第22話 夜の訪れ

ep4-4 May / 3 /T0059





 軽い談笑を楽しんだ。


 ムッサウィルさんは奥さんと三人のお子さんがいらっしゃるらしい。

 みんなこの街で暮らしており、ムッサウィルさんはこの街の建設時に生まれたらしい。

 

 だから、街の年齢も、自分の年齢も46歳だと愉快そうに話してくれた。



 「そうだ、ショウタ。君の身分証明は私の責任で行うが、ギルドの調査が終わってからでなければ流石にまずい。悪いが三日から四日は街の中で待っていてくれ」


 「そうですよね。あの、どこか泊まれる所はありますか?」


 「宿場がある。さらに一軒だけだがホテルもある。お金は持ってないだろう。私が貸そう。賠償金で返せばいい」



 そう言いながら、ムッサウィルさんはズボンから何か出そうとした。



 「あ、お金なんですが…。実はこれも相談したかったんですが、襲ってきた男達から一部荷物を拝借したんです」


 「あのガッハだろ? そうだと思ったよ」


 「それで、武器と、私物を少しと、財布も二人分あるんです」


 「状況が状況だ。君の物にしろ。お金が分からないか?」


 「お金は分かるんですが、通貨とかがサッパリ…」


 「その財布を全部開けてみなさい」



 俺は言われたとおりに机の上に射手とハデムの財布を広げ中身を出した。

驚いたことになんと紙幣だ! ちょっと意外だ。ただ、とても丈夫で和紙に近く、厚い金箔が練りこまれていて、キラキラしている。



 「見て分かる通りかな? 紙だ。東の国から …君の故郷が近いかもな… 輸入されてくる。製法は門外不出。ここから南東にある大陸がこの地域で一番勢力が強いが、未だにこの作り方が分からない。

だが、かえって偽造防止になると考え、金と銀はこちら側が輸出してこれを作ってもらっている。そして、これらは金箔や銀箔の含有量で価値が違う」



 ムッサウィルさんはそう言いながら、一番キラキラした紙幣を一枚手にとって見せる。



 「これが100ディルだ」


 「…100ディル」



 それはオモチャのお金のようにキラキラしていた。



 「この中にはないが1000ディルと、この100ディル紙幣は金箔だ。

 そして、50ディルと10ディル紙幣は銀箔だ。

 さらに低い貨幣は5ディルと1ディル貨幣。

 その下はセント。25、10、5、1セントの貨幣で、100セントで1ディルだ。

 最後に1ペニーがある。コレは10ペニーで1セントだ。ただし、あまり使わん。複雑だが分かるか?」



 分かるというか、ドルとユーロに近い。



 「大丈夫だと思います。だいたいの買い物に使用する相場はどれくらいでしょうか?」

  

 「パンを買うなら50セントくらいだ。宿屋なら一人一泊5ディル以下。

食事なら80セントから1ディルくらいが相場だな。」



 うーん、1ディルが千円と考えて問題ないな。っで、1セントで十円かな? 小銭だらけだ。



 「なんとなく分かりました。わたしの国の通貨と似ています」 


 「それは良かった。見知らぬ土地が高度な文化を持っていると聞くとワクワクするよ」



 そう、ムッサウィルさんは自分の事のように嬉しそうに語った。 


 そしてお金は全部で152ディルと82セント8ペニーだった。

 単純にそのままくっつけて約15万2828円。結構ある。悪いことをして儲けていたのだろう。

 

 本当に良いのかと聞いたが、構わないと言ってくれた。なので遠慮無く頂いた。


 今回は宿場に泊まり、明日は買い物をしに行きたいと言うと、物品の買い取りをしているお店を教えてくれた。優しい。


 丁寧にお礼を良い、守備隊基地を後にした。


 とりあえず、今日はゆっくり寝て、明日は新しいお互いの服を買おう。

 ウウクと手を繋いだまま、外のガッハの手綱を柵から外す為に基地の脇に移動する。


 すると、ぎゅっ。と、後ろから抱きしめられた。ウウクだ。



 「どうしたのウウク?」


 「………。寂しかった…」


 「そうだね。ごめんよ放ったらかしにして」


 「ううん。私、何が起きてるのか分からないし、言葉も分からないから…。ショウタが居てくれてよかった…」


 背中から俺の胸に回される腕に力がきゅっ、と入る。


 「俺もウウクが居なかったら生きていけないよ。文字通りの意味で」


 「……。私 文字わからないもん…」


 「それは俺もだよ。ここの文字はサッパリ分からないからな。一緒に頑張ろうよ」


 「…うん。  ねぇ、ショウタ…」


 「うん?」


 「ちゅーしたい」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 日が暮れてから俺達は大小の宿屋が並ぶ宿場に来た。


 とりあえず、食事と寝床。可能ならシャワーか風呂に入りたい。そこまで聞けばよかったと思ったが後の祭り。各店に聞くしか無い。


 ウウクも少し機嫌を直し、一緒に手を繋いで歩く。移民が多いというだけあって、色々な人種が歩いている。


 服装なみんな同じような布や革製の服装で、不潔では無いが、柄の悪そうな人や怖そうな人も多い。

 ただ、肌寒いのでみんな革のジャケットや毛皮を着ていて、ポンチョやマントを身につける人々も多い。


 着いたばかりの時は、高原でも暑いくらいだったのが嘘みたいだ。


 店を幾つかまわったが風呂は無かった。しかし、一件だけ井戸の真横にある店はシャワーのサービスをやっていた。


 店は少し高いグレードで、値は張るが清潔。客の品も良いと来たら、そこに即決した。

  

 今まさにチェックイン。恰幅のいい女将さんが対応してくれる。



 「では、お客さん。2名だね。一泊かい?」


 「いや、まだ決まってませんが、三泊から四泊お願いできますか?」


 「良いですよ。決まったらまた言って下さい。2名で一泊14ディル。三泊で42ディル。連泊で35ディルにします。どうでしょう?」


 「今日は食事とシャワー付きに出来ますか?」


 「それでは食事が90セント、シャワー70セント、おまけして合計で38ディル。」


 「それでお願いします」



 支払いは前払い。布の袋でできた財布から10ディル紙幣4枚取り出して渡す。


 お釣りとして1ディル貨幣2枚が渡される。その中の1ディル貨幣1枚をチップとして女将に渡す。



 「ありがとうございます。じゃこちらにお名前を」



 っと言って、彼女は当然のようにチップを受け取り、皮の紙を渡してきた。



 「すいません、こっちの字は分からないんです」


 「じゃぁ、フリガナお書きしますね。お名前は?」


 「ショウタです。ショウタ・サイトウ」


 「…はい。では、私が書いたここにお客さんの分かる字で書いてくれますか?」


 っというので“斉藤翔太”っと名前を書いた。


 「……。ずいぶん難しい文字ですね。どちらからいらっしゃったんですか?」


 「ニホンという島国です」


 「へー、聞いたこともありませんね。世界は広いですね~」


 「………そうですね」


 「それではお部屋にご案内しますね。ちょうど二階の角部屋ですよ」



 っと女将さんは親切にも案内してくれた。なかなかこのレベルにしちゃ優しい心配りだ。



 「でも、うちのお宿で良かったと思いますよ?うちは荒っぽい人は断ってますから。作りもしっかりしてますし。

彼女さん、とっても綺麗だから変な所に泊めちゃダメですよ?」



 女将さんはそう言いながらウウクを眺めていた。

 そう言えばフードをかぶってなかった。 

 街中でも視線は感じたが、特に絡まれたり、ジロジロとは見られなかったので気にしていなかった。以外と治安が良いのかもしれない。



 「このウーベントは治安が良いんですか?」そう尋ねた。


 「そうね。【ハッサリー】や【ベルウッド】よりは落ち着いてる所よ」


 「ベルウッド? それはどこに?」


 「【カリィタウン】の西よ。大きな街はまだこの4つしかないのよ、この土地は」


 「カリィタウン?」


 「あら? 知らないの? 港町はそこだけよ?」


 「すいません、事情があって別のところから入ったんです」


 宇宙から。


 「あらそう、バーモンド・ロードの、バーモンド・カリィが到着した港よ。このツンクラトで一番大きな街」


 「へ~。そのうちに行こうと思います」


 「それが良いわ。あ、こちらです~」 



 そして案内された部屋は思いの外に綺麗で、大きな木のベッドが真ん中に一つある部屋だった。

 クローゼットもランプもある。外には街の火の明かり見えている。



 「シャワーは今用意しますので、お食事を先に召し上がりますか?」


 「そうします。シャワーはどうやって使えば? 個室ですか?」


 「そうです。私が好きだからこの宿とつなげてます。だから、お外に出なくて良いんですよ。

ヒモを引っ張るとお湯が出る仕組みだから簡単ですけど、どちらにも私がその時に教えますよ」



 そう一通り説明すると女将さんは退室した。

 ウウクは相変わらず言葉が分からず「?」とした顔をしている。ちょっと可愛そうだ。

 

 なので、一度を荷物を置くと、ウウクを抱きしめた。

 ウウクも俺の背中に手を回し、改めて今日のお互いの苦労を労る。



 「さっきのおばさんがご飯を用意してくれて、暖かいお湯浴びの用意もしてくれるよ」


 「そうなの? なんでそんなに親切にしてくれるの?」


 「俺達はお客さんなんだよ。お金を払うと、そこのお店で売ってるものやサービスを受けられるんだよ」


 「……。ごめんショウタ…。何かよく分からない…」


 「…そうだね、お金の話なんかしなかったからね…でも、俺もこの世界のことはよくわからないから一緒に頑張ろう」


 「うん…。一緒にね…」



 そしてこの日2度目のキスをした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る