第38話 始まる関係

ep.7-3 November / 2 / T0059




 

 ゥ

 ゥ

 ッ

 ______【ドッぐっシュ!!!!】



 「ワンワン!」





 「すごいよ! 当たったよウウク」


 「でも、逸れたわ。頭を狙ったんだけど」


 「でもインパクトの衝撃で仕留めたね」


 「的が大きいからよ。小さいと当たらないわ。練習不足よ」



 ウウクの投げた新しい槍はシカの背中を貫通した。

 白牙大ガエルの大きな牙をウウクが研いで槍に加工したのだ。


 重く、鋭利な槍はウウクの手によって弾丸のような速度でシカに吸い込まれた。狙い通りではないというが、その一撃の威力でシカは絶命した。


 ここは冬の雪山。


 ウーベントからそう離れてはいない。ウウクと一緒に狩りの練習に来た。


 クリーチャーを対象とする仕事をするにしても雪山での狩りになれないと行けない。


 雪崩などの無いであろう場所をギルドで尋ね。比較的安全な場所を紹介してもらった。


 この場所は動物が多く、クリーチャーの出没報告は少ない。しかも、近くに狩猟者が使うための山小屋もある。


 俺達はそこに今朝来た。


 ミニーがシカのもとまで走り、俺達はそれを追う。


 シカの血を抜き、内蔵の処理をして雪に埋める。

 

 そのシカを今度はウウクと一緒に山小屋まで引っ張った。

 

 山小屋でシカを吊るして、俺とウウクはミニーと小屋の中へ。外は寒い。


 小屋の中で持ってきたレンジャーテントを広げ、その中にサバイバルシートも敷く。

 ストーブもあるが、山小屋とは思えない暖かさだ。

 

 さらに小屋に備え付けられている大きなタライにも雪を入れ、サーモヒーターでお湯にする。

 お湯で手や顔を洗い、血のついた道具やコートの汚れも取る。

 残った汚れたお湯は、ろ過ポンプで飲料水に浄水する。



 「まずは初日成功かな?」


 「そうね♪ 持って帰れる程度だと、あと3頭かしら?」 


 「ソリに載せられる程度だとそれが限界だね」


 「雪の中に埋めちゃえば春までに取りに来ればいいけど。どうするショウタ?」


 「要らないんじゃない? 売るにしてもまだクリーチャーの依頼が控えてるから」

 


 山小屋の備え付けの牛舎の中には二頭のガッハが居る。

 寒くならないように山小屋の中と繋がっていて、沢山の藁が敷かれている。

 彼らはソリを引き、そこに積載した荷物と獲物を引かせる。今回はその練習だ。

 

 ミニーは早速テントの中で休み、俺とウウクも休憩だ。

 様子を見てもう一度探しに行くのも良いが、今日はこれで終わりだ。焦る必要はない。


 ウウクはエイイェイをクリーチャーの標的として考えている。なので、槍で仕留めるか、炎で焼き殺すことを想定して練習を始めた。


 俺は冬によく出ると聞いた【ツンクラト人食い山猫】と冬眠中の【ツンクラト怪熊】を危険視していた。聞いた範囲では山猫の討伐は冬では珍しく無いらしい。

 

 そして【ボンドド】。

 現地語で“怪物”というそのままの覇者で、東部最強らしい。ただ、霊峰の山脈を根城にし、ここには来ないそうだ。


 とにかく、俺はサーチアンドデストロイを身につけ、遠距離からポンプガンで撃ち殺せれば大抵の相手には勝てるはずである。


 その為に少し大型の動物で練習する必要がある。

 ウウクと俺はその練習としてこの地に来た。


 俺達はろ過した飲料水でお湯を沸かし、お茶を飲みながらその日を過ごした。


 ウウクの学校で習った歌を聞き、雑貨店で買ったトランプや、俺が手作りした将棋で遊んだ。


 そして訪れた寒い夜は小屋の中に張ったテントの中で二人と一匹で眠った。

 今日はエッチはしなかったが、お乳を吸うことはした。


 ウウクは胸を吸ってもらうことを好んだ。

 安心するらしい。俺もそのおかげで恥ずかしい感情はウウクには何も抱かなくなった。

 

 それが二人にとって当然になったからだ。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 November / 5 /T0059





 早朝。


 俺とウウクは下山をし始めた。


 収穫は小型のシカが三頭。大型のヘラジカが一頭。

 角はいらないので切って小屋の近くに置いてきた。荷物を減らしたかったのだ。


 バイオパックのおかげで快適な山小屋生活だったが、早く帰ってシャワーを浴びたいね。とウウクと笑いあった。


 二頭の仲良しガッハが重いソリと俺達とミニーを乗せてグイグイ進む。


 ちょっと重いのでは、と心配したが杞憂だった。パワーが並ではない。


 そして山の麓まで来た時だ。ウウクがガッハを止めた。


 ブフッ、っとガッハも唸り声を上げ立ち止まる。ミニーの様子もおかしい。



 「なんだろう? エイイェイ?」

 

 「違う。感じるからエイイェイじゃないと思う。位置は分からない」


 「どっちにしろ危険だ。先手必勝だな」


 

 俺はポンプガンに付いた単眼鏡のスコープを赤外線装置サーマルビジョンに切り替える。


 辺りは雪原。熱への感度は抜群だ。


 ウウクが後ろを、俺が前方を主軸にゆっくり周囲を確認する。


 居た。右側面。崖の上だ。


 熱の感じから、四足動物で犬のよう。大きいから、噂に聞く“ツンクラト人喰い山猫”かもしれない。


 かなり臆病は肉食獣で、迂闊には近寄らず隙を見て攻撃してくるらしい。

 恐らく狙いは積み荷のシカか、ガッハだろう。


 問題は毒だ。爪に毒があり、死なないが痺れるらしい。


 俺は今回の狩りにも使った、数少ない円錐状に削った石を三発装填した。

 ポンプガンの中にはお湯も入っているので凍らず、水鉄砲で弾切れにも対応できる。



 「ウウク。山猫。仕留めるよ」


 「頑張って♪」



 二回ポンプし、見える範囲で面積の大きい横っ腹を狙う。

 相手もこちらを睨みつけて警戒しているがようだが、隠れる様子はない。

 

 俺は引き金を絞るように引いた。



_ボッッン!!【ドバァッ!】ブチチッ!!


 『グギャアァァァァァァ!!!』



 当たった石の弾丸は左後ろ脚に当たった。

 やはり不安定だ。被弾した箇所の足は吹っ飛び、血が吹き出ている。

 

 山猫をもんどり打って崖から落ちた。


 さらに一回ポンプし、ソリから降りて山猫のもとに走る。

 ウウクとミニーも俺を追いかける。


 駆けつけた崖の下の人喰い山猫はなかなかの大きさだった。

 崖から落ち、片足も失ったが口からは巨大な牙を覗かせ、豊かな毛皮が逆立っている。


 両手の爪を剥き出しにして威嚇している。

 だが一目見れば分かる。仕留めたほうが親切だと。 

 

 俺はポンプガンを山猫の眉間に狙いを定め、撃った。

 

 これが俺の初めてのクリーチャー討伐だった。


 そのまま内臓と血を抜き、休憩してからソリに乗せて運んだ。


 ガッハが運べるか心配だったが、頑張ってくれた。

 早くはないがソリなので俺達もソリを押して、滑らせてウーベントに帰った。


 休憩しながら運んだので街に着いたのは夕方だった。


 門番の守備隊兵士のフセインさんは運んできた山猫を見て驚いていた。ルーキーの獲物ではないらしい。


 ただ量が多すぎるので、そのままティーゼルさんの店に運び、買い取れる量の相談に行くことにした。





_カランカランッ


 「ごめんくださーい」


 「おう。いらっしゃい」



 店の奥にティーゼルさんが座っていた。ストーブで店の中は温かい。



 「ティーゼルさん。実は狩りに行ってきたんです」


 「あぁ。聞いたよ。山小屋だろ?」


 「そうです。そこでシカとヘラジカと山猫を仕留めのですが…」


 「どうした?」


 「ちょっと多いので使い道と、買い取りの相談を出来ないかなと」


 「あぁ。構わないよ。店の裏の納屋に運んでくれ。俺もそっちに行く。 

 …おい、ムスタファ! 俺は裏に行くから店を頼む!」


 「はい旦那様ぁ!」



 奥から男の子の声が聞こえた。使用人だろう。


 外に戻るとウウクと一緒にガッハのソリを押し、店の奥の大きな納屋に運ぶ。


 大きな両扉を開け、中にソリごと押しこむ。

 大きな荷物に開放されたガッハはやれやれと言った感じだ。

 

 近くの牛舎を借りることにしてガッハを休ませて戻ってくると、ウウクとティーゼルさんが話していた。



 「こいつはすごいな。山猫って人喰い山猫かよ。たまげたな」


 「すごいでしょ♪ シカだって新しい槍を投げたんだよ?」

 

 「槍で? よく当てたな!」



 ティーゼルさんは感心しながらシカや山猫を見ていた。

 山猫はウウクの槍で仕留めたという事に話を合わせる予定だ。

 

 俺が近づくと、しゃがんで仕留めた獲物を見ていたティーゼルさんが顔を上げた。



 「なぁ、ショウタ。コレはお前の持ってた武器で殺ったのか?」



 ………。


 あれ?



 ウウクは俺に向かって首を横に振る。



 「すまないな。隠してるみたいだが、以前見たことがあるんだ。安心しろ。誰にも言ってないし、言うつもりもない」



 ティーゼルさんは立ち上がると俺の顔を見ながら言い切った。



 「あの…なんのことですか…」


 「兵士の演習場で木に何か当ててただろ? 先月末かな? いやぁ、あんなのは見たこと無いから驚いたよ」



 終わった……。


 さよなら…俺とウウクの平穏……。


 「うした…。ぉぃ、おい」



 「おい。オイ!? 大丈夫か?」


 「あ…はい。ティーゼルさん、見ちゃたんですか…?」


 「悪いな。一流のベンリーは奥の手は見せないのが当たり前だが、偶然な」


 「そうですか…」


 「大丈夫だ。俺も元は軍にいたし、ベンリーのハンターでもあった。他人の秘密は漏らさんよ」


 「お願いします…」


 「だが、興味はある。なんかあったら、俺の息の根を止めても良いから聞きたいくらいだ」


 「流石にそれは…」


 「だが、お前の彼女はその気だぞ?」

 


 ティーゼルさんの示した俺の彼女のウウクは、ナイフをいつでも抜けるようにしていた。



 「止めてよウウク! それは勘弁して!」


 「でも広まると奪いに来る奴、絶対出るよ?」

 


 ウウクは表に一切出さないが、殺気立っていた。迷いはない。

 そんなウウクにティーゼルさんは声を掛けた。



 「おいウウク、俺はお前達に嘘は言わない。殺るなら何か起きてから殺れ」


 「起きてからじゃ困るの」


 「だが、これまで平気だったろ? 俺は言って無い。誰にもな。これからもだ。それが俺の主義だ」


 「……そうね。お家のこともあるし信じるわ。親切にしてくれたもの」


 「そうか。情けは人のためならず。だな。」



 ウウクはナイフから手を離してくれた。

 心底ホッとした。



 「なぁ、ショウタ。俺は単純に武器が好きだ。元々は本国の軍の兵器関連の仕事をしながら、チームも組んでた。秘密は守るし、相談にも乗れる。どうだ? 相談相手の老いぼれが居れば、見知らぬ土地での生活も楽になるぞ?」 



 それはとても魅力的な相談だった。


 ある程度の秘密を共有できる現地の人はここでは欲しい。


 どんな映画や作品にも、主人公にはバックアップが居る。

 バットマンとロビンだけじゃないアルフレッドだっている。スプリンター先生、ブライト艦長……他にも沢山…。


 現実の世界でもそうだ。総務。人事。経理。営業。広報。清掃に配送。アウトソーシング。

 目に見える人だけでは世界は回らない。



 「話していいかな…ウウク?」


 「話さないと説明の仕様がないんじゃない? 私は良いよ」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 「んんんー………」



 納屋の中でストーブを焚き、扉を閉じて話した。


 ティーゼルさんは黙って俺達の話を聞いた。

 

 たまに質問はされたが、黙って聞いてくれた。


 話が終るとティーゼルさんは黙ったままだ。



 「宇宙か………。なぁ、一つ聞いてもいいか?」


 「はい。どうぞ」


 「この世界は丸いんだな?」


 「? そうです。宇宙の中の銀河の中の星々は、ほとんど球体です。仕組みは覚えてませんが、ガスでも物質でも重力と遠心力の関係で丸くなるらしいです」

 

 「重力か…それも証明されてるのか……すごい世界から来たんだな…」


 「そうですね。クリーチャーは居ませんが、科学という分野が発達してます」


 「もう一回そのスマートホンってのを見せてくれ」


 「どうぞ」



 ティーゼルさんはスマートホンを手に取り、電源を入れ、さっき撮った写真を見て、音楽を流した。



 「綺麗な音だ。こんな小さな物が色んな事が出来る……」


 「でも、この技術はこの数十年で飛躍的に発達したものです。100年か200年くらい前だと、こことそれほど変わらないかと…」


 「……別の星から来た話よりも、そっちの方が信じられんよ。俺達の100年前と今は大して変わらん。 …だがな、これは言わないほうが良いな。確かに。」


 「確かに。と言いますと?」


 「お前達が別の惑星から来たなんて知られたら、ろくな事にならん。キチガイか、変人扱い。こんな道具がバレたらもっと酷い。誰にも言うなよ」


 「はい」


 「知られても害がないのは、自分で言うのもナンだが、俺かスコット達くらいだろう。ベンリーのトップは秘密が多い。俺もな」


 「そうなんですか?」


 「あぁ。モンスター退治は普通じゃ無理だ。古代遺跡の産物。モンスターの素材。それらを使うが、狙われもする。危険が多い。だから敵は人間の方が多い」


 

 ティーゼルさんは黄昏れるように山猫の亡骸を見ながら言った。苦労があったのだろう。



 「あの、古代遺跡の産物とか、モンスターの素材って言うのは?」


 

 俺の質問にティーゼルさんは少し間を置いてから話し始めた。



 「たまにな。不思議な遺産や、物品が発掘されたり、見つかったりする。古代文明だと噂されている。その中で使える武器や兵器が見つかる時がある。壊れたガラクタが多いがな」


 「オーパーツですか?」


 「オーパーツというのか? で、それらの中に使えるものがある。それでモンスターやクリーチャーと戦う奴もいる。俺がそうだった」

 

 「「 え!? 」」



 俺とウウクは驚いた。目の前の人が使用者だったらしい。



 「俺が使ったのはオートボウガンだ。刺さると電気が流れる。今はスコットのチームのロバートが使ってる。強力だ」


 「そ、そんなのがあるんですか?」


 「あぁ、仕組みはモンスターの素材を加工したみたいだが、理屈は分からん。解体できない」


 「へぇぇぇ…」


 「だから、スコット達も色々持ってる。秘密は守るだろうが、言う必要もない。他言無用だぞ?」


 「わ、分かりました」



 意外な情報が出てきた…。ティーゼルさんや、スコット達は特別なんだな。



 「どれ。もう一回“銃”ってのを見せてくれ」


 「どうぞ」



 俺はブラスターとポンプガンを手渡すと、ティーゼルさんは両手でしっかりと持つ。



 「すごいもんだ。今まで見てきたどんな兵器よりも効率的だ。遠くに物を飛ばせるんだからな」


 「でも、不安定なんです。弾になるものが石しか無くて」


 「ダメなのか?」


 「俺の世界の銃は、撃ち出す弾丸が鉄や鉛で出来ていて、安定して飛ぶ形状をしているんです」



 俺は口で説明しながら地面の土の上に凸状の弾丸の形を描いた。ライフル弾や、拳銃の弾の先端に付く部分をうろ覚えながら。



 「ふん。なるほど。石じゃ無理だな。確かに形と重さが不安定そうだ」


 「それが問題で」



 ティーゼルさんは図を見ながら考える。


 するとポツリと言った。



 「ふん。俺が作るか」


 「え?」


 「俺の所で鍛冶屋連中や商人のツテで作ってやろう。だいたい皆、こっそり色々作るのは慣れてる。面白そうだ」


 「出来そうですか?」


 「やてみなきゃ分からんが、石よりは均一なものが作れるのは間違いないだろう。注文があればもっと聞くぞ」


 「できればして頂けると助かります」


 「こっちとしても、お前にしか使えない強力な兵器があって、能力を出しきれないのは勿体無いからな」


 「ありがとうございます」


 「その代わり、バレるなよ。射撃演習場は俺が用意する。そこを使え。そこを弾の実験場にする。良いな?」


 「はい」



 そこまで話すとティーゼルさんは笑った。



 「それとショウタ。もう俺の前で“わたし”って言わなくて良いからな。今のままで良い」


 「……はい」


 「あとな、秘密は守る。約束する。なぜだと思う?」


 「? なぜですか?」


 「俺はこういうのが大好きなんだ!」



 ティーゼルさんは嬉しそうに笑って言った。 




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