第23話 ウーベントの宿屋
ep.4-5 May / 3 / T0059
宿屋の1階の小さな食堂で料理を食べた。
メニューはお豆のスープとチーズとパン。塩漬けの魚とピクルス。メインには乳白色のビーフシチューの様な物が出た。全体的に保存の効くものが多かったが、ケチった感じはせず美味しく食べれた。
一番の収穫はウウクだった。慣れないナイフやフォークを使いながらも食事を食べて、お豆のスープをとても気に入っておかわりをした。ビーフシチューモドキも喜んで食べることができた。
女将さんもその様子を見ながら、言葉の喋れないウウクに優しくしてくれたのがとても嬉しかった。
そんな光景を見ながら俺は赤ワインを頂いた。美味しい物ではなかったが、ウウクの姿を見ていると美味しく感じられた。
その食後の休憩がてらに荷物を片付け、歯を磨き終わるとちょうど女将さんにシャワーが用意出来たと伝えられた。
シャワーは俺が先に頂くことになった。どんなのか使ってみて、ウウクに伝えたかったからだ。
宿屋の裏口を開けると露天風呂の様な脱衣所が有り、その先に公衆トイレのような木の箱が連結されていた。仮設のシャワールームと言った感じだ。
女将さんに教わったとおりに、服を脱いで箱に入ると、ヒモが垂れ下がっており、それを引くと上から少し熱めのお湯がシャラシャラ流れてきた。
本当に手作りといった感じの簡易的なものだったが、お湯の量は思ったよりも多く、石鹸もあった。これが一番嬉しかった。
体を拭き、ウウクを呼んで使い方を教えていると、その様子を見ていた女将さんが一緒に入って教えろというので、そうすることにする。
もう一度俺は服を脱ぎ、裸になったウウクと一緒にシャワーを浴びながらシャワーの使い方と、石鹸を使った体の洗い方を教えた。
ウウクはシャワーと水道をUFOのユニットバスで体験済みなので、シャワーのお湯に驚きはしなかった。
体の洗い方はUFOに備え付けられていたポンプ式のボディーソープやシャンプーで体験済みなので心配はない。
あのときはお互いにそういう関係ではないので今のように裸になって一緒に浴びるなどはしなかった。ボディーソープで手を洗って見せて体験させ、髪の毛も服を着たまま洗髪だけやってあげた。それらを踏まえて覚えたウウクが一人でシャワーを使って浴びていた。
それが今では一緒になって薄暗い個室の中で肌を寄せ合って体を洗っている。
僅かな日数で驚きの進展だ。
お湯を浴びる姿のウウクはとても綺麗で、僅かなランプの明かりがより妖艶な姿を演出してくれる。
もちろんウウクもお湯浴びに喜び、石鹸も気に入っていた。
「石鹸って面白いね♪ ツルツルの石ころがモコモコして泡々になるんだもん♪」
「手にとって洗っても良いけど、タオルとかにこすりつけて泡立てて体を洗って」
「こう?」 ゴシゴシ…。
「そうそう。背中とかは手伝うよ。髪の毛も洗おうか?」
女将さんの話だと、この石鹸は髪の毛とかも洗える石鹸らしい。言われてみるとオリーブオイルなどの天然成分で作られるマルセイユ石鹸に似たような感じだ。髪も軋まない。
自分の髪の毛を洗髪し、問題ないと感じてウウクの髪の毛も洗うのを手伝う。
ウウクの長い髪を洗うのだが、彼女のほうが背が高いのでちょっと洗いにくい。
その彼女の髪は不思議な生え方をしている。長い髪を洗って、うなじに触れる。それが真っ直ぐよ背筋に沿って伸びて肩甲骨の間の下まで伸びている。
彼女の長い髪は背筋にも馬の鬣(たてがみ)のように生えているのだ。
なんとなくこれが竜の姿の名残なのだろうと感じられる。
彼女の背筋に伸びたタテガミと、長い頭髪を背後に回って丁寧に洗い、一緒に背中も洗う。
「ほら。洗えたよ」
「じゃあショウタの髪も洗いましょ」
「俺はもう洗ったよ」
「洗ってみたいからい~の」
ウウクはそう言うと石鹸を取り上げると、向き合って俺の髪を洗い始めた。
彼女のほうが背が高いから上から見下ろすように洗われる。体の揺れに合わせておっぱいが弾み、たわわな実がたまに顔に当たる。
だがゴシゴシワシャワシャとまるで犬を撫でくり回すように洗ってくる。ムツゴロウさんみたいだ。
「髪の毛の毛根とか、地肌の部分を指の腹で洗ってくれない?」
「…つまり?」
「指と爪を立てないように洗って下さい」
「はーい」
っと言うともう少し優しい洗い方になった。
そのまま一緒に全身を洗い、宿から借りたちょっと粗いタオルで体を拭いてシャワーを終える。
シャワーの後に着替えるのだが、ウウクは奪った男物の服。俺も奪った丈の長い布製のダストコートもどき以外は日本で買った普通のシャツとジーパン。
着替えが欲しい。服装もお互いにこの土地柄にあった物に変えたほうが良いだろう。
明日は買い物だ。
「ウウク。明日はお買い物に行こう」
今までの服を着直しながらウウクに言う。ウウクは素肌の上に俺があげたグレーのパーカーを羽織り、男物の汚れた厚い生地のズボンを履いている。
「お買い物?」
「ああ。着替えを買わなきゃ。ジーパンなんて誰も履いてないのにユニクロやGAPなんて着てたらおかしいからね。 ウウクの服も買わないと」
「?? うにくろ?」
「俺の故郷で買った服さ。この世界では俺も初めてだけど、ウウクにお店でのお買い物の仕方教えなきゃ」
「…うん」
ウウクの様子を見ると、お金の仕組みがイマイチピンときていない様子だ。
「大丈夫だよ。仕組みがわかれば平気さ」
「うん。でもピラピラしたのや、丸いので物が交換できるなんて不思議ね」
「物々交換だけの社会じゃ無いからね。とにかく明日やってみよう」
着替えを終え、二階の客室へと戻る前に裏口から井戸のある屋外に出た。
裏口から出るとすぐ近くに井戸と牛舎がある。トイレは宿から離れたところに公衆トイレがあり、そこまで歩く必要がある。
奪った三頭のガッハは宿屋の牛舎の中でおとなしくしている。そのうちの一頭は死んだように横たわって寝息を立てて眠っていた。
ガッハを見ながらウウクと一緒に井戸の水で歯を磨く。ちょっと肌寒いが気持ちは良い。牛舎の臭いもきつくない。
歯を磨き終わった俺達は、静かに寝息を立てるガッハをウウクと眺め、宿屋の脇から夜の街並みに目をやる。
街を囲む丸太や石でできた塀。
俺達の居る場所は、入ってきた街の正門から近い石畳で続く宿場の区域。この区域の奥に商業区域があり、更に中心部に守備隊の基地がある。
街の中の建物は大抵が木造と石材の混ざった建物で、ポツポツと総レンガ造りの建築物がある。街灯代わりの篝火が焚かれ、松明を持って革や金属製の鎧を身に着けた守備隊の兵士が槍を持って見回りをしている。
服装はマチマチだが、女性はスカート姿が多くて、男性はズボンと帽子が多い。誰も彼も上着を羽織っている。しかし今は夜間のため人通りは少ない。
それでも女性が夜の街の中を一人で歩く姿を見ると治安が良いことが分かる。
数少ない夜道を歩く女性の姿は、上下がおそろいの西部劇や若草物語で見るようなワンピースにケープを羽織った姿だった。でも、別の女性はパンツルックに厚手のボタンのないシャツを着ている。
石畳の先からこちらに歩いてくるガラの悪い男性達の姿はカウボーイによく似てる。だが銃ではなく剣や斧を携帯していた。
さらに別の武器を携帯していない男性はもう少し普通の格好で、布製の厚手のズボンに、胸元を紐で結んだシャツを着ている。
人種もアジア人は見られないが、黒人、白人、アラブ系だと思われる造形の人々が混じり合っている。
17,18世紀くらいの地球みたいな印象だが、誰も銃を持っていない。
地球の月によく似た造形の月夜の下で見る街の姿は神秘的で、自分がまるで過去の世界にタイムスリップした気分だ。
不思議な世界だ。テーマパークに来たと言ってくれたほうがしっくり来る。
俺の隣で一緒に街並みを見ていたウウクがポツリと言った。彼女は俺があげたパーカーを羽織り、髪を隠すようにフードを深くかぶっている。
「私、こんなに家があって、こんなに沢山の人の姿を見るのは初めて…」
「そうか…。普段はドラゴンの姿だもんな。ウウクの家はどんなだったの?」
「…崖に掘った洞窟とか、人の姿用に、草や木を利用したお家。男はか弱い人の姿でい続けることに抵抗があるから、家に住むのは女性と子供と年寄り」
「俺の世界で言うならまさに縄文時代の家って感じかな? ウウクにはここが未来の世界に来た気分かもしれないけど、俺には過去の世界に来た気分がするよ」
「そうね…。そうかもしれない」
「…なぁ、ウウク」
「なぁに?」
「何を考えてるの?」
俺はウウクの眼差しの意味が気になった。
ウウクは街を歩く人の姿を真剣な目で見ている。
無表情で、気配を感じないほどに静かにただ立っている。
「…さっき歩いていった男の人と目が合ったの」
「…また狙われそうだったの?」
さっきのガラの悪そうなカウボーイだろう。
「違うよ。ガン飛ばされただけ。たぶん、こっちのほうが大きいから気になったんじゃないかな?」
「そっか。また狙われたり喧嘩になるのは嫌だから中に入ろう」
「安心して。負けないから」
「そういう問題じゃないよ。部屋に戻って明日の準備して寝よう」
「うん」
ウウクと一緒に裏口から中に入ってドアに鍵を締める。
ウウクが稀に表に出す殺伐とした雰囲気には驚く。まるで感情が無いのかもしれないと感じるほど落ち着いている。
それも本来の姿は竜だという彼女の本当の姿の一つなのだろう。
部屋に戻るとお互いの準備はできていた。
部屋の隅にも汚れた時にタオルを濯(ゆす)ぐ為の水が入った桶が事前に用意されている。
ウウクを抱きしめ、キスのデートを繰り返し、ベッドへ誘(いざな)う。
歩きながらキスをして、歩きながら服を脱いだ。薄暗い部屋の中で下から見上げたウウクの顔は綺麗で、瞳の中に吸い込まれそうだった。
「ショウタの目、きれいだね…吸い込まれそう…」
「俺もおんなじこと思ってた…」
「そうなんだ…一緒だね…」
そう言うとウウクは上からまたキスをしてくる。胸板に当たる大きな乳房がひしゃげ、形を変える度に心地よさを増幅してくれる。
そのまま一緒にベッドの上に座った。
裸ん坊同士で子供のようにじゃれあいながら抱き合う。
石鹸で洗ったウウクの肌はスベスベで、髪には乾かすためにタオルが巻かれている。
唇を重ね、肌を重ねる感触を楽しみながらウウクを抱く。
激しい行為を重ね、ウウクの好きな胸への愛撫と、お互いの体液の交換をひとしきり終えた頃には彼女はヘロヘロになっていた。
ウウクはとろけた顔で俺にゆっくりと抱きつき、キスを繰り返す。それに俺も抱きしめ返す。
ぐちゃぐちゃのその顔はとても綺麗だった。
絡め合う舌の音を楽しむとウウクに言った。
「ウウクが可愛いからやり過ぎちゃった。ごめん」
「んっ、んっはっ……。怖かったよぉ、気持ち良すぎてどっかにいっちゃいそうで…、一緒がいいよぉ…」
そう言いながらウウクは繰り返し俺の顔中にキスをしてくる。
まるで子供が甘えるようなそのキスはとても幸福だった。
寝る前に外で感じた殺伐とした雰囲気がまるで感じられない。不思議な二面性だ。
そして、そのままウウクを抱きしめ、もう一度ウウクの中に俺は戻った。
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