第29話 新しい生活の始まり

ep.5-6 May / 7 / T0059





 俺とウウクは帰りにパンとワインとチーズと果物、その他食料品と雑貨を買って帰った。


 俺はバイオパックと重い物。ウウクは俺のバックパックと軽い物を持っている。

 手を繋いで歩く俺達は若い夫婦に見えるだろうか?

 見えていたら。多分否定しないと思う。



 「着いたよショウタ♪」


 「な。今鍵を開けるよ。開け方教えるから見ててくれる?」


 「うん♪見せて♪」



 鍵を開け、中へと入る。


 この世界は土足が基本だが、この家は一部靴脱ぐ所を作ろうと感じた。


 入ってまずバイオパックの中から【超発光菌灯】という生物製ライトを取り出す。 

 これは発光する微生物のランプで、使い方と性能自体はLEDと全く変わらない。

 それが家の中を途端に明るく照らしてくれる。



 「じゃ、ウウク。これが竈(かまど)。蓋を開けて、火をつける。この上で煮炊きをするから火を付けてくれるか?」


 「良いよ♪ショウタはどうするの?」


 「俺はまず水の準備とご飯の準備をするよ。お願いね。」


 「はーい♪」



 ウウクは既に切って用意されている薪を竈(かまど)に入れ始めた。火を出せるウウクには楽勝だ。

 手頃な竈(かまど)で、鍋なら4つは置けそうだが、非常に熱いので危険だ。


 俺は流し台の近くの樽に水を入れる為に、バイオパックからろ過ポンプを取り出して外に出る。

 普通なら井戸から汲み上げ、重い桶を持って往復するが、俺達にはそんなこと必要ない。


 ろ過ポンプの吸水口の蛇腹ホースを伸ばすと、伸び続ける。動物の腸に似ているそのホースは薄くて強靭だ。グングン伸びる。

 井戸の中まで伸ばし、そのまま伸ばしながら家の中へ。樽の中へ排水口を入れて起動させるとジャボジャボと水が出てくる。


 簡易水道だ。

 水を貯めながら鍋に水を汲み、ウウクに渡す。お湯が欲しい。


 続けて湖で作った干物を竈(かまど)の上に乗せ、ウウクに焼いてもらう。

 フライパンになるような物を買わなければならない。生活必需品が当面の課題だ。


 水が貯まるとポンプを止め、ホースを縮ませる。

 鍋のお湯に肉とオートミールを入れ、塩や売っていた香辛料を混ぜる。

 出来上がりを買ってきた木製の食器に装ってテーブルに並べたら完成だ。


 

 「ウウク、お魚どう? 傷んでないよね?」

 「うん♪大丈夫♪」



 そう言ってウウクがお皿によそって持ってきてくれた。



 「即席の簡単なのだけど良いよね?」


 「平気だよ。私、パンもチーズも大好き」


 「それなら良かった。では!」


 「「 頂きます! 」」





 食後は備え付けのソファに座ってワインを飲んだ。


 店員さんに聞いたオススメの赤ワインを小さな木の樽で買った。

 それを木のカップで二人で飲む。

 木と布のソファには毛皮が敷かれ、座る体を労ってくれる。


 俺もウウクも寄り添うようにしている。

 ウウクは少しづつ飲みながら、また体をクニクニと動かし始める素振りをし始めた。



 「またムカムカする?」


 「なんか…もやもやして背中が痒い感じ」


 「じゃ掻いてあげるよ」



 俺は隣のウウクの背中に手を入れて背中を掻く。ウウクは気持ちよさそうに俺に背を向けている。



 「ふ〜…右ぃ、 そこそこ。 あぁ、いい気持ちぃ。こんなお家があるとやっぱり良いね」


 「ホントだな。まさかログハウスが我が家になる日が来るなんて思いもしなかったよ」


 「ね! ここは何でも丁寧に作ってて凄いよね。 …ねぇ、ショウタ。おっぱいもお願いできる?」


 「良いよ。喜んでやらせてもらうよ」



 ウウクは背を向けたまま上着を脱ぎ、そのまま後ろに倒れてきた。

 ワインをこぼしそうになったのでカップを持っていない方の手でウウクの背中を押さえ、カップを床に置く。小さなテーブルも用意が必要そうだ。


 俺にもたれ掛かったウウクの体の大きな胸を、後ろから両手でゆっくりと揉む。


 胸をこね、ぷにぷにの感触を存分に手に伝えながら楽しむと、ウウクはまるで温泉に浸かっているようにリラックスをする。


 その胸は育ちに育ち、グラビアで見たJカップを超えるほどの大きさになっていた。


 他者の存在を一切感じない、密室で二人きりの空間が安堵感を高めてくれる。

 扉の鍵もカンヌキも閉められ、ランプの光量も落として今はオレンジ色の光をぼんやりと放っている。

 竈(かまど)の薪がパチパチと、弾ける音と外で鳴く虫の音色だけが聞こえる。


 ウウクの胸を揉み、胸の根本から隠れるように先端が潰れた胸の頂上に目掛けて搾るようにマッサージを繰り返す。



 「う~ん♪ 最高♪」



 彼女がドヤ顔で喜んでいる。



 「喜んで頂けて何よりでございます。」


 「後でショウタのも搾り取ってあげるね♪」


 「はい。よろしくお願いします。」


 「ねぇ、ショウタ。ちゅーしましょ♥」


 「はい。しましょう」



 ウウクは俺に背中を預けたまま首をひねって横を向く。

 俺はその彼女を抱きかかえ、支えるようにしたまま彼女の唇を迎えに行く。


 ニヤニヤと嬉しそうに笑ったままの彼女とキスを繰り返した。

 

 こんなにご機嫌な様子のウウクをみるのは初めてだった。

 


 新しい生活の始まりだ。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





May / 8 /T0059





 早朝。

 ログハウスの裏の木立ちの前に立つ。


 俺の正面に適度な太さの巨木があり、胸と同じくらいの高さの木の表面にはナイフで削ったダーツの的みたいな◎印が刻まれている。

 

 ブラスターをチャージするアナログメーターを引き起こし、超流体駆動機エーテルリアクターを起動させ、チャージさせる。

 そのチャージの動作中に引き金を引いてやると、メーターは満タンを示す右に動かず、残量が無いことを示す左側へと針を動かす。


 エネルギーのチャージ中に引き金を引くと超流動体エーテルを抜けるのだ。

 そのままギリギリまで針を動かし、ほぼ超流動体エーテルの残量がゼロの状態にして的を狙い、引き金を打つ。



_ションッ_バチ!


 ブラスターからはいつもの景気の良い発射音は出ず、しょぼい黄色の粒子光弾が発射される。

 発射された光弾は的の外側に当たった。

 木の的には申し訳程度の焦げた着弾の痕跡が残る。


 ギリギリまでエネルギーを削った状態で無反動ブラスターの光弾を撃つ。


 的に思うように当たらないので、距離を試行錯誤し、フォームを変えたりしながらテレビや映画とゲームを思い出し、想像しながら撃つ。 

 横山光輝の馬賊の漫画や、ゴルゴ13など、とにかくなんでも思い出せる範囲で資料になりそうなものを想像する。


 まずは構えて狙った所に当たらないと話にならない。


 実弾と違い、ダブルアクションでもブローバックでも無い。発射の反動も無い。弾の制限も無い。

 エネルギーが切れたらチャージさせ、引き金を引き過剰な超流動体エーテルを発散させ、強制終了させて調整する。

 

 それを繰り返した。

 

 俺はやっぱり男の子だ。

 こんなくだらない作業が楽しかった。


 それが終わると食事だ。

 ウウクが竈(かまど)でパンを温めてくれている。俺のリクエストでパンに切れ込みを入れ、間にチーズを挟んでもらった。


 その間に俺は小さな備え付けの鏡で髭を剃る。

 バイオパックのマルチツールに十徳ナイフみたいなものがある。ウウクに渡したスイッチブレードのナイフはデカくて切れすぎるので、このツールのナイフでヒゲを剃る。

 

 沸かした鍋のお湯と、桶の水で泡立てた石鹸を使うが、安全剃刀以外は初めてなので慎重に行う。

 今まで髭を剃る機会が無く、伸びた髭もこの世界では珍しくないが、だらしなく伸びてしまった無精髭が嫌で剃りたかった。


 しかし結局失敗して肌を少し切ってしまい、顔を洗って戻ってくるとウウクが血の滲んだ所をペロペロと舐めてくれた。

 バイオパックの止血剤や絆創膏で良いのだが気分が良く、そのままやってもらった。しかも、綺麗に止まった。


 食後はきちんと歯を磨き、ベンリーのギルドに行こうとウウクを誘った。

 ウウクにシャワーを作れる【ゴッズ】というベンリーを探すと伝える。


 ウウクが出かけるなら昨日のように家に無い物を買おうと提案してくれた。

 お買い物を覚えて楽しいらしい。


 ギルドに行く道中に、俺もベンリーになるかもしれないことをウウクに伝えた。

 するとウウクもなると言う。

 

 社会勉強のアルバイトに良いかもしれないと思い、二人組のパーティにすることを決めた。

 ツーマンセルならちょうど良いかもしれない。





_ガチャッ


 「失礼します」



 ベンリーのギルドへ到着し、扉を開けて中へ入る。

 正面のテーブルの、昨日と同じ席に同じ男性が座っている。


 スコットさんの仲間のテンガロンハットの男性だ。

 整えられた口ヒゲを生やし、色黒で黒人の強い血脈を感じる。

 彼は座りながらトランプのようなカードを触っていた。


 その男性は入ってきた俺とウウクを見ると、フッと軽く笑った。



 「別に挨拶しくても平気だぞ。ここは公共の場所だ」


 「あ、ありがとうございます。あの、スコットさんの仲間ですか?」


 「あぁ、アイツのチームメンバーだ」



 そう言って彼は立ち上がった。


 身長は俺と同じくらい。ガッシリしていて瞳が青い、口ヒゲを生やした黒人だ。肌の色は焦茶色で、アフリカンではなく、アメリカンな感じだ。



 「調査して頂きありがとうございました。とても助かりました」


 「気にすんなよ。あれは仕事だ。俺は【スティーブ】だ。よろしくな」


 「はい。ショウタです。よろしくお願いします」



 差し出された大きな手を握り返し握手をする。ムッサウィルさんと同じで傷だらけの手だった。



 「今日はどうした? 加入か?」


 「どうして分かるんですか?」


 「ここに住むんだろ? だいたい新参者で職無しはここに来る。俺も昔はそうだった」


 「そうですか。まだルールも規定も分からないので、今日は加入と仕事の依頼に来たんです」


 「仕事の依頼?」



 スティーブさんは少し不思議そうな顔をした。



 「新しい家にシャワーを建てようとしたら、ここの【ゴッズ】さんに頼めと教えて頂きまして」


 「あぁ、ゴッズさんか。今は忙しいみたいだから【受注者指定】で詳細を受付に伝えな。ついでに加入も言えばやってくれる」


 「そうですか。ありがとうございます」


 「なぁ、ところで四人はどう倒したんだ? 腕は悪くないんだろ?」


 「あぁ、あれはウウクが助けてくれて。それに彼らもぶつかったりして事故を起こしてましたから」


 「ふーん。そうか。後ろのデッカい姉さんか」



 そう言ってスティーブさんは俺の後ろに立っていたウウクの前に出るとウウクの前に立ち、爪先から頭までウウクを見上げる。



 「聞いてたかな? 俺はスティーブだ。よろしく」



 そう言ってスティーブさんはウウクに手を差し出した。ウウクは「?」と顔をしながら手を握り返した。



 「すいません。ウウクはこっちの言葉がまだ…。学校には通う予定なんですが」


 「あぁ、気にしないよ。ここじゃよくあることだ。だが、デカイだけに強いんだな。何を使う?」


 「彼女はナイフとかを…。でもクリーチャーではなく動物を主に狩ってたので、わたしと一緒でクリーチャーはここが初めてです」


 「ふーん……。なるほど…」



 スティーブさんは腕を組みながらウウクの全身をぐるりと一周して見回した。


 イヤらしい目では無く、新車の車を品定めする男性の様な感じだ。



 「まぁ、それでいいさ。何かあれば俺達に聞きな。実入りの良い仕事なら紹介する」


 「あはは。荒っぽいことはちょっと…。でも、ありがとうございました」


 「おう」



 スティーブさんはまた席に腰掛け俺達に手を振る。


 それに応えながら俺とウウクは受付へ進んだ。



 「ねぇ、ショウタ。さっきの人は何を言ってたの?」


 「俺達のお金の為に調べてくれた人だよ。自己紹介をしてくれたんだ」


 「そうなんだ。悪いことしちゃった」



 せっかく自己紹介をしてくれた恩人相手に丁寧に対応できなかったことをウウクは悔しがっていた。


 そのウウクと受付へ行ったが、この日の受付にはベフさんは居なかった。

 代わりに色白で茶髪の若い女性が座っている。



 「すいません。ベンリーへの【加入】と【受注者指定】の仕事の依頼をしたいのですが」

 

 「はぁい」



 顔を上げた女性はなかなか美人で、年齢は俺と同じくらいな感じだった。



 「組合ギルドへの加入と、依頼ですね? なら先に加入しましょう。ここの事は何処までご存知ですか?」


 「一般の個人やお店などが仕事をお願いしたり、受けたりすると聞きました」


 「そうです。個人以外も多いですが、基本的にはそんなもんです。では、ご説明しますね」



 彼女の説明内容としては

仕事を依頼する

ギルドが管理する

ベンリーが応募する

ギルドがベンリーを査定する

通過者が受ける

仕事の結果

内容に合った報酬。


 が大雑把な仕組み。

 依頼や受注を断られたり、やる人を決められていたり、達成条件に内容が満たせずに減給されたり、失敗として扱われる場合もある。


 なので、ギルドでは登録者のプロフィールや特徴を管理する。

 ただし、ベンリーの10段階評価の2までは、ただの人材登録者で単純な作業のアルバイトが多く、評価が3を超えるとベンリーとして半人前扱いで幅が広がる。


 ただ殆どの人はギルドに来て登録して、区分が1から2段階の間でインターンシップの様に職業体験して、気に入った所に就職してしまうらしい。


 それより上の区分は腕を認められ、個人やチームの技量を売りに高額な所得を目指したり、冒険や開拓、ハンターとして賞金稼ぎを好む人達らしい。


 ベンリーの規定は、依頼内容に達する仕事をすること。出来ない場合はギルドに相談。

 違反行為をした者を発見した場合は(ハデムの様な犯罪)どんな人間、人種、種族でも報告して逮捕に協力すること。違反行為を行わないこと。

 クリーチャー等の被害が出た場合は可能な限り協力すること。

 街や土地の治安の維持に協力し、ルールを厳守して、他社にも守らせること。


 などのルールを守り、守らせる規定が多かった。

 また失敗が多かったり、違反すると登録解除される。


 日本の人材派遣会社に治安維持の自警団が入った感じだろうか?

 あまり素行の悪い者は入会できないらしいので、アウトローな連中は居ないらしい。


 区分としてのランクの高い人物はそれだけ信頼され、除籍後には要職に就く方が多いと言われた。



 「だいたいは以上です。ご質問はありますか?」


 「あ、少々お待ち下さい」


 

 俺は持ってきた手帳に細かいことをメモした。知らない固有名詞が多かったのだ。



 「……それはあなたの手帳ですか?」


 「? はいそうですけど? 何か?」


 「いえ、そんなにスベスベの小さくて綺麗な手帳始めて見ました。紙も綺麗な線が入ってて真っ白ですね」



  ………。



 「……いやぁ、これは私の国の文具なんです…」


 「へー、そのペンも凄いですね。インクもなく書けるなんて」

 

 「これは…木の中に炭が入ってるんです…」 鉛筆だけど…。


 「へー、どこの国からいらっしゃったんですか?」


 「あの…日本というところから…」


 「あぁぁ!! もしかしてショウタさんですか!?」

 

 「…? 名前言いましたっけ?」

 

 「私の父が守備隊基地隊長のムッサウィルなんです。お話は伺ってますよ」


 

 あぁ、三人の子供の内の娘さんなのか。



 「あ、お父様にはお世話になってます。ショウタです。後ろはウウク」


 「初めまして。私は【イマーン】です。 大変でしたね。知らない間に見知らぬ土地に連れて来られるなんて」

 

 「……えぇ、本当に」


 「何かありましたら相談に乗りますから、気軽に声を掛けて下さい」


 「ありがとうございます。イマーンさん」 ペコり



 っと、幾つかのやり取りと説明を繰り返し、加入登録をすることになった。



 「では、登録しましょう。身分証明書を提示して下さい。そして、こちらの書類に名前とインクで指紋を押して下さい。」



 俺は二人分の証明書の羊皮紙を渡し、書類に名前を書く。

 俺は【斉藤翔太】


 ウウクは一生懸命、慎重に、今朝の俺の訓練中にも練習していた自分の名前を見ながら書いた。 

 【運命竜(うんめいりゅう) 雨々駆(ううく)】 


 書き終えたウウクはやり遂げた様に満足気な表情で俺に笑った。


 

 「すごぉぉぉい!! ホントだ! 不思議な字!!」


 

 イマーンさんは俺とウウクの書類を見て顔をほころばせ、やたら字の説明を求めた。

 なんでもお父さんに昨夜聞いたらしい。

 同じように適当に字と意味を説明すると、お父さんと同じ様に自分の名前を書いて欲しい、とお願いされた。


 お父さんと同じように後日に、とお願いした。

 やはり珍しいらしい。



 「はぁい♪ でわですね、こちらのベンリーの証となるタグを差し上げますので、無くさないで下さい。

  これは低ランク用のタグで木でできてますが、もし上位になられたら専用の証明書とタグをお作りします」



 そう言われてちっちゃな名札の様な木の板をヒモで括ったタグを頂いた。 

 俺とウウクはそれを首から掛ける。


 邪魔ではないが、ウウクの胸のターコイズのペンダントとミスマッチで気に入らなかった。



 「あとは依頼ですね。どんな依頼ですか?」


 

 イマーンさんはわざわざ他のスタッフにまで俺とウウクの登録証を同僚に見せに事務所に渡してから次のステップに進めた。

 事務所の中でもなにやらオーバーなリアクションが繰り広げられている。

 


 「えーとでね、【ゴッズ】という方へ、シャワーの設置と作成の依頼をしたいのですが?」



 俺は説明をする。 



 「ゴッズさんですね。良い方ですよ。腕も確かで何でも出来て誠実です。どちらに作られますか? それと設置する使用目的は?」


 「作る場所は先ほど登録症に控えて頂いたわたしの家です。文化的にお湯で体を洗うのが習慣化しているので、その為に作って欲しいんです」


 「いらっしゃいますね。そういう方。ここだとサウナが一般的ですが、私もお湯浴び大好きですよ」


 「えぇ、宿屋の【ダンケ】のシャワーをゴッズさんが作ったと聞きましたので、同じものを」


 「分かりました。ちょっとお待ち下さい」



 そう言うとイマーンさんは事務所に戻っていった。



 「ふふ♪ ねぇショウタ。みんなあの字を見てビックリしてたね♪」


 「なぁ。俺このままじゃ何人分の名前考えなきゃならないのかな? 電子辞書無かったら俺の頭じゃ無理だよ」


 「あれ面白いね。“すまほ”もそうだけど触るといろいろ出てくるの」 


 「あぁ、かなり新しいんだ。俺のスマホと充電ケーブルの規格が一緒だから選んだんだ」


 「? なにそれ?」


 「まぁ、同じように充電できて動かせるってことだよ」


 「おまたせしました〜!」



 イマーンさんが戻ってきた。



 「あの宿屋のシャワーは確かにゴッズさんです。その時の工賃は150ディル。同じ位の費用が掛かりますがご用意できますか?」



 うーん、15万円か。高いのかな? 90万あるからいっか。



 「いえ、それでお願いします」


 「分かりました。それではゴッズさんを指定でご依頼をお預かりします。本人が伺いますのでお待ち下さい」


 「どれくらい待ちますか?」


 「ゴッズさんは仕事が速いですから、今の仕事も今日中には終わらせて、緊急事態が無ければ明日にも伺うと思います。2~3日以内とイメージして頂ければ」


 「わかりました。では家でお待ちします。こちらで用意するものは有りますか?」


 「無いですよ。材料も全部ゴッズさんが用意しますから。他に何かご依頼は有りますか?」


 「いえ、もう大丈夫です。仕事も落ち着いてから探します」


 「分かりました。今日はお越し頂きありがとうございました。では、良い一日を」



 イマーンさんの見送りを受けてギルドを出た。


 テーブルに座ってたスティーブさんにも挨拶し、俺とウウクは外に出る。


 まだ昼前だ。


 学校の場所を確認し、通えるか聞くために学校を探すことにした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 



 街の学校は【チャップマンスクール】という名前の小学校だった。


 移民などへの対応から年齢区別ではなく、成績でクラスを分けていた。

 なんと既にムッサウィルさんが校長へ話をしており、ノーアポなのに直ぐに対応してくれた。 


 俺は話せ、ウウクは全く話せない。

 ウウクは小学一年生のクラスに入学する事となり、俺は仕事をするならと週に3〜4回の学習カリキュラムを紹介してくれた。


 話を聞いたウウクは心配そうな顔をしていたが、担任となる予定の黒人女性のズロース先生は優しそうな人だった。


 明日は無理なので、5月10日の火曜日からウウクは通う事となり、ランチボックスを持ってくるようにとだけ言われた。

 俺も一緒に校内を見学し、ウウクが通う予定になる教室を見た。


 日本と比べるととても質素だが、いかにも学校と言った感だ。

 最初は黒鉛や木炭で不要な木の板に書くらしい。他にも砂や紙など字の練習をする素材が色々用意されており、共用で使うと説明された。

 

 俺は有料だが、ほぼ無料みたいなもので月に50セント。

 ウウクはタダ。

 識字率と教育レベルを上げることに力を入れているので、学費の問題が出ないようにするために義務教育に該当するレベルを受ける生徒からは、学業に専念する為に費用は取らないそうだ。


 大柄なウウクが座れる机と椅子を明日中に用意する事となり、この日は挨拶だけして帰宅した。


 道中に、ちょっと心配で寂しそうなウウクの為に、一緒にリクエストの買物をした。


 ご飯の材料になりそうな物、調味料、果物、パン、大きな鍋、浅い平鍋、絨毯、その他雑貨。


 ちょっと多い荷物を二人で持って帰り、ご飯を食べた。


 食後にまた銃の練習をし、少ない汗を流した。


 その間にウウクはまた名前の練習をするというので、バイオパックから道具を出してあげた。


 【万能生体筆記用具メタモルペン

 微生物の粘液で字をかけるペンで、某消えるボールペンと使い方は一緒。熱では無く、固着する前なら指や水でこすれば消える。

 しかも微生物を原料にしているのでなのでインク切れが無く、超流動体エーテルがあれば永久に使えるらしい。


 マジックのように上下でペンの太さが違い、ウウクは嬉しそうにテーブルに直に書いて、手で擦ったり、水で消したりを繰り返していた。

 俺はそれを見守りながら、電子辞書であの二人の名前を考えた。





 この後二人でひたすらイチャイチャした。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





May / 9 /T0059





 起床してからも愛しあい、同じようにログハウスの裏の木立ちで銃の訓練をした。


 訓練後に水を浴びて家の中でウウクと食事を取っていると、外でガラガラと荷車の音がする。



 『ブモーーぉ』


 「ごめんくださ〜い!」



 誰かが来た。ガッハだと思われる牛の声も聞こえる。


 玄関のドアの前に足音が近づき、ゴンゴンと、ドアをノックしてくれる。



 「朝早くから失礼します〜。ギルドで依頼を受けたゴッズです〜」



 早い!! もう来てくれた。



 「ありがとうございます!! 今開けます!」



_ガチャッ



 「………? あれ?」


 

 誰もいない?



 「こっちだ、下ぁ見てくれ」

 

 

 ……そこには緑色の豚が居た。



 「………ゴッズ…さんですか?」


 「おう! オイラがゴッズだ。よろしくな!」



 それは、片手を上げて返事をしてくれた、つぶらな瞳の豚だった。



 緑の。



 この惑星には猿は居ないが豚が居るようだ。

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