第27話 謎

ep5-4 May / 6 / T0059





 俺達が宿屋に戻ると女将さんから伝言を伝えられた。


 兵士が来たらしく、明日の午前中に守備隊の基地に来て欲しいとのこと。

 仕事が速い。





 食事を頂き、歯を磨き、寝る支度をした。


 ウウクも衣服を脱ぎ、下着姿になった。


 俺は何となく部屋にあった一脚の椅子に座って借りた木のカップに焼酎を注いで飲む。





 あまりにも都合がいい。


 俺は頭は良い方ではないが、それくらいは分かる。



 物語だと、こんな展開だと国家組織が暗躍している。


 CIAかFBI、もしくはMI6。共産主義者の陰謀。それらに属さない秘密組織。


 さらには未来の特務機関。遥か古代から生き続ける地底人。別の世界、次元から来た異界人。


 いくらでも想像できる。



 でも、最も現実的なのはあの男だ。


 自称:タコ型金星人。


 奴は死んでいなかった。


 間違いない。


 きっとあれも演出で、今もどこかでこの調査実験を続行している。


 そうなると、俺達は動物園か調査施設で様々な状況に放り込まれ、その反応を見られているのだろうか?


 様々なテストと実験を重ね、記録し、それを次のステップへと進める。


 用が済めば故郷に帰す。もしくはズドンだ。


 どんな話でもそうだ。

 

 考えると不安は拭いきれず、悪い想像ばかりする。


 これが異星人の襲来で、惑星の上空から巨大な円盤型飛行物体が電子パルスレーザーをぶっ放してくる。


 海水や、森の土や木々が、飛行物体の中へトラクタービームで吸い込まれていく。


 危機に瀕する人類。迫り来る恐怖。


 そして、立ち上がる人類。


 街は昆虫型異星人に支配され、人間は虫けらのように殺され、捕食される。時には生かされる。


 街の中に侵入したデルタフォースが、対異星人用の特殊弾頭をアサルトライフルで撃ちながら異星人を駆逐し、敵の無線中継拠点を爆破する。


 激戦の中、地球防衛連合軍は仲間が持ち帰った敵の機密情報と信号の解読で、異星人のマザーベースのシステムを解析する。


 コンピューターのクラックとハッキングの為に、マザーベースとなる上空の巨大飛行物体への侵入を試みる。


 鹵獲した敵の円盤の操縦。


 発覚し、援護する味方機のドッグファイト。既に敵のバリアシールドの無効化はできている。


 潜入してからの、未知の生命体との遭遇と協力。


 次々に倒れていく仲間。


 一番の相棒が、ここに来る前に結婚したばかりの最高のパートナーが、目の前で崩れ落ちる。


 俺は死ねない。俺にだって家族がいる。


 危機一髪の連続の中、足手まといの科学者がついにハッキングに成功する。


 システムダウンする敵のファックな機械。ざまーみろだ。


 とうとう敵の母船への自爆装置を起動させて、後は逃げるだけ。


 助けた毛むくじゃらのデカいアニマル野郎が自分の船に俺達を乗せてくれる。


 脱出し、直後に爆破するクソったれなゴキブリ野郎どもの船。


 盛者必衰だ覚えてやがれ。

 

 拍手喝采に湧く地球人類。


 だが、迫り来る真の恐怖をまだ誰も知らない…。



 そんなスクリーンなら俺は安心して見てられる。


 ポップコーンとダイエット・ドクターペッパーを飲み、隣のウウクと鑑賞する。


 ウウクはアメリカ人みたいに「Wow!」とか「OH MY GOD!」とかオーバーリアクションをするかもしれない。


 楽しい映画館の後は、二人でコーヒーショップに入り、談笑する。


 俺はアクションやサスペンスが好きだが、彼女はコメディやヒューマンドラマの方が好き。


 次は何の話題作を一緒に見に行くか?


 コーヒーショップを後にして、ウィンドウショッピングを楽しみ、欲しかった靴を買う。


 夕飯には会席料理を食べて、彼女は蓮根海老真丈揚に喜ぶ。


 のんびり手を繋ぎながら歩いて帰宅し、広くはない身分相応のアパートメントで熱いシャワーを浴びる。


 彼女が浴びている間に部屋を暗くして、ムードの良い音楽を流す。彼女の好きなピアノ曲集が良いだろう。


 出てきた彼女は輝くほどの美しさと、神秘的で妖艶な可愛らしさだ。


 俺は彼女を愛した。


 ベッドの中で。彼女を感じながら、彼女の愛も感じながら。





 「ショウタ?」


 「あぁ、ごめん。なんでもないよ。寝ようか。」



 有りもしない、起こりえない想像と夢の世界から、現実の世界に戻ってくる。


 大きな木製のベッドに入り、カーテンの無い手作りで透明度の低いガラス窓の外は真っ暗だった。


 薄暗いランプの火を消し、スマホでウウクの気に入った歌の無いクラシックを流す。


 月明かりでぼんやりと見える室内は温もりはあるが、粗末で、原始的だった。


 これが俺の現実だ。もうあの世界に帰れない。



 きゅっ



 横を向くとウウクの瞳が見える。


 心配してくれている。その胸に俺の腕を抱いて。


 そのエメラルドのアイカラーへ、また吸い込まれる。


 俺は覚えてる。彼女の愛を。


 これがあるなら、この現実が愛せる。


 あの世界が夢の世界だったんだ。





 ウウクにキスして、抱きしめて、また愛の鼓動を感じた。


 胸に吸い付き、唇を貪り、いつもよりも甘い蜜を吸い続けた。


 それが俺の体に力を注ぎ滾(たぎ)らせる。


 まるで海の中のイルカになったように体を寄せあって愛しあい、愛していると語り合った。


 何度も達し、津波に揉まれる中でその流れに身を任せた。





 俺は決めた。俺も守ろう。


 人を殺める覚悟は実感できない。


 だが、訓練は出来る。


 みんなそうしてる。


 拳や肉体、武力や権力はまるで無い。


 知識も経験も無い。


 でも俺にはアイツがある。


 あいつが。





 俺はこの時、引き金を引く決意ができた。





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