第24話 初めてのデート

ep.5-1 May / 4 / T0059





 二人で溶け合った。


 それが最後の記憶の中の自分の独白だった。


 その二人も、今はまどろみの中。

 

 ただ、背後からウウクのおっぱいが押し付けられているのが分かる。


 その腕も俺の前に回されているのが分かり、次第に体を撫でられている感触に気がつく。


 目を覚ます前に分かった。ウウクが俺の息子を可愛がっているのだ。


 「ウウク」


 俺は目を瞑ったままウウクに呼びかけた。


 「おはよう」 


 俺の背後からウウクが優しく返答してくれた。


 「おっぱいちょうだい」


 「うん♪」


 お互いに恥ずかしがる必要なく、好きな事を求め、与え合えた。


 俺は仰向けになり、ウウクはその側で軽く身を起こす。左手は俺を優しく触り続ける。


 口元に届いた胸の先を口に入れ、優しく吸う。俺は左手をウウクの腰に回し、右手はウウク空いてる胸。


 そのまま朝の時間は流れた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 屋外の公衆トイレに行き、汚れた桶の水を捨て、井戸で冷たい水を浴びて、タオルを濯いだ。


 ウウクを拭くためのお湯をもらいにフロントに行くと女将さんがいた。


 女将さんは俺に昨夜と同じ笑顔を向けてくれる。



 「おはようございます。ゆうべはお楽しみでしたね」



 出たよ。

 本当に言う奴初めて見たわ。


 昨夜腰を振っている時にもしかしたら。とも思ったし、何かお告げの様なもの感じていた。



 「えぇ、まぁ。で、ちょっとお湯がほしいんですけど」


 「良いですよ。もし良かったら、明日の朝はシャワーにします? 一緒に入るならサービスで一人分の料金で良いわよ?」


 「あ、いいんですか?」


 「構わないわよ。他のお客様も同じ様なもんだし、冬なんか私達でも部屋から出てこないもの」



 あぁ、っと納得した。この土地はあまり性に抵抗がなく寛容なんだ。

 道理でなんの後ろめたい空気も無いわけだ。


 寒い土地で娯楽も少ないから夫婦や恋人の健全な行為と認識されていて、きっと変に隠すと不思議に思われるのだろう。



 「じゃ、今日の朝は体を拭ける程度の量を下さい。明日からの朝はシャワーで」


 「分かりました。今日の朝の分はお湯はサービスでいいですよ。でも、こんなに綺麗好きなお客さん初めてで嬉しいわ」



 そう言いながら女将さんは裏へと消えていった。



 ……。シーツはあまり汚さない様にしよう。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 

 部屋でウウクの体を拭いてあげていると、ふと気が付いた。


 タブレットにはバッテリーの充電機能が有った。


 俺のスマートホンを充電できるのでは?と。


 身なりを整えてから、タブレットの下部にある粘土のような所にケーブルをぶっ刺した。

 するとスマホの画面に電池の充電中のマークが出てきた。


 ラッキー! 超便利。





 その後に朝食を取ってから街に出た。


 念の為ブラスターは持っていく。


 今日は奪った衣類やナイフなどを処分して、現地の服を買おうとウウクと相談した。


 まず、服屋に行った。女将さんに教えてもらったお店を探し、辿り着く。


 来たのは衣類関係の露天商の店だ。女将さん曰く、信用できるらしい。

  

 おばあさんと息子さんが店に立ち、女将さんの紹介で来たと告げると喜んでもてなしてくれた。


 ウウクのサイズが入る服を用意してもらう。

 すると男性のマッチョな人向け用の服が体格と胸の大きさにマッチした。

 髪の毛の事を話し、隠せる上着が欲しいと告げると、茶色の長いローブをお薦めしてくれた。


 その姿はどう見てもジェダイの騎士だが、それにした。


 俺は羊毛と麻の混合シャツと布のズボンと、上着の革製のポンチョを買い、さらにお互いの下着を購入した。


 奪った男達の衣類を引き取るというので、お店の裏で着替えさせてもらい、ついでに着付けもしてくれた。

 約60ディルのところを、買い取りで40ディルにしてくれた。こんなもんだろう。



 ついでに、かっぱらったウウクのブーツを見てもらったが、ブーツは新品で、ウウクの足のサイズにもバッチリだとお墨付きをしてくれた。

 ハデムは下ろしたてのおニューの靴を履いてきたらしい。 

 

 俺もニューバランスのスニーカーを履いていたが、目立つのでモカシンみたいな縫った皮の靴を買って履いた。


 こうしてウウクは男物の服の上にジェダイのローブを羽織った姿になり、俺は皮の靴と胸元を紐で結んだ布の服とポンチョを重ね着した現地民の格好をした。

 手には売り払う予定の荷物と、お互いの着替えの入った布袋。





 その後、守備隊長のムッサウィルさんに紹介されたお店に行く。


 街の中心の近くで、数多くない一軒家の店だ。ドアを開けるとカランカラン、とベルの音がした。



 「いらっしゃい」



 白髪の生えたおじさんが奥に座っている。

 偏屈で頑固そうな感じで、シャツを来てズボンをサスペンダーで吊るして履いている。

 

 店は広いが、店の中には棚が並び、通路が狭い。ガラクタだらけに見える。 


 入店した直後に、ガチャンッッ、っと後ろの扉が勝手に閉まった。よく見るとドアにヒモが付けられ、重りで閉まる仕組みだ。

 

 

 「こんにちは。この店で買い取りをしてくれると聞いたんですが?」



 俺が尋ねると、おじさんは椅子から立ってカウンターに手をかける。



 「やってるよ。何を買うんだい?」 そう言いながら少し散らかったカウンターの荷物を端に寄せた。


 「槍とナイフと弓矢と、雑貨が少々…どうですか?」


 「良いよ。見せてみな」



 ウウクと俺は、持ってきた男達の荷物をカウンターに置く。


 奪った槍の一本は使うかもしれないので残した。

 それ以外の雑貨はバイオパックの中身に比べれば役に立たないので要らない。

 槍、弓、ナイフ、水筒、毒の軟膏、医療品、寝袋、ブーツ…


 それらを全部渡すと、買い取れないものは端に寄せられた。持って帰るか?っと聞かれたが、要らないと伝えると引き取ってくれた。


 すると選別していたおじさんの手が止まる。



 「……坊主、これ何処で手に入れた?」



 おじさんの手にはホッキ貝のケース。あの射手の男が持っていた毒の軟膏がその手にあった。



 「貰ったんです。危ないし、使い方も良く分からないので、売ろうかと」


 「これは一般販売されてないぞ。どこで誰に貰った?」


 「数日前にギルドのベンリーが、プクティス狩りに使う為に用意したみたいです。でもその前に持ち主が死んで、俺が貰いました」


 「お前がやったのか?」


 「結果的にはそうなります」


 「……お前の身分証明はあるか?」


 「今はないですが、保証人はムッサウィル・ガーランドさんになる予定です」



 おじさんは俺の目を見ながら、貝の中を開けて確認する。


 

 「分かった。少し待てるか? ムッサウィルに確認を取る」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 店主のおじさんが使いを飛ばし、店内で待っていると、保護官を努めてくれた兵士のフセインさんが来てくれた。


 フセインさんが事件の説明をし、ついでに身元も保証してくれた。


 フセインさんにお礼を言うと彼は毒の軟膏を持って帰った。

 俺達はカウンターの前に椅子を用意され、店主のおじさんと一緒に三人で椅子に座った。



 「手間を掛けさせたな。だが、品物が不味い。怒らないでくれ」


 「怒ってないですけど、そんなに強烈なんですか?」


 「人間にも強烈だが、クリチャーにも抜群に効く。プクティスでも量によっては死ぬ」


 「結構凄いんですね」


 「クリーチャーに効果のある毒は少ない。しかもあれは外傷効果でも内服でも効く。禁止されてる」



 ……ウウクに当たらなくて本当に良かった。



 「でも、こちらも知らなかったとはいえ、迷惑をかけてすいません」


 「いや、あんたも大変だったんだな。気にしてないさ。で、申し遅れたが俺は“ティーゼル”だ」


 「自分はショウタです。こちらはウウク」

 

 「そうか。俺はここの商店組合のギルド長だ。何かあったら相談しなさい」


 「ご親切にありがとうございます。ちなみに、ここって何屋さんですか?」


 「よろず屋と、依頼所。後は、質屋だな。俺が窓口になって、作ってほしいものを街の鍛冶屋や商人に卸させたり、作らせたりしてる。まぁ、なんかあったら相談しろ。彼女の指輪とかでも大丈夫だ」



 そんな見た目に反する小粋なことを真面目な顔で言ってくる。


 聞いてるこっちが恥ずかしくなった。


 

 

 買取額は18ディルと5セント。ほぼ武器だけの値段だ。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 一通り終わった。


 なので、ウウクと一緒におデートをすることに。


 一緒に手を繋いで、散歩をする。


 知らない街を二人でのんびり歩くのは初めて。ウウクもこの街で初めて楽しそうに話をする。


 服屋もあった商業区画の露天商の付近で品物を眺め、ウウクにお金の仕組みを教える。


 納得出来ないようだったが“はじめてのおつかい”を何度かしてもらい、戦利品のパンや果物を二人で食べた。


 ニコニコしながら食べてる姿が嬉しくてこっちもニコニコしてしまう。


 不思議な事にモスクや教会の様な施設が見当たらなかった。


 ある意味では最も観光地にふさわしい施設だが、こういう土地でそういう信仰がないのに違和感を感じた。


 そんな観光気分の散歩をしながら、ウウクに分かる範囲で説明を続けた。


 今まではなるべく黙って俺の側についていたようだが、それでもこの世界の物品が珍しい。


 俺には過去の世界に来た気分だが、ウウクは未来の世界に来たような気分で、お互いに知らないもの、推測したものを言い合った。


 そして休憩できる場所を場所を探しながら街を歩くと、一件見慣れた店構えの店がある。


 パブだ。

 あれはまごうことなきパブだ。


 色ガラスまで使い、演出されたその店構えに魅せられて、俺はウウクを誘った。 



 「ウウク、あの店に入っても良いかな?」


 「あのお店は何屋さん?」


 「お食事屋さんだけど、お酒を飲むのが多分目的の場所」


 「おさけって?」


 「俺の荷物の中に透明の瓶があったの分かる? 水みたいなのが入ってたガラス」


 「しょーちゅー?」


 「そうそう。あれ飲めばよかったな。っで、あれとは違うのが飲めるかもしれないの」


 「ふーん。良いよ。入ってみよう」



 石の土台の上に立っている木造の建物は、一階建てで、コンビニくらいの大きさだった。


 俺の先輩や上司は、俺に酒を覚えさせる為にあちこち連れ回してくれた。

 本格的なパブは日本には少ないが、幾つかあり、本場のパブも写真やテレビで見た。


 俺は居酒屋の喧騒や、バーの落ち着きよりも、回転効率や注文を押し付けないパブが好きだった。

 パブが好きだと言ったら、友達にフィリピンパブに連れて行かれ、言葉の通じないブスなフィリピン人とカラオケさせられた時は腹が立った。


 それはさておき木製の大きな扉を開けると、そこには樽、四足、一本足などのありあわせのテーブルに該当するものが適当に並んでいた。

 

 一応計算されているのだろうが、そうは見えない。

 既に店内に居る多くの客は皆それを囲んで座っている。


 思ったよりも乱雑だが、それも個性として気楽に飲めそうな雰囲気だ。


 男性のグループやカップルがテーブルと椅子席を先に使っていて、立ち飲みのカウンターだけ空いていた。


 それも一興と勇み足で一番奥のカウンターに向かう。

 カウンターの奥にポジションを取り、ウウクを右側に隠すようにして、その左隣の俺が注文を取る。


 店員に目配せして手を上げると、黒髪の女性がこちらに来てくれる。



 「こんにちは。この街は初めてなんですが、ここは何が飲めますか?」


 「あらそう! ここのパブならビールがいくつかと、スピリッツ、少しならワインもあるわよ」


 「スピリッツはなにを?」


 「ウィスキーとジン、ウオッカ、ブランデーがあるわ」


 「俺はビールで。一番売れてるの下さい。カクテルはありますか?」


 「カクテル? ごめんなさい。そのお酒は知らないし、ここには無いわ」



 あれ?ここまでスマートに行ったのにな?

 


 「じゃぁ、白ワインを下さい。グラスで」


 「はぁい」



 女性が下がると、ウウクが俺の袖を引っ張った。



 「ねぇ、何を話したの?」


 「注文したいけど、何があるか分からないから。でも、大体一緒だったよ」


 「お酒って美味しいの?」


 「俺は好きだよ。体質的に弱くないし。弱い奴は舐めるだけでダウンするけど」


 「ふーん? でもここは賑やかだね。みんな楽しそう」



 ウウクはキョロキョロと当たりを見回す。


 男グループは下ネタとあの時はああだった〜、などと馬鹿笑いし、カップルは額をくっつけるように話し合っている。


 典型的な酒場の空気だ。歴史や世界が変わっても、人間は大して変わらないことを教えてくれる。



 「はーい、おまたせー」



 すると店員の女性がビールとワインを木のカップに入れて持ってきた。グラスでは無いらしい。 



 「じゃ、ウウク。乾杯しよう」


 「? かんぱい?」


 「お酒を最初に飲むときは何かに感謝しながら…グラスをくっつけるんだよ」


 「そうなんだ」


 「うん。じゃぁ、二人の出会いと無事に乾杯」



 そう言いながら俺がカップをウウクの方に押し出すと、ウウクはカップにカップをギュッとくっつけた。

 

 ちょっと違うが俺は嬉しかった。


 飲んだビールは日本のとは違い、少し癖のあるものだったが、美味しく飲めた。

 ウウクも初めての白ワインをくんくん、と匂いを嗅いでから舐めるように飲み始めた。



 「どう?」


 「……甘いけど、甘くなくて不思議な感じ」


 「ちょっと味見させて」



 そう言ってウウクのワインを少し飲んだ。まぁ、安物のワイン程度の感じだろうか?

 ウウクも俺のビールを、グビリと口に含んだ。


 すると、顔をしかめる。



 「あぁこりゃ、チェイサーが欲しいな。すいませーん」



 俺が店員の女性を呼んでいる間に ウウクは口の中のビールを飲み切る。



 「ショウタぁ。これ、美味しくないよぉ」


 「いや、慣れると美味しいけど、慣れないうちはそんなもんだよ」



 女性に手早く水を頼み、ついでにつまみを尋ね、炒った豆とジャーキーとチーズをお願いする。


 酒を飲むのに空きっ腹は良くない。


 ウウクは貰った水をグビグビ飲むと、先に来たジャーキーを食べ、ワインを飲む。


 それを見ながら俺も豆とチーズをつまみながらビールを飲んだ。







 ウウクはそれから俺に合わせてワインを二杯おかわりして、酔っていた。


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