタブレットPCの様な物を俺に渡すと去っていった。


 後ろから飛び掛かるべきかどうかを考えたが、とてもじゃないがそんな勇気は出てこなかった。


 それから30分もしただろうか?


 下を向いてうつむいていた女の子が顔を上げた。

 生気が戻ったようなその顔は凄い綺麗だ。でも、可愛らしさも併せ持っている。

 こんな娘が世の中にいるのかと驚く。

 顔の彫りがあまり深くないのが俺の好みなだけかもしれないが…。


 そんな彼女は俺を見ると、目をカッと見開き、椅子から立ち上がり、後ずさる。


 怯えてるのだろう。 俺と一緒だ。



 「Please calm down. Could you speak English?」



 とりあえず、分かる範囲で話しかけた。


 が。



 「………!"#$% %&'( $%&'() "#$%& G#$%& 」



 あまり、反応が良くない。


 つーか、何語? 英語じゃダメ? なに人だ?



 「あの、日本語は話せ……ない…です…よね? ジュヌ・コンプランパ・フランセ」


 「………"#$%……#$%&.」



 唯一知っているフランス語にも反応がない。ドイツ語とかロシア語か? スワヒリ語なんか勘弁してくれよ?


 ふっ、と気が付くとあのタブレットPCが目に止まった。

 翻訳辞書なのだろうか? 手に取り、電源を探すがボタンは見当たらない。


 ひとまず手をモニターに押し付ける。

 その直後だ。モニターが一瞬光ると、脳に電気が走るような衝撃が入り、激痛がした。

 頭の中で神経を噛みつかれたような感覚に、思わず手に持っていた端末を落としてしまった。


 ガチャンッ! と落下した音に反応して、女の子は走りだした。

 ダイニングから飛び出し、向かいのユニットバスに行き着き、行き止まりと気づくと引き返して、唯一の扉を通ってベッドルームに飛び込む。

 しかし、そこは袋小路だ。 絶望感に打ちのめされているだろう。


 その逃げようとする姿を横目で見ながら、俺は痛む頭を両手で抑える。

 こっちはこっちで、ズキズキとした痛みと、脳内にムカデが這い回るような感覚に耐えられない。



 「ひっ、ひっ、痛い、んあんなんだぁぁ… 」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 1時間は経ったのか、それとも10分も経ってないのか。

 頭の違和感は次第に無くなった。


 床にうずくまっていたが立ち上がり、水道の水をカップへ注いで飲み干す。


 椅子にどっかりと腰を下ろして周りを見ると、床にさっきのタブレットが落ちていた。

 どこも壊れていないようだが、酷い経験だ。


 スタンガンみたいな物だろうか? これも実験なのかと考えたくなる。


 その時、視線を感じた。

 あの娘だ。

 ベッドルームの扉の影からこっちを見ている。

 

 とりあえず、手を振ってみた。 大丈夫だよ。っと。


 すると… 



 「ピュイピュイッ」



 すると向こうは口笛を鳴らしてきた。


 へ? 口笛? 

 あっけにとられたが、とりあえずこちらも口笛を返してみる。



 「ぴゅー ヒュー ピュー」



 あまりできないがとにかく真似する。


 「ピュイ ピー ピュイ」


 「ピューぴゅー」


 「………」


 「ぴゅーぴゅー」


 「…あなたは誰」


 「ぴゅー ひっ!? 日本語分かるの!?」


 喋った!? 今、誰かって聞かれたよな!?


 「……? ニホンゴは知らないわ。 あなたは誰なの? ここは何処?」


 「え? あれ? 日本語は今話してる言葉なんだけど。あの俺は…わたしは日本人で、斉藤翔太と申します。この場所は…、私にもわかりません」


 「…言葉…?」



 あ、なんか訝しんでる。 明らかに情報が伝わってない。



 「あの、とにかく。翔太です。ショウタ。ファーストネームはショウタです。」


 「そう。 …ねぇ、ショウタ。私は何処にいるの? なぜここにいるの?」


 その口調に怒りは感じないが、刺々しく、警戒心が半端なく醸しだされていた。


 「わたしも…。えぇと、俺もここが何処だか分かりません。俺もなんでいるのか知りたいです」


 俺はそれを言い終えるとゴクリと息を飲んだ。それしか言えなかった。

 ただ…。


 「ただ、変な奴に連れて来られて、調査対象だって言われました。自分は宇宙人で、危害は加えないって。 そう言われました」


 「……? あなたは何を言ってるの?」


 「チッ…、いや、そう言われてもこっちも理解できない状況なんだよ」



 思わず声が強張る。そしてすぐに後悔した。

 お互いに被害者なんだ。まず知り合おう。



 「いや、今のはすいません。失礼しました。 えぇと。あなたはどなたですか?」


 「…私は、ウウク」



 そう言うと、彼女はベッドルームから出てくる。



 「どちらの国の人ですか?」


 「国?」


 彼女はそう聞き返しながらこちらに歩いてくる。


 「えと、住んでるところです。アメリカとか。ロシアとか」


 「住んでるところ? ホルトスよ。 北の方」



 そこまで言うと彼女はダイニングの入り口で立ち止まる。


 ホルトスって何処だ?



 「あの、そこは雪国の寒いところですか?」


 ひとまず質問する。


 「雪国? 寒くはないわ。温かいところよ」



 は? 何か会話から想像するのとイメージが合わない。



 「?? えと…」



 凄く嫌な予感がしてきた。

 これはきっと…。



 「もう一度、聞きますけど。俺は日本人です。それで今、俺は日本語を話してます。

日本という場所。ジャパンです。JAPAN。 あの、……地球という星の人間です…」


 「…地球の星?」



 やばい。これ。完全にアウトな展開だろ





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る