第39話 挑戦と目覚め

ep.7-4 November / 19 / T0059





 「撃ちます」

 「おう」



_ボ! シュンッ!!



 「いいですね」


 「ああ。左に逸れたが良くなった」


 「そうですね。誤差4cmくらいでしょうか?」




 ティーゼルさんは的に当たった弾の弾痕を自前の三脚望遠鏡で確認する。


 的の距離は100m。現実的に俺の銃で精密に狙えそうな距離を二人で探しだした。


 俺達はティーゼルさんが用意した弾を撃ち比べている。


 あれからティーゼルさんは、ウウクと同じように二人羽織り撃ちで試射し、銃に惚れ込んでしまった。


 特にポンプガンの狙い撃つ楽しさ。弾による変化を喜んでいる。

 その為に射撃場をあっという間に用意してしまった。


 以前は農場として使われていたが、街から離れ、クリーチャーが出没して危ないとされ、放棄された土地を格安で街から買った。


 そこの納屋や農地を適当に整備し、木の板や紙に描いた◎印の的に撃ち続けている。


 ティーゼルさんは俺が知っている限りの銃や近代兵器の情報を知りたがり、聞いてきた。


 最初は火薬に大きな関心を示し、用意しようとしたが、電子辞書に乗っていた“硝酸エステル”などの火薬の原料がさっぱり分からず、仲間にも誰も知らないと言われたらしい。


 そもそも火薬のような素材がこの世界に発明されているのかも分からないと説明するとガッカリしていた。


 だが、直径5cm以内に収まる凸状の弾丸の試作品が届き試射すると、石よりも抜群の精度を出すようになった。


 そうすると、今度はポンプガンに適合する弾をあれやこれやと勝手に試行錯誤し始めた。

 

 やれ、球体で試そう。やれ、重さはどうだ。形を矢を参考するだの、螺旋状にすれば回転するだろう。などなど、未知の兵器への情熱を燃やし始めた。


 こっちは安全に確実に撃てれば良いのだが、俺が映画や漫画の知識で得た口径9mmや7.62mmの話を聞けば改良にさらに火が点いた。


 ライフリングの代わりはどーのだ、弾の重さを0.3g変えただ、もっと大きくしたら良いだのと凄まじい。


 ただ、その様子を見ていると、これなら絶対に秘密は漏らさないだろうと伝わってきた。

 

 今までも試行錯誤を繰り返し、今は小型の凸状の弾丸を撃った。

 

 スコープの倍率を限界まで上げると、かなり遠方まで見える。しかし、そこまでの遠距離の精密射撃はこの銃では不可能で現実的では無かった。


 遠いと弾が届くだけで命中しないのだ。

 風の影響など色々あるのだろうが、感覚で修正するしか無い。


 なので普段使う3倍から4倍くらいの倍率での射撃を繰り返し、今は100m程度に落ち着いた。


 特に今回の試作品シリーズは、アキュテック商会というところが試作してくれた。船の部品など作っている所らしい。

 費用はかかるがお願いしたら、直ぐに試作品を用意してくれた。



 「ここのは安定している感じですね」 俺は撃った感触を素直に伝えた。


 「あぁ、どの弾も狙った場所に集中している。最初のメートル単位のズレが嘘みたいだ。この銃との相性が良い弾を作ってくれているな」


 「後は加工ですか?」


 「そうだな。お前が言ってたソフトポイント弾とか、スラッグ弾でも真っすぐ飛ばないとな。とにかく堅くても柔らかくても、螺旋状の加工をする。それならイケるだろう」



 ティーゼルさんは当たった標的を確認しながらそう言った。


 

 「よしショウタ。今度は三回ポンプで一通り撃つぞ」


 「え〜!? 三回は反動が強すぎて連射はきついですよ!」


 「いーんだよ! やらないと分からないだろ? よし、右側の標的だ」



 俺はしゃがんだ状態で、三脚に銃身を乗せてポンプした。


 伏せ撃ちだと、ポンプをする構造のこの銃には次弾射撃がやりにくい。

 

 なのでティーゼルさんが用意した三脚のバイポッドに乗せ、安定してポンプのしやすいしゃがんだ姿勢での射撃にが主になった。


 伸ばしたストックを肩を当て、狙って引き金を絞る。



_ボッッン!!!【ドバッ!】 

  

 「う〜ん、標的ごと吹っ飛んでよく分からんな」



 ティーゼルさんは望遠鏡を覗きながら呟いた。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 「ま、とにかく対クリーチャー用の弾薬の試作品はこれだな」


 俺とティーゼルさんのテーブルの前には、単3と単4乾電池くらいの大きさの弾薬が二種類。

 

 螺旋状の溝が掘られ、大きくブレても5cm程度で済んでいる。



 「意外と早く出来ましたね」


 「みんな冬で暇なんだよ。言えば理由も聞かずに作ってくれる奴らばかりだ。助かる」


 「ところで散弾はどうですか?」


 「ああ、このアキュテック商会が試作中だ。お前が作った革製の素材とは別に、仕掛け弾も作っているらしい。撃った瞬間に圧力で弾ける仕組みだとさ」


 「よくそんなにホイホイ作ってくれますね」


 「まぁ、ベンリーが秘密兵器の依頼をするのは珍しく無いからな。俺も本国で変な服やら罠を依頼されたよ。秘密漏洩は死につながるが、見返りもデカイから秘密も守る」


 「秘密さえ守ればローリスク・ハイリターンなんですね」


 「そうだ。古代兵器なら用途が不明瞭な物が多い。みんなその程度に思ってるはずだ。だから金払いは良いほうが良い。そのためにも大物は迷わず仕留める」


 

 ティーゼルさんはポンプガンを撃つ仕草をしながら説明してくれる。やはり気に入っているのだろう。



 「すると次の依頼はどうしましょう?」」


 「無理にする必要はない。今回の土地と弾代は、人喰い山猫の売上でまかなえる程度だ。迂闊に依頼をすれば目立つ。気が向いたらやれ」



 そう告げるとティーゼルさんは帰り支度を始めた。

 俺も貰った弾を袋に詰めこの施設を後にする。

 

 外は雪が振り続けている。遅くなると面倒なので行きと帰りは素早く行動するのが原則だ。





 戻ってきた日が暮れた街の中でティーゼルさんと別れた。

 俺も家路を急ぐ。雪を踏みしめ、頭と耳を覆った帽子でも寒い。

 

 慣れれば良いのだろうがここでの生活はまだ一年生。ちょっと辛い。




_ギィッ


 「ワン!」

 「ただいま」

 「おかえり♪」



 ウウクの髪を左右にゆるふわの三つ編みにしていた。めっちゃ可愛い。



 「ウウク今日も可愛いね。どうしたの? 朝はいつものロングだったのに」


 「雪かきした後に暇だからやってみたの♪」 ちゅっ♪っちゅ♪



 ウウクがスリスリしてくる。可愛いので玄関でそのままキスを楽しみ、一緒にシャワーを浴びた。

 

 食後に今日の射撃成果を報告した。

 持ってきた新型の弾丸をウウクは珍しそうに見る。


 

 「ふーん。これがそうなんだ」


 「かなり安定したよ。いつもの距離でも、今の的にだいたい3cmから2cm以内の誤差で済むから、ウウクの届かない距離は俺が担当できそうだよ」


 「じゃ、また狩りに行こうかな? それとも依頼を受けるの?」


 「うーん、決めてない。ティーゼルさんは気が向いたらで良いって言ってくれたから」


 「そうなんだ。じゃ、雪が穏やかな時は何かして、酷くなったら外に出れないからお家で一緒にいましょ♪」


 「それが良いな」



 俺とウウクは天気を見て、平気なら明日にでもギルドを覗きに行く話しをまとめた。





 その後むちゃくちゃエッチした。





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 この土地には東西を隔てる山脈がある。


 高くそびえ立ち、険しい山々。壁と呼ぶに相応しい絶壁である。

 長い年月を掛けて作られた山は生態系に大きな影響を与えた。


 西には獰猛な生物達が。

 東にはそれから逃げた生物達。

 いつしかそれが独自の進化を遂げた。


 そんな東部に安寧をもたらす霊峰には、一頭だけ風変わりな生物が居た。


 先住民は【ボンドド】と呼び、伝説だけが残されている目撃例の非常に少ない生物だ。


 ボンドドは西側の中でも弱い分類の生物を捕食し、自分よりも強い奴が出てくると、その険しい極寒の山に逃げこむ。


 強い奴もその地形と厳しい極寒の山には諦めて追いかけない。


 ボンドドはそれを繰り返して生きていた。


 だが、東部の方に餌を取りに行く場合もある。


 しかし、東部は登り降りが面倒で、自分の好みの大型の獲物が居ない。


 大型の動物が毎回ネズミやウサギを食べるよりも、シカなどを狙うのと一緒だ。

 腹が減ればやるが、わざわざ狙う程でもない。西にはもっと美味い奴が居る。


 しかし、東部にも居ることは居る。


 ボンドドは雪で覆われた山脈の中を歩き周り、切り立った崖を降り、氷を粉砕しながら進むと洞穴を見つけた。


 ボンドドは気が付いた。

 こいつは食いごたえがあると。


 ボンドドはその洞穴に突撃し、眠っていた獲物を食い散らかした。


 その中で一頭。命からがら逃げ切った生物が居た。


 冬眠中に襲われ、子供を食われ、為す術もなく逃げ延びた。


 叩き起こされ、怪我を負ったその一頭は下山するしか無かった。


 ボンドドには勝てないからだ。


 もうこの山にはいられない。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





November / 20 / T0059



 朝の雪は少なかった。


 朝の雪かきと、便の片付け等をした。

 

 食事と身支度を整え、俺とウウクは朝からギルドに行った。


 朝のギルドは人がまるで居なかった。ベンリーが何人かいるが、それくらいだ。

 受付の女性でイマーンさんを見つけると、声を掛けた。


 「おはようございます。イマーンさん。寒いですね」


 「おはようございますショウタさん。ここでは寒いのは当然ですよ」


 「おはようイマーン♪」


 「ウウクも元気? だいぶ喋れるようになったね♪」



 そのまま軽い雑談をして、俺は尋ねた。



 「イマーンさん、何か依頼がないか見に来たんです。何か有りますか?」


 「そうねぇ、雑用ならかなり。後は遠方への配達とかかな? 人の賞金首もあるけど?」


 「人相手はほとんど経験がないので、勝手が分からないですね」


 「そうね、犯罪者は初心者にはお薦めできないわ」



 イマーンさんは最近の依頼書を見せてくれる。ウウクと一緒に覗き、パラパラめくる。



 「ねぇイマーン。これはどんな仕事?」



 ウウクは一つの仕事に目をつけた。そこには“虫退治”と書かれている。



 「あぁ〜、これね。虫型のクリーチャーが森の中に巣を作っちゃったの。今は幼虫だけど、春になったら成虫になるから退治する依頼よ」


 「簡単?」 ウウクは尋ねた。


 「簡単だけど、面倒なの。雪の森の中に分け入って、ガチガチに鉄みたいに固まった幼虫の繭を片っ端から処分するの。焼こうにも燃えにくいから時間が掛かるの」


 「そうなんだ。達成基準はどんな感じなの?」 


 「作業完了の報告を貰ったら林業組合の人が点検するわ。それで良し悪しを選定。不十分なら報酬減額か、やり直し」



 ふ〜ん。動かない敵なら俺とウウクにはちょうど良さそうだな。



 「これで良いんじゃないか?」


 「ね♪ どんな虫か見てみたいね♪」



 俺とウウクはイマーンさんにこの依頼を受けることを告げた。イマーンさんは「面倒くさいよ?」っと念押ししてくれた。

 だが、俺のブラスターやウウクの炎なら問題無いだろう。


 俺とウウクは返してもらったガッハを一頭を引っ張って正門まで向かう。


 いつもの門番のフセインさんに挨拶し、ガッハに二人乗りした。

 ウウクが後ろから胸を押し付けてくれるのが気持ち良い。



 「なぁウウク。この仕事、炎を出せるから選んだろ?」


 「あ、分かる? 流石にそろそろいっぱい出したくなっちゃって♪ 燃えにくいならちょうど良いでしょ♪」



 俺とウウクは指定された森のへガッハを歩かせた。大した距離じゃない。




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