第21話 説明と開拓そして…

ep.4-3 May / 3 / T0059





 ムッサウィルさんは立ち上がり、部屋の中を歩き出す。

 そして彼は部屋の壁に貼られた一枚の紙の地図の前に立ち、俺達を手招きする。


 俺はウウクの手を引いて立ち上がり、ムッサウィルさんの隣りに立って一緒に地図を見た。 



 「これは正確な地図ではないが、現在分かっている範囲のこの土地の地図だ。

…ところで、私達のこの世界は丸い。知っているかね?」


 「はい。それは聞いたことが有ります」


 「それは先生に聞いたのかね?」


 「はい。そうです」


 「なるほど、たいへん博識で教養のある方だ。この事は天文学などを通じて数百年前にある帝国で議論されたらしい。だが、にわかに信じ難く、証拠も見つかっていない。研究者は数学と物理学で実証したらしいが、物的証拠がないことから反対意見も多い」


 「似たようなことを聞きました」


 世界史で。


 「そこで、過去に何度も船で大海原に果敢に挑み、その説の裏付けに挑戦しようとした者たちが沢山居た。

だが、未だに誰一人として成功していない。理論上は間違いないが、物理的に出来ないのだ」


 「なにか問題が?」


 「クリーチャー共だ。君はプクティスと会ったらしいが、故郷には何が居る?」


 「いえ、動植物はいますが、大きな怪獣は見たことありません。昔は居たらしいのですが」


 恐竜が。


 「そうか。さぞ平和で良いところなのだろう…。

もちろん他の大陸や島にもほとんど生息していない地域はある。だが、逆にひしめき合っている大陸や土地、島もある。海なんか特にそうだ。特にこの辺の海域はな」


 「すいません、クリーチャーがいまいち理解できないのですが、教えてくれませんか?」



 俺のその質問にムッサウィルさんは大きく頷く。



 「そうか。そうだな。

実は明確に分けてる訳じゃない。その土地や住んでいる人によって呼び方も違う。

ドラゴンとか、君のように怪獣とか、死神とか、色々さ。ただ、ギルドの先駆者である、海洋貿易組合は定義をした。

動物は家畜や無害な生物。私達が倒せ、共存できる食物連鎖の下部に居るもの。


クリーチャーは、飼育できず、有害で、私達と対等な捕食者以上。


さらに上にモンスター。これはクリチャーなどを餌にしている食物連鎖の頂点だ。ほとんど自然災害と同じで勝ち目がない」


 「モ、モンスター…ですか?」


 「そうだ。モンスターだ。

 凶暴で獰猛な大型生物であるクリーチャーを餌にし、それらを遥かに上回る巨大な体を持つ物も少ないという。彼らは現れると街を破壊し、人間などアリのように踏み潰すという。

中には特別な能力を持った奴もいて、それは嵐を呼び、炎を纏い、雷を落とす。人々は彼らを恐れ、敬い、尊きものとして崇めることさえある」



 ………。


 全然地球の自然環境と似てないじゃん。


 誰だよ似てるって言ったやつ!?


 ゴジラはフィクションだよ!!!



 「そんなの…いるんですか…。」


 正直げっそりする。


 「沢山な。その昔、帝国主義が流行したが、侵略先のそれらのクリチャーやモンスターに勝てなかったり、逆に差し向けられたりしてな。戦争にならなかったらしい。

人間同士で争うと悪化するので、共存と協力をしないと勝てないことがグローバル化が進んで理解された。私が生まれるずっと昔だよ」



 どうりでいろんな人種が居るわけだ。



 「太古の昔は共存したり、隠れて生活したり、なんとか倒していたらしい。ただ、だんだん生活が変わり他の民族との交流から、外に出るようになった。

生活環境が拡大し、今では倒せなくても、追い払ったり、利用したりする為に利用して共存する考え方がムーブメントさ」



 「へー…」 コンビニに行く途中にキングギドラなんか出てきたら、おしっこちびるだろうな。



 「ここで話が戻る。

この地図はこの北の大陸、ツンクラト地方の地図だ。ただし、分かる範囲のだ。


この世界が丸いことを実証する。新天地に行く。交易と貿易をする道を探す。

新しい国々を見たり、聞いたりする為に、私達のご先祖様は大海原を旅した。冒険者、挑戦者としてだ。

だが、海を最短距離で移動しようとしても、海はクリーチャーとモンスターの縄張りだ。誰も成功しなかった。そこで、ある冒険者が、この陸の孤島ツンクラトに目をつけた。」



 ムッサウィルさんは拳を握りしめ、プルプルと震わせる。熱い情熱だ。

 でも、話の理解できないウウクは暇そうに俺の手をニギニギと握って遊んでいる。そして俺も握り返す。


 我慢してね?



 「このツンクラトは、大陸とは陸続きだと知られてはいたが、繋がっている北方の山脈と、その周辺の山脈はモンスターが多く、しかも極寒の地だ。

それでなくても鋭く、切り立った山々は過酷で、数々の挑戦者や冒険者がいたが、誰も戻っては来なかった。

 だから、海路しか無い。しかし、海流は荒く、クリーチャーも多いので、誰もここには来れなかった。そして、ツンドラ気候と言われる極寒にちなみ、いつからかここは陸の孤島ツンクラト、と言われるようになった。

だが、その冒険者はここを中継地点として開拓し、この土地を横断すればモンスターの蠢く南西の海流を迂回して進めると考えたのだ。」



 うーん。そうなると、大航海時代のまっただ中に俺は居ることになるのだろうな。



 「この冒険者は今までアタックされ、失敗した航路、海流と気象条件を研究し、今までの誰よりも遠回りで、安全な航路を開拓した。

 そして!! ついにこの土地に辿り着いたのだ!!」



 ムッサウィルさんは握った拳を高らかに掲げた。娯楽の少なそうなこの世界では、英雄譚が人気があるに違いない。



 「その後の開拓された航路は冒険者の名前を取り、バーモンド・ロードと呼ばれた。

 そう!! 冒険者の名前は、あの有名なバーモンド・カリィさんだ!」



 マジか!? この人は俺を笑わせる気なのか!?

 勘弁してくれ、リンゴとハチミツたっぷりじゃねーか!!



 「その後、バーモンド・ロードを通り、開拓移民がこの土地に来た。第一次移民船団は59年前。私たちはその息子で第二世代だ。

これからも少しづつこのツンクラト地方を開拓し、横断し、そして海を横断することを夢見ている」



 そう言うと、ムッサウィルさんは地図を眺めながら背を向けた。

 凄いけど、変なところが俺のツボに入った。勘弁してくれ。


 とりあえず、話を変えよう。



 「あ、あの凄いお話ですね。ところで、ギルドは海洋貿易が最初なのですか?」



 ムッサウィルさんは俺の方に向き直る。その目は少し潤んでいた。そんなにか?



 「あぁ、そうだ。ギルドはもともと危険な海洋進出を目指し、リンドルドと言う国で保険や資金、人の確保のために発足した協同組合だ。

その仕組が金融、農業、戦争にまで広がった。ギルドと言っても沢山ある。

職を持つ人はそのギルドに入る。だから、私も兵士のギルドに加入している。

 だが、一般的には船員の確保と、貿易や輸送してくれる人を募集する所から始まった。

なので、今ではベンリーと言われる代行業者を指すことが一般的になったのだよ」


 「あ、じゃ、別になんでも屋さんが全部ギルドでは無いんですか?」


 「そうだな、協同組合だから、ご年配の生活援助組織もあるらしいな」



 すげぇアットホームなギルドだな。それって、老人ホームみたいな感じかな?



 「ちょうどいい、その話をしようと思ってたんだ。一度椅子に座ろう」



 ムッサウィルさんは椅子に戻り、俺達も続く。

 椅子に座るとウウクも座るが、手を離してくれない。飽きたのだろう。



 「ショウタ。今後の事だが、この土地で過ごすのはどうだ?」



 そう語りかけるムッサウィルさんは卓上で手を組み、俺を見つめる。その表情は真剣だ。



 「ここで、ですか?」


 「そうだ。 聞く所によると、君達は二人でベンリーを四人倒したんだろ?」


 「あ、はい。ただ、二人というか、ウウクが頑張ってくれて…彼女は故郷で狩りを仕事にしていたらしいので。それに相手は事故を起こしてましたから」


 「なら、尚更だ。プクティス狩りに来た男達を、一人で四人も倒すのは滅多にいない。この辺なら、ベンリーのスコット達くらいだ」



 スコット。ギルドでハデムを引き受けた男性だ。



 「そんなに凄いんですか?」


 「あぁ、スコットのギルドランクは10段階で8だ。この土地には五人と居ない。恐らく個人技量なら私よりも強い」


 「そうなんですか。エースだったんですね」


 「私はその彼女の実力が話通りで本当なら、同じくらいはすると思う。君も話した感じでは誠実だし、問題は無い。

 この土地は人手が足りないから、移民は歓迎だ。その為に学校もある。彼女は言葉を覚える必要があるなら無料で通える。

それに、荒事が嫌なら農業も飲食店もなんでもある。計算ができれば更に仕事は増える。

 …正直、君の話を聞くと、違法人身売買で売りに来て、争いごとに巻き込まれて捨てられた、としか思えん。故郷を離れてどれくらいだ?」


 

 やばい…期間か…


 

 「分かりません、四角い部屋で二人きりで、寝たり起きたりで、時間は…ただ、すごく長い道のりでした」


 「そうか。それだとなおさら君たちの故郷は私には分からない。この土地を出るにしても、莫大な船賃が掛かる。

故郷に帰るため、生きるためにはお金が必要だ。その生活をこの土地で過ごすなら、私が助けてあげよう」


 「本当ですか?」


 「あぁ、さっきも言ったが人手不足だ。四人を倒した話が偶然でも必然でも、人手は欲しい。それが私達の見解だ。

この土地は国ではない。法律も無ければ、王様も居ない。街々で助け合って生きている。その為のギルドだ。

 嫌な話だが、バーモンド・ロードを通ってくる悪党連中や海賊達パイレーツも居る。君たちはその類に連れて来られたと見るべきだ。

 対抗策は人を増やし、安全の確保が最優先だ。善人ならば誰も拒まい。 どうだろう?」



 こりゃ願ったり適ったりだ!

 故郷の惑星に帰る手段なんか無いんだから、ここで生活するにしても身元保証人が居ないと話にならないが、この人なら大丈夫そうだ。



 「あ、じゃあウウクに相談しても良いですか?」


 「もちろんだ。席を外したほうが良いかい?」


 「いえ、そのままで結構です。」



 俺はウウクに向き直り、握った手を引っ張った。引かれたウウクも俺の方を向き、一緒に手と手を握り合った。



 「ウウク。この人がこの街に住んでも良いって! ウウクを学校へも通えるようにしてくれるらしいぞ」

 

 「本当!? でも、がっこうってなぁに?」


 「ウウクにこっちの言葉とかを教えてくれるところだよ。俺も読み書きしたいから、行けるようにお願いしてみるよ!」


 「ショウタが一緒なら、私どこでもいいよ♪」



 決まりだ!!


 俺はウウクの手を握ったまま振り返った。ムッサウィルさんは笑ってた。多分雰囲気で分かったのだろう。



 「ムッサウィルさん、俺達ここで生活します。お願いできますか?」


 「あぁ、歓迎さ!」



 ムッサウィルさんはそう言って手を差し出した。


 それはとても力強い握手だった。





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