恋愛相談所~気になるあの子の好感度、教えます~
きなこ軍曹/半透めい
Case.00-00 プロローグ的な何か
「……それで、なに?」
4月、新しい学年に上がってまだ間もない今日、桜の花びらが舞い散る校舎裏に僕たちはいた。
目の前にはやや茶色がかった短い髪の女の子。
十人中五人くらいは可愛いと思うようなその女の子は去年までのクラスメイトだ。
「種島くんっ」
僕の名前を呼ぶ彼女の頬は上気し、林檎色に染まっている。
手を忙しなく握ったり広げたりする様子から、緊張していることなど一目瞭然だった。
「あの…っ…あのねっ…?」
「うん」
「私たち付き合うことになったの!」
その瞬間、僕の頬を殴るようにして強い風が流れていった。
風は桜の花を奪い去る。
風にあおられた花はただ一瞬の喜びとも知れない空を舞うと、地へと落ちる。
「そっか、それはおめでとう」
僕は目の前にいる二人の男女に向けて祝いの言葉を呟く。
それが心からの言葉であることに嘘はない。
彼女の隣にいるのは、同じく去年までクラスメイトだった男だ。
この男に以前より好意を抱いていた彼女は、色々と噂のある僕へと恋愛相談してきて、その結果こうやって二人は付き合うことになったという訳である。
「本当ありがとう! 一之瀬くんと付き合うことが出来たのも全部種島くんのおかげだよ!」
「いやいや、そんなことは」
「いいや、お前がいてくれなきゃ凛と出会うことも出来なかったのは事実だし俺からも礼を言わせてくれ。本当ありがとう」
「まぁ、俺もお前らが付き合ってくれて嬉しいよ、頑張った甲斐があったってもんだ」
付き合ってる者同士、仲良く手をつなぎながらお礼を言ってくる。
仲睦まじそうで何より。
二人がいつまでもこの関係でいてくれることを願うばかりだ。
「本当、種島くんがいてくれなかったらと思うと……」
「ほらほら、彼女が彼氏の前でそんなこと言ったら――」
「本当だよなぁ」
「――――っておい彼氏ぃ!?」
一体僕の評価は二人の中でどれだけ高いのだろうか。
まぁそこまで言ってもらえるのは、僕としても悪い気分はしない。
「僕が君たちの仲のために頑張ったのは、君たちが相手に対してちゃんと好きって気持ちを持ってたからだよ。もともと両想いだったし、あとは背中を押すだけだったからね」
「えっ、そ、そうなの!?」
僕の言葉に驚く彼女と、それ以上に驚いている彼氏さん。
「そ、それはそうだったんだけど……なんで知ってるんだ? 誰にも言ったことないはずだったのに……」
「まぁ、観察眼、ってやつかな?」
驚く二人に、自分の目の前に指で輪をつくりながらおどけて見せる。
「さすが、恋愛相談の種島と言われるだけあるなぁ……」
「恋愛相談の種島……!」
「拝んでもなんも出ないぞー」
彼氏彼女そろって阿呆なことをする二人に僕はため息をつく。
まぁこんな二人だったからこそ、《今回》は簡単だったんだけどな。
「じゃあ、またな種島」
「種島くん、じゃあね!」
「おー、仲良く帰ってねー?」
用事も済んだと仲良さそうに帰っていく二人を見送る。
あー、リア充爆発してくれないかなー?
「……」
冗談はさておき。
僕はもう一度、指で作った輪を目の前に持ってくる。
『78』凛→一之瀬
『75』一之瀬→凛
二人の頭の上には、そんな数字と文字が表示される。
ハートのようなシルエットに包まれるそれは、紛れもない、彼女から彼氏に対する「好感度」と、《彼氏から彼女に対する》好感度」だった。
「……」
手を戻すと、その数字と文字はなくなり普通の現実が帰ってくる。
しかし、さっきのは夢でも何でもない。
昔からの、僕だけの特殊な能力だ。
「……帰ろっかな」
一体どうして僕にあんなものが見えるのか、それは分からない。
ただ僕は、正真正銘愛し合っている二人の邪魔をしないように、普段とは違う、慣れない帰り道へ歩きだした。
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