第44話 ベルウッドの街
ep.8-3 November / 25 / T0059
ウウクとショウタが宿に向かった頃だ。
二人は慣れない長い移動と凍える寒さ、そして戦いと続き疲れていた。
正確には、ウウクは疲れてなどいなかった。
故郷での狩りと戦いは、あんなものではなかった。
それこそもっと大きな規模であり、強烈で獰猛、冷酷で狡猾。なによりも純然たる命のやり取りと、力と力のぶつかり合いをするものだった。
けれども、この姿での努力と知恵と技術を駆使して行う仕事は違う面白さがあった。
多くの人々と力を合わせて、様々な事をするのはゲームのようで面白かった。
そしてそれ以上に、大好きな人の活躍が素敵だった。
彼女がこの世界で大事にしたのは地位でも名誉でも無い。
感情とドラマだった。
生命はいつかは死ぬ。
しかし、死の瞬間に人を惜しむのか、惜しまれるのか。
生きている中で、昔よりも今の自分自身の方が好きか。
今の環境の方が愛せるのか。
今以上に自分と、誰かを大事にできるのか。
それだけが大事だった。
そんな彼女は純粋に思った。
今の自分は、以前よりも輝きと感動を味わっていると。
それは規模や実績、誇りという、男性が求める欲求とは違う物なのだろう。
彼女は違った。もっと陳腐で官能的な心の触れ合いと、巡り合い、そして感動。
それこそが彼女の渇望してきた物だった。
今の些細な生活にそれがある。
富や力では手に入らないものがある。
彼女はそれを噛みしめていた。
そんな一方で、この街の中では数多くの人々が久しぶりの穏やかな夜を過ごしていた。
「たまげたな…」
スコットは狼人:ウットゥルサと共に酒を飲んでいた。
ベルウッドは他の三つの街と同様に大きな街だ。酒場はいくらでもある。
だがここは特別だ。
小さな特別なバー。
奥の個室で革張りのソファーに腰掛けて、低い木造のテーブルに酒を並べる。
注文はベルを鳴らして給仕に伝え、呼ばなければ近寄りもしない。
今回の被害は家畜が数頭。負傷者数名。そして外壁などの物損破損で済んだ。
かなり小さな被害だ。
大規模な牧畜はクリーチャーの襲撃の対象になるので、他の街では小規模だ。
だが、ここはそのリスクを犯してでも畜産業を生業とした。
獣人族は肉が好きだからだ。自然動物やクリーチャーを食べ過ぎれば、モンスターが出てくる。
食べるためには育てねばならない。
なので、獣族が家畜を育て、販売し、それを聞きつけて他の獣族も集まるようになって街が育った。
特に人種差別は無いが、自然とそうなった。
だから守るべき街と家畜のために牧場の警備も厳重になった。
有刺鉄線や罠、堀、外壁、警備員の配置。
眼、鼻、五感の鋭い獣人族が率先して行い、守ってきた。
もちろんクリーチャーの縄張りを犯さないようにだ。
その努力はツンクラト怪熊の急襲にも対応できた。耐え切った。
そしてとうとう今晩、終わりを告げた。
たった三人のチームが終止符を打った。
ベテランで過去の大きな実績があるティーゼルならおかしくはない。
だが、驚異的だ。
ウットゥルサはティーゼルの誰にも見せないハンターとしての技量に感無量だった。
槍と矢を当てたウウクもすごいと思った。
今晩の久しぶりの酒は本当に美味いと感じた。
「ティーゼルさん本当にすごいな。まだ現役でイケるんじゃないか?」
「どうかな。流石に歳だ。上手く手持ちの道具を使ったんだろう」
「だろうな。でっかい国の軍隊出身だと、俺達の知らない物もいっぱいあるんだろうな」
「そうだな。俺もかなりお世話になってる」
ウットゥルサは上機嫌に大好きな甘いワインをガブガブ飲んでいた。
隣に座るスコットはウィスキーを飲み、体を芯から温めていた。
スコットは普段から消耗品や整備する材料をティーゼルに注文している。
過去のクリーチャー討伐での縁から仲良くなり、ひょんなことからチームメイトのロバートが道具を譲り受けた。
それからはお互いの多少の秘密を知り合う仲になった。
ティーゼルは信用できる。絶対に裏切らない。秘密も守る。それは確かだ。
だが、怪熊を瞬殺できるのかとなると…。
獣人族で狼人のウットゥルサは真っ赤な顔でありながら、はっきりした意識と呂律で語りだした。
「熊の顔によ、槍でも突き刺したような痕が残ってたから調べたら、熊の牙が砕かれてたぜ? 並の腕と武装じゃ傷も付けれないのにな!」
「そうだな。他のも凄かった。穴だらけだ」
そう。エイイェイも穴だらけだった。痕は違うが、どことなく似てる。
「広まるとティーゼルさんが危ないからな。熊は早朝から解体作業を始めて痕跡を消す。この話もここだけだ。俺も明日には忘れちまう。寂しいな〜、い〜い話しなのに…」
「諦めろよ。俺達の掟だ。まぁ、俺も大ぴらに見せなくて済んでよかったよ」
「他の槍で良かったんじゃないのか? 着てきたんだろ?」
「万が一ボンドドまで下りてきたなんて事になったら、アレじゃなきゃ無理だ」
「…ボンドドかぁ……もう嫌だな…」
「故郷じゃもっとデカイのも居るだろ?」
「俺はぁぁ寒いのが〜嫌なん〜だ〜よぉぉ〜!」
そう言いながらウットゥルサは肩を震わせる仕草をした。
フサフサの毛皮に覆われたその体は、寒さに弱いようにはまるで見えない。
そのまま二人は飲んで過ごした。この話は今日限りだから。
この街にはハッサリーとカリィタウンからの応援のハンターも来ていた。
彼らは誰が、どの様にツンクラト怪熊を倒したのかは知らされていない。
現場でツンクラト怪熊の亡骸を確認しただけだ。
彼らには知る権利は無い。
その代わりに彼らの誰かが倒したとしても、同様に誰かに教える必要もない。
それがハンターだった。
リスクは大きいが、リターンとなる見返りと誇りと実績は大きい。
そしてそれ相応に秘密がバレた時のリスクも大きい。
知れ渡れば隠れされた秘密が狙われる。
なのでショウタとウウクの秘密は守られていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
っちゅっちゅ♥ちゅっちゅ♪
「うぅ……ん、、、、ぷにぷにする……」
っちゅぷっちゅ「ちゅ♪ 起きた?」
「うん…ほっぺたで餅つき大会されたら誰でも起きるよ」
ちゅっちゅ♪「可愛い寝顔だからイタズラしたくなっちゃった♪」
そう言いながらウウクが俺のほっぺたにちゅっちゅとキスを繰り返す。
「そういうのはこっちの役割だよ…」
「眠そうだね。おっぱい飲む?」
「…頂きます」
寝ぼけ眼の俺の前にウウクの大きな胸がのしかかり、それを口に含んで飲む。
裸のままのウウクの体を触れると発達した筋肉がよく分かる。
昨日の熊狩りの時にパンプアップした名残だ。
そのままとろけるような気分でベルウッドの街での朝を過ごす。
用意してもらった宿屋は高級なところだった。
ホテルに入る分類で、メインダイニングとバンケットホールが建物の中にある。
朝食はワンプレートに盛られた、パンだけのコンチネンタルスタイルとフルーツ。
ウーベントの宿屋と一緒だ。
ボリューム不足を感じたので追加で注文しようとメニューや金額などを尋ねる。
すると料金は全てベルウッドのギルドが持つと説明をしてくれた。
ありがたくウウクと一緒に追加分を頂いた。
ツンクラト怪熊の退治は無事に終わっており、後は帰宅だ。
しかし、ティーゼルさんの説明だと怪熊の解体と処理の手続き、必要な素材の相談などで数日間滞在が必要だと言われた。
ミニーが心配だが、鍵を預けたスティーブに世話をお願いをしたので大丈夫だろう。
貴重品は全部バイオパックと手荷物に入っている。
食後のハーブティーを飲んでいるとティーゼルさんもダイニングに入ってきた。
手を振るとこちらに来る。
「おはようございます」
「おはようティーゼルさん♪」
「ああ、おはよう二人とも。昨日はお疲れ様」
「ティーゼルさんこそ。すぐ寝れましたか?」
「いや、少し酒を飲んでな。その分遅くに起きたからこの時間さ」
俺たちが話していると、給仕の羊型の獣族が食事を運びティーゼルさんの前に置く。
基本的には選べないようだ。
ティーゼルさんは気にすることもなく、そのまま千切ったパンを食べる。
そんなティーゼルさんにウウクは覗きこむように話しかける。
「ねぇ、ティーゼルさん。私達は何日滞在するの?」
「いやはや、一週間は掛からないが、四、五日は掛かるかもな」
「それまでは?」
「俺はこの街にも知り合いが多い。顔を出す先や、熊のことでギルドと街の役人と話すから忙しい。お前たちは遊んでていいぞ」
「どうしようか…?」
ウウクは俺の顔を見ながら尋ねてくる。
見知らぬ街で観光しながら待つしか無いだろう。
だが、この世界に観光という文化があるかは別だ。
「獣人族の多い街なら文化や生活スタイルも違うだろうから、それを見て回ろうか?」
「そうね♪ ワンちゃんが立って歩くなんて初めて見たもん♪」
「ウウク、それ本人達の前で言わないでね?」
ティーゼルさんは食べたらすぐに出かけるそうだ。
俺とウウクはお外にお散歩に行くことにした。
外に出て雪の積もった地面を踏みしめ、弱い太陽の陽射しを浴びる。
暖かくはないが、寒すぎないのでちょうどいい気候だ。
街の作りはウーベントと変わらなかった。塀に囲まれた大きな街に、公衆トイレ。
露天商と一部の木や石で出来た商店や専門店。
街のあちこちに飲食店もあり、様々な人が行き交う。
商人、ガラの悪い人、買い物中の親子、主人に付き従う奴隷に召使い。
ウーベントと違う点は街の中に獣人族が多いことだ。
7:3くらいの割合だろうか?
獣族に付く人間の小間使いも普通にあちこちにいる。
それに彩りも派手だ。どこで作っているのか、ビビットカラーの織物や飾りが店先を装飾している。
店番している獣族も陽気な感じだ。ラテン系っと言ったところだろうか。
俺とウウクは街並みを楽しみながら探索できた。
街の雰囲気も違うが、それ以上に食べ物が目立ち、肉料理の香りが食欲をそそる。
ニンニクや香辛料の匂いも至る所でしてきた。
ウウクはあれこれとウィンドウショッピングを楽しみ、俺はその後に続く。
買い物で嬉しいことが一つ合った。
獣族の体格は人間よりも大きく、ウウクに合うサイズの女性物の衣類が多かった。
なので男性向けを選ぶ必要がなく、綺麗で可愛い女性向けの服をいっぱい見つけられた。
ウウクも嬉しそうだが、俺も嬉しかった。
しかし、現金を我が家の秘密の場所に置いてきたので、手持ちの所持金が少なかった。
ウウクとは今度もう一度この街に来ようと約束をして、次回に買うものを物色し続けた。
商店街を歩き、ダウンタウンを抜けると、特徴的な模様掲げた建物を見つけた。
コンビニくらいの大きさの平屋で、石造りの建物に玉ねぎみたいな形のオブジェが乗り、そこに模様が描かれている。
あれは、おそらく教会だ。モスクのほうが近いかもしれない。
今まで宗教的なシンボリックな施設や建造物を見かけなかったので興味を持った。
「なぁウウク。あの建物見に行かないか?」
「良いけどあれはなぁに?」
「多分、寺院かモスクだろうな。ウーベントには無かったから珍しいって思ったんだ」
「ふーん。お祈りする所ってこと?」
「そうそう。どこでも宗教施設は頑張って作るから観光にはちょうどいいよ。一見さんにも親切だろうし」
「そうなの? じゃ、行ってみましょう♪」
俺とウウクは玉ねぎの王冠を見上げながら施設の扉へ近づいた。
扉に手をかけると難なく開いた。鍵はかかってない。
中に入ると土足で上がらないように靴箱が用意されていた。
俺達はそこにブーツを置き、絨毯の上を歩く。
天井は高いとはいえないが、オブジェの形に天井が立体的に窪み、真っ白い空間に金色で模様が刻まれている。
絨毯の毛織も深く、足を沈ませるように歩く。贅沢な作りだ。
祭壇の様な所にはロウソクと聖書のような本が置かれ、その奥の竜の彫刻が俺達を見下ろす。
竜信仰なのだろうか?
小さな生物や植物のレリーフに彩られた、仏壇の様な大きなケースに収められた金色の竜はとても神々しい。
「ウウクに似てるかな?」
「私はこんなに細長くないよ? 翼ももっと大きいもん」
「こんにちは。どうかなさいましたか?」
声のした方に顔を向けると、ゾウ? の様な獣族が緑色の衣装を着て立っていた。
モスクの別の出入り口から入ってきたようだ。
ゾウさんは大きかった。身長は俺より高い程度だが、横幅は今までの中で一番だ。でも、ゾウにしては鼻が少し短い気もする。ゾウではないのかもしれない。
「こんにちは。勝手に入ってすいません。失礼ですが、こちらはどんな施設でしょうか? 興味が沸いて入らせて頂きました」
「黙って入ってごめんなさい」
俺とウウクはその方に謝罪をしながら説明した。ゾウさんは優しい雰囲気を纏いながら近づいてくる。
「気にしないでください。ここは“敬いの場”です。君臨する竜種様に安寧のお礼と、我々全種族の教えを学ぶ場です。
人族がこちらに来るのはとても珍しい事です。ゆっくりして下さい」
ゾウさんが身につけている緑色の衣装は法衣らしく、ゆったりとしている。
裾や袖をユラユラと揺らしながらゆっくりと歩く姿は、とても幻想的だ。
「申し遅れました、私は“アッサビケシン”。獣人族のバク人。竜信仰の僧侶です。ご興味を持って頂き嬉しい限りです」
アッサビケシンさんは会釈しながら自己紹介をしてくれた。
ゾウではなく、バクだそうだ。どおりで鼻が短いはずだ。
「ご丁寧にありがとうございます。わたしはショウタ。隣はパートナーのウウクです」
「よろしくおねがいします♪」
「こちらこそご丁寧にどうも。竜信仰はご存知ではありませんか?」
アッサビケシンさんはにこやかに問いかけてくる。聞いても問題無さそうだ。
「はい。あまりこの土地の宗教や信仰は疎いもので。獣族の方々にもこの土地で初めて会いました」
「それは珍しい。この竜信仰は元々は人族の宗教から発展したものです」
「そうなんですか? どんな信仰を?」
「…そうですね…。
…簡単に説明しますと、モンスター達の中で頂点に君臨する竜種様達が、その下にいるモンスター達を支配して下さるお陰で、我々は生活ができる。それを感謝する。
そして、竜種様の加護の下で、人々は日々を営み、互いに思いやり、協力して、愛しあうことで天国へと行けます。この世界を作られた創造主様もそれをお望みです。
っと言った所です。どうでしょう? ご理解できますか?」
「創造主様というのことは…一神教…なのでしょうか? 何となく似ている宗派は私の故郷にもありました」
「そうです。神は一人だと考えています。その下僕たる者も居ますが、神がこの世界と私達を創造したと考えています。貴方の宗教も同じですか?」
バク人:アッサビケシンさんはクリクリとした可愛らしい瞳を輝かせて尋ねてくる。
その目は知的好奇心に溢れ、保守性や勧誘、差罰的なオーラは発していない。人との信仰についての理解と接触を楽しんでいる。
ウウクと俺はそれに答える。
「私のクニではね、お星様が神様なの。死んだらみんな星なって、“えーてる”になって、また生まれ変わるの」
ウウクも言語がかなり上達した。しかし、普段使わない言葉だとやはり子供のような喋り方だ。体が大きいのにこちらの言語は幼い。
小学校では児童も多く、その子達との会話がベースなのだろう。
「エーテル…ですか?」
「そうよ」
「……興味深いですね…。あなたの信仰と似たことを考える部族を、私も存じています」
アッサビケシンさんはエーテルについて知っているらしい。この星では始めてだ。
俺はそこに強い興味を覚えた。
「そうなんですか? どんな部族が?」
「私の故郷の大陸です。南の南、さらに東。船と陸路でここから数ヶ月。そこの土地の名前はありませんが、現地では“大地の心音”と呼ばれています。
そこに住む部族のゲガガ人という人族にはシャーマンが多く、
「
「さあ? 大事の息吹とか、星の命とか…そのように語っていました。私には、ちょっと理解できませんでしたが」
「そうですか」
「ところで貴方は? どのような神を?」
「いえ、わたしの故郷では沢山の宗教が入り乱れていました。一つの神様を崇拝して居るところもあれば、沢山の神様が居ると考えているところもあります。
しかし私自身は信仰というよりも、思想を大事にする宗教を教えられました」
「思想…ですか?」
「そうです。神もこの世界も、自分自身も、人の意識が創りだす産物にすぎない。
それらは全て無に等しい、と。 色即是空とか言いますね。なので、自意識の感情や欲望に囚われずに、悟りを開こうと努力します」
「……それはとても面白い宗教ですね。神やこの世界そのものから乖離しようと言うのですか?」
「いえ、そうではなく、人間は頭の中で不安や悩みや欲求が強いと攻撃的になったり悲観的になる。すると意識的に何かを想像し、何かに縋ってしまう。
それはある意味、自分自身に負けたと言えます。なので自分に負けないように強い心と、自分と他者を理解をする理性や頭脳を得るための修行を目的としています」
「面白い発想ですね! どちらの国ですか?」
「えーと、日本というのですが、ちょっとどこにあるのか私にも分からないのです。」 もとはインドだけど。
「そうですか…残念です。ですが興味深いですね。ぜひ一度行ってみたい…」
「あの、ところで…」
アッサビケシンさんの答えられない質問から逃げるために一つ尋ねた。
「わたしはウーベントに住んでいますが、人族の教会は見かけませんでした。なので、こちらの竜信仰が本来は人族の宗教という点がちょっとピンときませんが…」
「ああ。人族の宗教というのは遥か昔の話です。今は一部の獣族だけが大事にしています」
「人族は神や宗教を信じていないのですか?」
「そんなことはありません。部族や種族ごとの大小様々な信仰や思想は数多くあります。
文化も多種多様。人族も獣族もアミニズムやシャーマニズムを大事にしているところも多くあります。
ここも昔は大事にしていました。それが獣族にも伝わり、我々の信仰と融合しました。
しかし、本来あった信仰の形は、人間は神様をモデルに作られ、人間は神に最も近いとされ、使徒たる人間の“神の子”が奇跡により生誕したとされました。
“神の子”は奇跡を使い、人々を助け、差別を禁止し、神の教えを伝えました。死後は奇跡で復活するとされました。
のちに“神の子”の弟子たちが教えを広め、復活の日を待とうとしました」
何となくどっかの宗教に似ていると感じる説明だ。
「ですが、人族が最も神に近く、上位に位置する考えを広めた為に、獣族への差別を作り混乱が訪れました。人々を助け、差別をしない本来の教えからかけ離れているからです。
しかも神に最も近いはずの人間が、モンスターにもクリーチャーにも歯が立たない。獣人族にも肉体的には劣る。そんな人間があらゆる生命の頂点に君臨する理屈は不可思議。
その上さらに復活するはずの“神の子”のお墓と埋葬された死体まで発見されました。
街の真ん中で、名前と没年まで刻まれて。
なのでその宗教は詐欺扱いされてしまい、次第に廃れ、否定されてしまいました」
オチが酷い。復活する死体が見つかったって、エジプトのミイラみたいだ。
「ですが、元来の経典と教えは素晴らしいことばかりです。他者を助け、苦境は我慢する。それが争いを生まず、幸福に繋がる。そのための行動を各自が考える。それは真理です。私たちはそれを守っています。」
アッサビケシンさんは説明を終えると竜の金の彫刻にお祈りを始める。
俺とウウクは黙ってその姿を観察した。
イスラムや仏教のように跪(ひざまづ)き、頭を下げて祈る。
絶対的な強者が君臨しているからこその調和なのかもしれない。
お祈りの後に俺達もお祈りの仕方を教わり、真似してやってみた。
アッサビケシンさんは入信の誘いなど一切せずに、興味を持ってくれたことを感謝しながら教えてくれた。
一通り終るとこの街の事を尋ね、お礼を言ってモスクを後にする。
とても優しい人だった。
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