Case.02-04
「種島せんぱーい、遅いですよー!」
「ごめんごめん」
僕は今、華村さんに屋上まで呼び出されていた。
昨日と同じで昼休み。
ご飯を食べていたら少しだけ遅れてしまった。
因みに連絡先は昨日の部活が終わったあとこっそり教えておいたのだ。
「それで話って?」
電話越しに聞いた華村さんの声はどこか切羽詰まったような感じがして、少しだけ心配していた。
今も元気を装っているが、どこかぎこちない感じがする。
「えっとですね、鈴木先輩のことでちょっと相談があって」
「うん」
まぁ華村さんが僕を呼び出す理由なんて、恋愛相談についてのことくらいしかないだろう。
それ以外には思いつかない。
「昨日、部活で鈴木先輩とちょっと話したんですよ」
「うん、こっそり見てたから知ってるよ」
「そ、そうなんですか?」
僕の言葉に、戸惑ったような声をあげる華村さん。
あれ、これは言わないほうがよかった?
「でも、それなら話は早いです」
無意識にだろうが、少しだけ下がっていた視線が僕へと向けれらる。
「鈴木先輩に――――嫌われちゃったかもしれません」
「え?」
真剣な視線でそう伝えられた言葉はあまりにも突拍子すぎて、思わず間抜けな声を上げてしまう。
華村さんが嫌われた?
誰に?
鈴木くんに?
「いやいや、それはないでしょう」
「そう、ですか……?」
「昨日とか練習見てたけど凄く仲良さそうだったし、嫌われてるなんてことはないでしょ」
実際、他の男子女子に比べても圧倒的に距離感が近かったと思う。
汗を拭くタオルを渡す華村さんと、受け取る鈴木くん。
どちらも笑顔で、幸せそうだったと思うのだけど……。
「それは先輩が普段を見ていないからですよ」
「……」
「私は、ほぼ毎日鈴木先輩と接してるんです。その中で、そう感じちゃったんです」
自分の言葉に再び視線を下げてしまう華村さん。
僕は言われたことを、もう一度頭の中で考える。
そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。
僕は華村さんから恋愛相談を受けている。
ただそれだけの関係だ。
鈴木くんとも去年のクラスメイトという接点があるだけで、それ以上でもなければそれ以下でもない。
言ってしまえばただの外野だ。
中で起きていることは、外野には分からない。
それが分かるのは内野にいる人だけだ。
華村さんが、鈴木くんから嫌われてしまったかもしれないというのなら、その可能性だって十分にある。
「…………あ」
そこまで考えて思い出した。
昨日の違和感。
好感度が下がったような気がしたのは、気のせいじゃなかったのかもしれない。
「ん、どうかしたんですか?」
「い、いやなんでもない」
僕は慌てて首を振る。
間違っても華村さんに好感度なんかの話は出来るわけない。
「と、とりあえずどうするか、だよね」
「はい……どうしたらいいんですかね……」
華村さんは再び落ち込んだような声を出す。
その様子から、本当に落ち込んでいるのだろうことが分かる。
すぐにどうにかしてあげたいのだが、そんな急に何か出来るわけでもない。
「因みにどんなとこが嫌われたのかもって思ったの?」
「えっと、なんかいつもより目を合わせてくれないっていうか、なんかこう、何時もより距離が遠かったっていうか……」
「なるほど……」
距離感なんかに関しては僕はそんなこと全く感じなかったけど、やっぱり華村さんからしてみればそう感じてしまったのだろう。
僕もそれを信じなくちゃならない。
「どう、したらいいんですかね、ほんと」
華村さんは、どうしたら良いのか分からないといった風に、その場にしゃがみ込む。
そしてそのままスカートに顔を押し当てて、動かなくなってしまう。
「ひとまずは、今日もいつも通りに部活にいかなくちゃ、いけないね」
僕は、そんな彼女に手を差し出すことが出来ない。
そんな簡単にどうこう出来ることじゃないのは、一番わかってるつもりだ。
「そう、ですね。ひとまずは、そうします」
僕の言葉に、ゆっくりと顔をあげる華村さんは、一言だけお礼を残すとそのまま屋上を後にする。
一人残された屋上で、ひときわ冷たい風が僕の頬を掠めた。
「まずい、なぁ」
その日の放課後、僕は昨日と同じくグラウンドの隅っこの方へとやってきていた。
そこでそう呟く。
今僕は目の前で輪っかを作って、サッカー部を覗いている。
『59』鈴木→華村
彼から彼女への好感度が、確実に下がり始めていた。
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