Case.02-03


 僕がどうして恋愛相談をしていることがあまり知られたくないのかというと、一つは純粋に恥ずかしいからである。

 恋愛経験のない平凡男が偉そうに他人にアドバイスしてやがるなんて言われた日には不登校になってしまいそうだ。


 もう一つは、恋愛相談を進めていく上で支障になる可能性があるからだ。

 今はまだ僕の噂のことを知る人がそこまで多くないので、特に隠れて動いたりしているわけではないが、これ以上噂が広がってしまったら、今まで通りに恋愛相談を受けられるか正直分からない。

 前回だって、結果的にいい方向へと転んだから良かったものの、結構ギリギリだった。


 だから僕は、恋愛相談の噂はあまり広がってほしくない。

 それで僕のモテ度が上がるのなら、まぁ広がってもいいかな。

 ただ現状でそこには全くの変化が見られないのだから、それならば現状維持が一番いいに決まっている。


 まぁ広がってしまった噂を今更あれこれ言っても仕方がない。

 それにそんな噂を信じる人なんて、そうそういないだろう。

 現に恋愛相談をしにきたのは華村さん一人だけ。

 そんなことを考える暇があるなら、今受けている恋愛相談について考えた方が良さそうだ。


「確か、サッカー部って言ってたけど……」


 放課後、僕は華村さんと鈴木くんの二人が所属しているサッカー部のグラウンドの近くにまでやってきていた。

 目的はもちろん件の二人だ。


「えっと、どこにいるかな?」


 さすがサッカー部というべきか、人数が他の部活動に比べてもかなり多い。

 鈴木くんが全く見つからない。

 去年同じクラスだったので顔は分かるのだが、何しろこの人数だ。

 もっと近づければ話は違うかもしれないが、この距離からじゃ正直厳しい。


「ん、あれ?」


 サッカー部の練習を見ていると、ふとその中でも頭一つ抜きんでている部員がいた。

 何人ものディフェンスを一人で抜いてしまったかと思うとそのままシュート。

 蹴られたボールは弧を描くようにして綺麗にゴールに吸い込まれていく。


 素人の僕でも思わず見入ってしまうようなプレイをするのは、なんと去年までのクラスメイトだった鈴木くんだった。

 シュートを決めた鈴木くんは、まるで子供みたいにガッツポーズをとっている。


 これは、モテますわ。

 プレイしている時の格好良さと、喜ぶ時の子供らしさ。

 華村さんが力説するほど惚れてしまうのも分かってしまう気がする。


「まぁでもこれで鈴木くんは確認できた、と」


 あとは華村さんだけだ。

 しかしサッカー部のマネージャーは部員よりかはその数が少なく、華村さんを見つけ出すのにそんな時間がかかることはなかった。


 そんな華村さんだが、遠目で見ていても鈴木くんばかり見ているのがよく分かる。

 無意識のうちにやってしまっているのだろうけど、あれでは別に僕じゃなくてもバレバレではないだろうか。


 鈴木くんにボールが渡ると目を輝かせ、一人を抜くと花の咲いたような笑顔を浮かべている。

 ああいうのを見ていると、好きな人が出来ると可愛くなるという言葉も頷けてしまう。


「よし、じゃあ早速」


 僕は他の人に気付かれないように、グラウンドの隅っこまでやってくると、いつもみたく指で輪っかを作り目の前へ持ってくる。

 二人の好感度は、と……。


『72』華村→鈴木

 これはまぁ、依頼人なのだから高いのは当たり前だろう。


『64』鈴木→華村

 こっちも、普通にしてみれば全然高い方だ。

 ただ、決め手に欠ける、といったところだろうか。

 もう少し頑張れば、告白すればオッケーをもらえるはず。


「ん、終わったっぽい……?」


 ちょうどその時、部活が終わったのかボールを蹴っていた部員たちが戻っていく。

 マネージャーからタオルと飲み物を受け取り、疲れのため息を零している。


「えっと、鈴木くんと華村さんはーっと」


 あれか。

 どうやら鈴木くんの分のタオルと飲み物は、今日が偶然かもしれないが、華村さんが用意している。

 二人で会話をしている様子は他の部員とマネージャーに比べても確かに親しそうだ。


『63』鈴木→華村


「……あれ?」


 その時ふと違和感を感じる。

 なんだか鈴木くんから華村さんへの好感度が少しだけ下がったような気がしたのだけれど……気のせいだろうか。


 僕は目の前で輪っかを作ったまま、二人の仲睦まじそうな様子を見ている。

 他の部員たちやマネージャーが同性と話しているにも関わらず、二人で話しているくらいだ。

 それなのに、好感度が下がったりするようなことがあるのだろうか。

 僕は注意深く二人を見つめている。


 結局その後、二人の好感度は変わることなく部活は終わった。

 恐らく初めに見たときに見間違いをしてしまったのだろう。

 僕はさっきまでの二人の親しそうな様子を思い浮かべながら、その隠れた心配事を頭から追いやった。

 

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