第2話 気分はもうガガーリン
ep.1-2 April / 22 / 2016
俺は21年間生きてきて、窓の外から地球を眺めたことなんか一度もなかった。
多分経験者は宇宙飛行士か、ロシアの犬くらいだろう。
でも、今は目の前の光景をどう理解したらいいのか正直分からない。
もしかしたら、モニターに映された精巧なCGなのかもしれない。
俺はゲームをあんまりしないが、最近のCGのクオリティの凄さは一般常識として理解しているつもりだ。
「…はぁ……。」
ため息が出た。どうすりゃ良いんだ。
その後は、ドア? に向かって叫んだり叩いたりした。
そのうち疲れてベッドに座ったり、またさっきの窓の外を眺めたりした。
窓の外の地球はちゃんと回っているようで、南米大陸とかがはっきり見えた。
ただただ、今は不安だ。
部屋に閉じ込められているにしても、真っ白でベッド以外何もない部屋。トイレはどうすりゃ良いんだ?
_コンコン。
ノックだ!?
目が覚めてからどれだけ立ったのか分からない。
不安がすでに恐怖に変わり、思わず身構えてしまう。
プシュ、っと音を立ててドアが開くと宇宙服が入ってきた。
チューブのような細い管が宇宙服の体中から飛び出ていて、ヌタヌタ動いている。
頭部を覆った金魚鉢みたいなヘルメットは黒く、顔は見えない。
まじまじ見ると強烈に気持ち悪い。
「君が目覚めてから地球時間で2時間だ。調子はどうだい?」
「そうですか、もっと長く感じました。 調子は…悪く無いと思います」
そう言うと宇宙服の男はこちらに向かって歩いてくる。歩く姿はまるでイソギンチャクだ。
思わず後ろに下がる。だが、背後は全て壁だった。背筋に悪寒が走り、汗が吹き出てくる。
「はっはっは。 まぁ、落ち着きなさい。君を殺すつもりも危害を加えるつもりもない。君は私の調査対象としてここに連れて来られたのだよ。それだけだ」
「ちょ 調査対象?」
声が裏返ってしまったが、聞き返す。どういうことだ?
「君たちの文化で言うところの、私は宇宙人だよ。まぁ、侵略者では無い」
「そういう冗談は苦手です。映画かテレビならやめて欲しいですし、何かの研究なら事前に許可をとってください」
「テレビと映画は私が君たちを知るために活用した大事な情報源だよ。そのおかげで君たちの文化を理解した」
なんだよそりゃ。漫画じゃねーか。
MIB《メン・イン・ブラック》のパロディか?
「まぁ、細かい説明はするつもりは無い。
とりあえず、必要なのは生理現象の対応だ。バスルームはこのドアの右手。食事は左手だ。約48時間後にもう一度来るからそれまでは好きにしていてくれ。カフェテリアにならテレビがある」
そう言うと男は開いたドアから出て行き、奥にある別のドアに入って行った。その先に別のフロアがあるらしい。
男が去った後、部屋の外を見て回った。
目覚めた部屋は窓の付いた四角く広いベッドルーム。
その外には右に小さなユニットバスとトイレ。左には8畳くらいの部屋に4人掛けのテーブルと日本製の冷蔵庫と電子レンジ。そして流し台。歯ブラシや食器。テレビとリモコンなどは8畳の部屋に設置してあった。
テレビは衛星放送の日本のチャンネルが映ったが、俺のことはニュースでは報道されなかった。
食事は冷凍食品が冷凍庫にパンパンに詰まっていた。でも、全部英語が書かれたアメリカのワンプレートのミールだった。
ポテトとフライとランチョンミートみたいなのがワンプレートに仕切られて盛られたもので、あまり美味しくなかった。
いろいろな種類があるのがせめてもの救いだが、体には悪そうだ。
男が出て行ったドアは当然だが開かなかった。
風呂無しワンルームの部屋が、バストイレ付きの1DKに変わった。
結局、探索はそれで終了した。
もう見る場所もなく、食事も美味しくないので、シャワーを浴びて歯を磨いた。
その後はテレビの衛星放送で映画を見た。ちょうど始まったのは、七人の侍だ。
お米がこんなに恋しくなるとは想像もしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます