第47話 便利屋だから
ep.8-6 November / 26 / T0059
俺は郵便屋さんだ。
俺は郵便配達した手紙を、配達先のヤギさんに食べられてしまった…桃みたいで美味しそうだったと説明された。
口論していると、犬のおまわりさんが自転車に乗って近づいてきた。
送り主にもう一度届けてもらうように、っとお願いの手紙を送るようにアドバイスしてくれた。
でも、俺もヤギさんも困ってしまった。
だって手紙を送ってきた送り主が分からないのだから。
それを見ていたウウクは桃を食べながらゲラゲラ笑ってた。
そんな夢を見た。
目を覚ますと桃の香りに包まれた。
俺は何故なのかやっと理解できた。ウウクの髪が桃の香りだったんだ。
髪を巻いていたタオルは取れてしまい、ウウクの濃厚な金色の長い髪が枕に散らばる。
俺はその下で髪の毛に埋まるように寝ていた。
いつもと違い、艶々でしっとり柔らかく、桃のように甘い香りがする。
俺はその髪の毛の根本まで鼻を埋めて深呼吸した。
_すー…・・・・すー…・・・っ
ウウクの髪にはこれがピッタリだ。
定期購入したい。相談してみよう。
俺はウウクの背中から、後ろ頭に顔を埋めるようにしながらウウクを抱きしめた。
ムチムチとした体。大きすぎる胸。この大勢だとウウクの足の先に足が届かない。
そんなアンバランスなのにあどけないウウクが愛おしい。
すると俺の手が掴まれた。
掴んだ手は、俺の手を口に含み、親指をチューチューと吸い始めた。
俺は指を動かして口の中の舌を撫でると、その舌も俺の指をチロチロと舐めながら吸ってくる。
顔を起こして耳をしゃぶると、モゾモゾと動いて指に吸い付く力が強くなる。
「っちゅぅぅ♥っちゅ♥チュ~♥」
「甘えん坊さん。おはよう」
「ちゅっっちゅー………、っちゅ♪ え~!? 甘えん坊はショウタでしょ?」
ウウクが口を離してこっちに向く。しかし、髪が寝転がる体に絡み、思い通りに動かせない。
俺も一緒にウウクの髪を直すのを手伝うと、ウウクは俺の正面に向き直ってからキスをする。
はぶ♪ちゅちゅぱ♥ちゃぷっちゅっちゅ♪
「ね? ショウタのほうが甘えん坊でしょ?」
「え? そういう流れか? まぁ、でもそうだね。俺の方が甘えん坊かもね」
「でしょ☆ じゃ、甘えん坊の赤ちゃんには、おっぱいのお時間ですよ♪」
ウウクはそう言うと俺の頭を抱えて胸に導いてくれる。
そんな訳で、朝からいっぱい甘えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一階へ降りて、メインダイニングへ向かう。
ダイニングに入り、席を見渡すとティーゼルさんが既に座っていた。一番奥の目立たない席だ。
他の客が少ないので分かった。
俺とウウクはティーゼルさんの方へと向かうと、ティーゼルさんが手を振る。
昨日と立場が逆だ。ちょっと可笑しいと思い、笑ってしまった。
「おはようティーゼルさん♪」
「おはようございます。待ちましたか?」
「いや、食後のお茶がこれからさ」
俺達が席につくと給仕のネコさんが食事を運んでくる。
いつものパンとフルーツだ。温かいお茶に口を付け、追加をどうするか思案する。
ティーゼルさんは俺に顔を近づけ、低い声で話し始める。
「とりあえず、報酬は決まった。討伐報酬が2000ディルだ。ここから素材の売買で更に増える」
約200万円。結構多い。
「かなり貰えるんですね」
「そんなことは無い。少ないほうだ。初期費用と見て良い。俺達は投資金額が低いからそう思うだけだ。命も掛かってる」
「そうですか…。っで、素材の売買とは?」
「熊の解体処理の手間賃、必要な部分と不必要な部分のやり取り、交渉だ。
仕留めたのは俺達だが、依頼人とはいえここは彼らの土地。被害の費用を素材で捻出したいだろう。それにあの大きさじゃ、この土地の者に依頼しないと大変だ。秘密を守る必要もあるから、恩も売りたい」
「なるほど。俺達はどうすればいいですか?」
「そこだ。お前、現金の2000ディルもってけ」
「え!? 丸々ですか!?」
「そうだ。どうせ俺は何もしてない。お前のもんだ。で、倒した熊の素材は俺が売買する。利益は2000ディルなんて目じゃないぞ。そこから弾丸と施設の費用を捻出する」
「なるほど。ティーゼルさんの取り分有りますよね?」
「当たり前だ。タダ働きはせんよ。だが、お前よりは少ない額を頂く。これは手間賃だ。残りの金は今後の活動資金だ。熊の毛皮などの素材で、貴重な部分は売らずに残してな」
正直細かい交渉事は俺には無理だ。お願いできるなら丸々任せよう。専門家で頼もしい。
俺達が秘密の相談をしている間はウウクがガードしてくれる。
なんでもない感じだが、周りに気を配っている。
ティーゼルさんとの関係が始まってからはいつもこんな感じだ。
細かい点の相談も終えると俺とウウクはパンを食べ始めた。
この丁度いいタイミングでティーゼルさんのお茶も来る。
給仕側も運ぶタイミングを伺っていたのだろう。
「ああ、それとなショウタ。ちょっと相談が有る」
「? なんでしょうか」
「お前達は残りの四、五日の間に、何か予定はあるか?」
俺とウウクは顔を見合わせる。何も決まってない。悩んでたくらいだ。
「いえなんにも」「なにかあるの?」 俺とウウクは聞き返した。
「ああ。暇ならちょっ仕事をしないか? ハンター以外で」
「ハンター以外ですか?」
「ああ。俺の友人の獣族にちょっと相談事をされてな。個人的な仕事だ」
なんだろう? ウウクも肩をすくめて俺を見る。
「とりあえず、話を伺ってからでいいですか?」
「ああ。お前、舞台とか分かるか?」
「舞台…ですか?」
「そうだ。舞台だ」
唐突だ。さっきまでの秘密の話以上に理解に苦しむ。
「舞台、といいますか…。俺の故郷での鑑賞する娯楽作品なら知ってますけど」
「それなら良い。実はアイディアが欲しいんだ」
「アイディア?」
「ね、ね、早く話してよティーゼルさん♪」
ウウクは舞台の話と聞いて目の色を変えている。興味津々だ。
「俺の友人にな、ここの街の商店組合長が居る。そこが観劇場の運営もしてる。街と協力してな」
「そうなんですか」
「っで、普段はコンサートをやってる。演奏会だ」
「ティーゼルさん、私達昨日観てきたのよ♪」
「なんだそうなのか。なら話は早い」
ウウクの話を聞いてにティーゼルさんの表情が柔らかくなった。
「今回の熊騒動で街のイメージダウンに繋がるかもしれないので、演奏会以外の普段と違う演目をやって、話題作りを図りたいらしいんだ」
「話題作りですか?」
「そうだ。熊の恐怖で街の活気がなくなるのは困る。街の人達にも安心して欲しいからな。っで、そいつは俺に演目の相談をしてきたんだ。俺の本国は栄えていたから観劇場も多かったからな」
「それと俺達になんの関わりが?」
話がよく分からない。
「俺は本国では演劇をよく見た。演奏会もな。だがな、この街は演奏会が主だ。演劇が出来る役者がいない。脚本家もだ。素人の俺にはそんな状態でできる、演奏会でも演劇でもない、何か特別な演目のアイディアが無いか? と相談されたが、困ってな」
うーん、舞台役者も脚本家もいない。演劇は出来ない。
楽器の演奏会以外の舞台の演目。
「それは…困りますね」
「そうなんだ。困ったんだ。だから、他の誰かの見聞きしたアイディアを聞きたくてな。お前なら色々知ってそうだしな」
「っと、言われましても…」
俺だって素人だ。ちゃんとした舞台の演目なんて知らない。役者も居ないなんて…
「何をしたいんですか?」
「とにかく明るい内容だ。派手で、人を惹きつける感じの。この時点で俺の知ってる演劇では無理だ。そうなると演奏会だ。でも、それ以外が良いと
「うーん…」
「ねぇ、ティーゼルさん。皆が気に入るような、面白いのなら良いんでしょ?」
「そうだ。ウウク、なんか知ってるか?」
ウウクの言葉に、ティーゼルさんは反応する。俺も気になる。
「ショウタいっぱい知ってるじゃん♪ ほらこれとか♪」
ウウクは立ち上がるとクルッと一回転して、俺とティーゼルさんにビシッ!!っと両手で指を指す。
そのまま逆回転すると、キレッキレの指を差しながら、ムーンウォークで隣のパントリーの中へと消えていく…。
給仕のネコさんがこっちをガン見してる。
「ぅおぉぉぉぉぉ…!? なんだあれは…」
「いやあの…」
何だこの展開…。
ウウクがパントリーの中からドヤ顔で出てきた…。
「ショウタ、ああいうのいっぱい知ってるのか?」
ティーゼルさんの目は真剣だ。
「いやあの、知ってるという訳では…」
「いや、なんでも良い、とりあえずアイディアだけ提案してくれ。この紙に参加できそうな人の特徴と特技が載ってるから、ちょっと考えてくれよ!」
「あ、あの、その俺、素人なんですけど…」
「良いんだよ!! やるかどうかは相手が決めるから!! とにかくインスピレーションだよ!! アイディアだけで良いからさ! 俺にはあんなの想像もしたこと無い!」
俺は押し負けた。
断りきれなかった。
ウウクはニコニコしながら俺を見ている。
ティーゼルさんはさっさと熊の交渉にでかけてしまった。
俺の手元には参加予定者のプロフィールの載った紙切れ一枚。
勘弁してくれ…
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