Case.02-02
まぁ、そうだよね……。
僕なんかに告白とか、天と地がひっくり返ってもないんじゃなかろうか。
一瞬期待してしまったのが恥ずかしい。
「恋愛相談、受けてもらえるんですか?」
華村さんが髪を揺らしながら尋ねてくる。
とくに断る理由もなかった僕は頷く。
ちょうどしばらく恋愛相談も受けていなかったので、十分に休むことは出来ている。
「あ、でも誰が好きなのかとかは教えてもらえる?」
恋愛相談を受けてもらえるのがそんなに嬉しかったのか、にこにこと微笑んでいる華村さんに言う。
前回もそうだったけどやっぱりこれは欠かせない。
「お、教えないとダメなんですか……!?」
「そ、そりゃあ、ね?」
僕の言葉にとんでもないみたいな表情を浮かべる華村さん。
確かに知り合って間もない人に自分の好きな人を教えるのは恥ずかしいかもしれないが、それはどうしようもないとしか言いようがない。
「う、うぅ……、だ、誰にも言いませんか……?」
「そりゃあ、もちろん」
僕もさすがにそこまで外道じゃない。
僕の言葉に、諦めたように息を吐く華村さん。
「鈴木 健太先輩、です。二年の」
「鈴木くん?」
僕はその名前を思い出す。
確か去年くらいに同じクラスで、何度か話したこともあったはずだ。
恐らくその鈴木くんだろう。
「私、サッカー部のマネージャーをしてるんですけど、鈴木先輩はサッカー部のレギュラーなんです。もうすっごい恰好いいんですから!」
鈴木くん、言われてみればサッカーをしてそうな名前だ。
ってこんなことを言ったら全国の鈴木さんに失礼か。
まぁでも、鈴木くんと言えば、確か去年のクラスの女子たちの間でも人気だったような気がする。
「鈴木くんは今彼女とかはいないの?」
「はい! それは確認済みです!」
どう確認したの!? と思わず突っ込みそうになる。
まさか自分で聞いたりするのだろうかと恐ろしくなるが、友達か誰かを通して確認したのだろう、多分。
「鈴木先輩はいっつも優しくて、マネージャーの私に気を遣ってくれたりするんですよ!」
「へ、へぇそうなんだ」
思わず引いてしまうほどの力説をしてくる佐々木さん。
それくらい鈴木くんのことが好きなのだろう。
まぁそれは依頼を受ける側としては色々と安心できるので、良いことだ。
「種島先輩」
「ん、はい」
すると突然、今までの明るい雰囲気とは一転して、真剣そのものといった表情の華村さんが僕を呼ぶ。
「私、本当に鈴木先輩と付き合いたいんです」
「うん」
それは言われなくても今までの華村さんの様子を見ていたら分かる。
どれくらい好きで、鈴木くんという存在が華村さんの中でどれくらい大きく場所を占めているのかも。
「種島先輩は、私と鈴木先輩を付き合わせてくれるんですか?」
目を離さないで、そう聞いてくる。
これは、僕もちゃんと応えなくちゃならない。
「僕に恋愛相談をしたからって、絶対に上手くいくなんて軽いことは言えない」
僕の言葉に若干顔を暗くする華村さん。
でも、嘘はつけない。
仮にも人の心が関係することだ。
そう簡単に思うようにいくわけでもないし、もちろん失敗することもある。
「でも、二人が付き合えるように努力はするよ。これだけは絶対」
上手くいきそうか、そうじゃないか。
そんなことは関係ない。
恋愛相談を受けたのは僕だ。
努力もしないなんて、そんなの嘘でしかない。
だからそれだけは約束できる。
「ふふっ、期待しておきますね」
握りこぶしを作り意気込む僕に、華村さんはくすっと笑っている。
そんな彼女を見て僕も少しだけ笑みを浮かべてしまう。
これは失敗なんてしたら、後が怖そうだ。
まぁひとまずは鈴木くんたちのお互いの好感度を見るところから始めればいいだろう。
「あ、一つだけ聞きたいことがあったんだ」
「なんですか?」
嬉しそうにくるっと回っている後輩を見ていて思い出した。
結構重要なことだったのに、危ない危ない。
「華村さんはどうして僕が恋愛相談を受けてることを知ったの?」
僕の恋愛相談が広がるとしてもせいぜい学年どまりだろう。
どこかの冴島さんとかはもっと凄いのだろうけど、僕の噂をどうして一年の華村さんが知っているのか聞かなくてはならない。
「私は部活の先輩たちに教えてもらったんですよ」
「部活の先輩……?」
「はい、二年のマネージャーの先輩で、種島先輩のことを知っている人がいて、恋愛相談をするならこの人だ! って一年のマネージャーに教えてくれたんですよ」
「……ストップ」
今とんでもないことが聞こえた気がする。
二年のマネージャーが一年のマネージャーに……?
「は、華村さんが個人的に教えてもらったわけとかではなく?」
「はい、十人くらいで教えてもらいました」
「ま、まじですか……」
まさかそんなことになっているとは思わなかった。
おのれサッカー部のマネージャーめ……!
恋愛相談であふれかえったらどうするつもりなんだ……!
いやでも、別に十人くらいだったら、まだそんなに気にしなくても――。
「そのことを昼休みとかに他の人とかにも広めちゃったんですけどね」
てへぺろ、と言った風に小さく舌を出す華村さん。
恋愛相談受けるの、やめようかな……。
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