第26話 調査結果
ep.5-3 May / 6 / T0059
女将さんに朝食を頼んだ。
パンとミルクと果物。
追加を注文して卵とソーセージとオートミール粥のポリッジも付けてフルブレックファーストにした。
ウウクも同じもの食べて大満足だった。
三日から四日なら、最短で今日中の計算のはずだ。午前中にムッサウィルさんに会いに行き、その後ギルドで待とう。
だいたいの予定を立て、女将さんにもう一泊することを伝えた。連泊扱いで朝食と追加のシャワー込で13,7ディル。
外に出るとガッハ達が入っている牛舎の近くに行く。草を食む姿は愛らしい。
牛舎の横で日の当たる所に棒を指す。影に合わせて線を引き、時間を設定する。
スマホの時刻を手動設定にして、体感時間で9時にしてみた。これで明日の影が同じ9時なら24時間だと思う。
まずはウーベントの守備隊基地へ向かう。受付でムッサウィルさんに会いに来たことを伝えたが留守だった。
宿屋の名前を伝え、日中はベンリーのギルドに居ることを兵士の女性に伝言を頼んだ。
ウウクと一緒に石畳を歩く。ウウクと手を握り、お互いの歩調に合わせてキュッキュと握る遊びをしながらギルドへ向かった。
「ごめんくださーい」と軽く声をかけながらギルドのドアを開ける。
ギルドのサルーンの丸テーブルには男が二人座っていた。茶色のテンガロンハットをかぶった口ひげの男と、長い赤毛の髪に紺色のバンダナを巻いた男が二人。
二人はこちらをチラリ見る。
かなり厳つい。赤毛の方はウウクよりも大きく、プロレスラーの様なムキムキの筋肉だ。
あまり目を合わせないようにして、受付まで歩く。
居た。アゴ髭を生やした黒人男性。ベフさんだ。カウンターで仕事をしている。
「お忙しいところ失礼します。ベフさん」 その彼に声をかける。
「はい? あぁ、ショウタか。いらっしゃい。確認は半分終わったよ。ハデムに間違いなかった。仕事もだ」
そうベフさんは笑顔で語ってくれた。
「本当ですか?」
「あぁ、リーダーを含めた四人でプクティスの皮集めの仕事を受注している。日にちも合うし、引き渡したギルドでも本人の確認が取れた。なにより自白している」
「良かったです」
「余罪に関しては向こうの仕事だ。湖の方はスコットが行ってる。待つなら適当に座っていてくれ。彼なら今日中に戻るだろう」
「そうします」
ウウクと事務所内を移動し、サルーンの奥のカウチに一緒に腰掛ける。階段の裏手に有り、あまり目立たいところだ。
「ウウク、ハデムの確認が取れて捕まったって。後は待つだけだ」
「本当? じゃ、その、しょうめいしょってのを貰えばここに住むの?」
「そうだね、スコットさんが湖の調査をして問題がなかったらって、………? あ。」
不味い。
「? どうしたのショウタ?」
ゴニョゴニョ 「あ、あそこ、クレーターとか、焼けた死体と無傷の死体とか、脱出ポッドとか…よくよく考えたら怪しまれないかな…」
「そうなの?」
ゴニョゴニョ 「死体はともかく、脱出ポッドは変でしょ。 しかも、あんなにえぐれた地面があったら、最初に言わないのも変だし…」
「そっか。 どうしようか?」
「どうしよう……。 もう思いつかない…」ズーン
駄目だ。なんとか辻褄を奇跡的に合わせられたと思ったが、無理があったのだろう。
しかし、帰る場所もないので待つしか……ない。
きゅっ
するとウウクが俺の手を握ってくれた。
「まぁ、なんとかなるよ。こんなに頑張ってくれたんだから」
「そうかな?」
「そうよ。一緒ならきっと平気よ」
そう言ってウウクの手がより強く俺の手を握ってくれた。
ウウクの大きな手で俺は不安が消えていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
もう夕方だ。
あれからウウクと辛抱強く待った。
特に喋らなかったが、ウウクは時々手をきゅっきゅと握ってくれた。
その手はリズムを取る様に俺の手を握り、俺にモールス信号を送って来てくれているようだった。
就職活動の面接前の待機時間に味わった嫌な感じは、この待ち時間ではまるで感じなかった。
正面玄関の前の男二人も動かない。
あのテンガロンハットの男と、赤髪の男もたまに会話をしているが、そこから動こうとしなかった。
依頼者や受注者の様な人々が出入りする中で、俺達だけは朝から風景のように過ごしていた。
_ガチャッ!
「戻ったぞ」
!!! スコットだ!!
スコットさんが入ると正面のテーブルに座っていた二人も反応する。
そしてスコットさんに続き、もう一人の赤いスカーフを首に巻いた背の低い男も中に入ってくる。
どうやら仲間みたいだ。あの四人とも。
俺も思わず立ち上がり、スコットさんの方に向かう。
背の低い男はテーブルの二人の下へ行き合流して会話を始め、スコットさんは受付のベフさんの下へと歩く。
俺はそれを追いかけ、ウウクも続く。
「戻りましたベフさん。待ちましたか?」
「そんなこと無いよ。君のチームはいつも早くて正確だ。どうだった?」
俺は食い入るように話を聞く。
「死体は三人共丸焦げだ。近くに焼けたプクティスと、壊れた奴隷運搬用の荷車も合った。
行く途中に火喰い鳥が空を飛んでたんだ。多分喧嘩して焼いたんだろう。地面にも、とんでもなくでかい穴まで空いてた。そこの後ろの彼は、あれに乗ってたんだろう」
は?
「っで、火喰い鳥が旋回しててな。危なくてあまり早く動けなかった。だが、死体からタグも3つ回収できた。間違いは無さそうだ」
「そうか。なら賠償金の査定と書類を準備しよう。ありがとうスコット。素晴らしい仕事だ」
タグを受け取ったベフさんは軽い足取りで事務所に消えていく。
いや、おかしくないか? 荷車なんか近くに無かったし、そんな都合のいい展開ないだろ?
「あの、スコットさん」
「どうした?」
喉が渇く。
スコットさんは振り返って俺を見る。俺より背が高いが、ウウクより低い。
ゴクッ「あの、調べてくれてありがとうございました。わざわざ危険なとこまで」
「いや、良いんだよ。仕事だし、君に払わなきゃならない賠償金はベンリーみんなの控除から払われる。誰だって勝手に違法行為をした野郎のせいで、金が使われるのは嫌だろう? こっちにはメンツもイメージもあるからな」
「それでも、ありがとうございます。 あの、ところでデッカイ穴ってのは、どんな感じだったんですか?」
「凄いよ。俺も始めて見た。こぉ、なんというか、地面にハンマーを打ち込んだような、何かが落ちたように巨大な凹みだ。だが、そこには何もなかったんだ」
「な、なにも…無かったんですか?」
「あぁ。モンスターの火喰い鳥は熱い所と寒い所を何故か往復する。途中で餌としてプクティスを食べたのかもしれない。もしかしたらその争った後の痕跡かもしれない。分からないがね」
マジか。何だこの展開。ラッキーなのか?
「そうですか。お話ありがとうございます。本当に」
「いやなに。気にするな。君は賠償金を貰ってどこかに腰を落ち着けろ。この街ならこの土地の中では一番平和だ」
そう言うとスコットさんは歩き出し、仲間とともにギルドを出て行った。
とても頼りがいのある人だった。
ベフさんがその後戻り。賠償金の支払いをしてくれた。
手数料を差し引かれて、書類にサインをして、宿屋の女将さんと同じように漢字に驚かれた。
賠償金は900ディル。およそ90万円だった。
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