第9話 吊り橋効果

ep.2-4 day / 1



 前回のあらすじ


 異星人の物品は何でもグロかった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 結局、銃は2つとも残念な結果となった。


 銃じゃないのだろうか?


 するとそこにウウクが帰ってきた。



 「ほらショウタ。後は綺麗に乾かせば大丈夫だよ」


 「お疲れ様ウウク。本当にありがとう」



 山猫の濡れた毛皮を手に持ってウウクが戻ってくる。


 ウウクは木の枝と皮を結び、枠を作って毛皮を干し始めた。

 俺は焚き火の近くに座りその様子をぽかんと眺めていると、ウウクは俺の側のポンコツ機械に気がつく。



 「ねぇショウタ。それはなぁに?」


 「これ? 武器かと思ったら違うみたいなんだ。なんなんだろうな?」



 ウウクはショットガンらしき物を手に取って触り始める。

 ジロジロ見て触って動かそうとするが動かない。



 「なんで武器なの?」


 「地球にはよく似た武器で“銃”ってのがあるんだ。見た目はそっくりんなんだよ」


 「どんなふうに使うの?」


 「その中で火が爆発して、鉄の塊が飛び出てくるんだよ」


 「でも、出てこないよ?」


 「そもそも弾がないし、変な仕組みだし、まともに動かないみたいでさ。お手上げ。」


 「どこが動くの?」


 「こことか」



 そう言って俺は、ウウクが手にする機械の引き金やポンプの部分を指差す。

 ウウクも引き金に指をかける。だが、引き金は動かない。



 「ホントだ動かない」


 「? いや、ソイツの引き金は動くんだけど、中身が生物みたいなんだ」


 「でも、動かないよ?」


 「そのレバーを右に回してごらん」



 そう言って本体の左側を指差す。安全装置らしきものだ。セーフティがかかっているのだろう。


 その時に見えたメーターのランプが赤くなっていた。俺が触った時は緑色に光ったはずだ。



 「ねぇ、やっぱり動かないよ?」



 そう言ってウウクは不満そうな顔をする。珍しいおもちゃだと思っているのだろう。



 「変だな? 貸して」



 受け取り、ランプを見ると光は緑色に変わる。安全装置のレバーも動いた。



 「ウウクもう一回持ってみて」



 手渡されたウウクがもう一度持つと、銃のメーターのランプは赤くなった。そしてやはり動かない。

 俺がもう一度持つとランプは緑に変わり引き金もレバーも動く。



 「…もしかして、さっきされたのは登録?」



 さっきの光と音は何かの登録に使ったのかもしれない。



 「どうしたの?」ウウクは興味がなくなったのか、俺が焼いた肉に向かって移動した。


 「わからない。ただ、覚悟を決めてこいつを使わなきゃ道具は使えそうにないな」



 俺は足元にある、最も使える可能性が高く、一番使いたくないタブレットPCに目を向けた。

 ウウクはそんな俺を見ながら肉を頬張っていた。



 「それってあの時のでしょ?」



 ウウクが言ってるのは俺達が初めて出会った時に、俺が落としたタブレットのことだ。



 「多分同じ物だと思うよ。これのおかげで俺はウウクと話せるようになった。俺になんか手術をしたらしいから、使えると思うんだ」


 「でも、痛いんでしょ?」


 「滅茶苦茶な」


 

 だから嫌なのだ。



 「なら私がやってみようか?」


 「やめときなよ、どうなるかも分からないから」


 「大丈夫♪」ウウクはそう言いながらタブレット拾った。


 「いや、俺がや」る。と言おうとしたらウウクは手を乗せてしまった。



 しかし、何も起きない。ウウクにも機械にも変化は見られない。

 …セーフ。



 「…私じゃダメなのかな?」



 ウウクは何も起きなくて少し残念そうだ。



 「あいつが言ってた処置がされて無いってことだな」



 ウウクへの被害が無いことが分かり安心する。

 よし。覚悟をきめろ。男は根性、やせ我慢。



 「俺がやる」



 そうして俺が手乗せた瞬間に、タブレットは光った。同じ緑色。

 瞬間的に脳に知識が流れ込むのが分かった。でも、前回ほどじゃない。


 多分前回のは情報量が多かったんだ。


 このサバイバルキットは、この惑星専用にイソギンチャク男が用意したものだ。


 タブレットの機能はそれらの使い方と用途の説明の一覧。

 この惑星の言語学習機能。

 それとバッテリーの充電機能があった。


 それだけだ。


 それ以上の情報は無かったし、救援要請の機能も無かった。

 言語学習は情報量が多いので今は拒否した。


 思ったより呆気無く終わり、ホッとしたと同時に残念だった。


 そう思うと意識が薄れた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 頭が痛かった。


 でも不思議な事に、頭の下と顔の表面は気持ちよかった。


 頭痛はかき氷を食べ過ぎた時みたいな感じだが次第に薄れていく。


 そしてとても良い香りがする。


 目を開けると真っ暗だった。

 いや、目の前に何かがあり、顔に乗っているだ。


 手を動かし、それを触って安心した。


 なんだ、ただのおっぱいだ。

 


 「気がついた?」



 ウウクの声だ。膝枕してくれているらしい。



 「あぁ、ごめんな。 …どれくらい寝てた?」


 「どれくらい? うーん、真夜中になるくらいまでかな?」



 日暮れに使ったから、2時間以上だろうか。

 時計がないからよく分からない。



 「迷惑ばかりでごめん」


 「そんなこと無いよ。 こんな時にショウタが居なかったら私のほうが辛いもん」



 その一言は堪らなく心地よかった。



 「とりあえず、道具の使い方が全部分かったよ」


 「すごいね。 何か、私の雷なんかより、そっちの方が魔法みたいでびっくり」



 ウウクはそう言って笑う。笑った動きにあわせて胸が顔にビートを刻む。



 「なぁ、ウウク。吸っても良い?」


 「♪ どうぞ」



 ウウクはダボダボの入院服をたくし上げ、胸だけを露わにして俺の口に運んだ。





 ちゅっちゅ


 ちゅぱちゅぱ





 ちゅっ… 「なぁ、ウウクの故郷の男性ってどんな感じ?」



しばらく胸を味わっていたら、もっとウウクの事が聞きたくなった。



 「うーん。いつも空を飛んでて、喧嘩したり、縄張り争いをしたり。後は寝たり、狩りをしたり。食べられちゃったり」


 「食べられちゃうの?」


 「うん。私達よりも大きい奴もいたからね」


 「小さい奴は?」


 「もっといっぱい。だけど、この姿になると敵が増えすぎるから男はなりたがらないの」


 「電気や火を使えても勝てないの?」


 「無理無理。力が違いすぎるよ。 だから男は群れを守るために滅多に変身しないの」



 そう言いながらウウクは俺の頭を撫でてくれる。


 俺は胸を甘噛みしたり、唇で吸い付いたりする。



 「女もそうだけど、男も立派な成体を目指して生き続けるの。でも、私は珍しく成体になる前から体格が良かったの」


 「そう言ってたね」


 「うん。 だから、私のお婿さん候補はいっぱい居たんだけど、お婿さん候補になる人達は私に負けたくないから、よく勝負を挑まれたの。負けなかったけど」


 「負けなかったの?」


 「悔しいじゃん?」



 そう言ってウウクはまた笑う。



 「みんなプライドがあるから勝てない奥さんは選ばないの。…でもね、私は手が使えるこの姿の方が好きだったの。翼は無いけど、鱗も無いから肌は柔らかいし、感覚も良くなるの」


 「感覚って?」


 「触った感じとか、食べた時の味とか。それに、この姿じゃないと器が作れないの。」



 そう言いながらウウクは手で何かを作る仕草をし始めた。



 「器って? そういえばなんか言ってたね」


 「土を水で練って、形を整えて、それを焼いたら食器やお鍋になるの」


 「陶芸ってやつだな。地球でもあったよ」


 「本当? 土を練ったり、スベスベしたのを触るの楽しいからさ。ずっとやってた」



 そんな話をしながらウウクは少し悲しそうに言った。



 「でも、お父さん達はあんまり喜ばなかったの。竜として恵まれているのに勿体無い。って」


 「…そうか」


 「それで、またお婿さん候補が決まって、その為に竜になって、勝って。その後にショウタに会ったの」


 「無敗のドラゴン女…その御方の趣味が陶芸か…」


 

 なんとも言えないアンバランスにこっちが笑いたくなる。



 「素敵でしょ?」


 「本当に。素敵な女性だよ」



 身を起こすと、ウウクが俺の顔をじっと見つめる。


 それに応えるように俺もウウクの瞳を覗き込む。



 「だから私ね、この姿の私を好きになってくれる人が良かったの」


 「魅力的だからね」


 「男の人もね、同じようにこの姿で居てくれる人が良かったの」


 「それは好都合だ」


 「それでね、優しくって、何かあったら助け合える人が良かったの。

   それから…」



 それからの先は、俺の口の中に消えた。



 おれはイソギンチャク男が提唱した「人間は危機的状況・特別な境遇になると恋愛関係になる」という調査結果が正しいことを、身をもって実証した。



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