Case.02-01 マネージャーと部員
四月も終わり、新しいクラスにもようやく馴染んできたころ。
今西くんたちの恋愛相談の一件以来、僕の周りはいたって平凡な日々が続いていた。
教室を見渡せば、それぞれの仲良し同士でグループが出来上がっていて、楽しそうに話している。
因みに僕はどのグループでもなく一人きりだ。
もちろん、恋愛相談を経て知り合った人たちはよく話しかけてはくれるが、それでもやはり根本的なところで住む世界が違うのは仕方ない。
残念なことに、このクラスには僕の親友はいないのだ。
「種島くん」
「は、はい」
唐突にかけられた声に驚く。
振り返った先にいるのは僕も知っている顔だった。
肩らへんで綺麗に切りそろえられた髪は、いわゆるボブカットというやつだろうか。
どこか優雅さを感じ取ってしまう彼女を知らない人は、このクラスだけじゃなく学年でもそういないはずだ。
クラス内だけでも相当な人気を誇り、今まで告白された人数は軽く二桁に届いている。
実際、彼女の容姿は見ているだけでも思わずため息が出そうなほど整っていて、男子がこぞって告白してしまうのも分からないでもない。
「えっと、どうしたの?」
そんな冴島さんだが、実は僕は彼女のことが少し苦手だ。
色々と事情があって、僕は今、冴島さんに嫌われている。
だから話すときはどうもいつも以上に緊張してしまう。
「あの子が種島くんを呼んでほしいって」
そう教えてくれる冴島さんの表情はやはり、少し不機嫌そうに見える。
少しでも僕なんかとは話したくないのだろう。
「あ、ありがとう」
僕は冴島さんと出来るだけ早く距離を取るために、教えてくれた方へと急いだ。
「えっと、何か用、かな?」
わざわざ僕を呼ぶなんて一体誰だろうと思い見てみると、顔も知らない女子だった。
髪を二つに結んだその姿はどこか小動物を思い出させる。
「ちょっと、先輩に用があるんですけど、だめですか……?」
どうやらこの女子は下級生のようだ。
上目遣いでそうお願いしてくる。
「う、うん。別にいいよ」
もちろん僕なんかがそんな女子の魔法道具を使った攻撃に耐えられるわけもなく、あっさり頷いてしまった。
まぁでも、特に何か用事とかあったわけでもないし、構わないだろう。
冴島さんも不機嫌そうだし、少し教室を離れてみるのも良さそうだ。
僕は、視線の先で揺れる二つ結びを急ぎ足で追いかけた。
呼び出されて連れていかれた先は、体育館の裏。
昼休みとはいえ、そこに誰か先客がいるわけもなく、場は木の葉のざわめきしか聞こえない。
生い茂る木々は、陽の光を遮り、陰を作り出している。
たまに落ちてくる木の葉が、風にあおられ、頬をかすめる。
「私、
「僕は知ってるかもしれないけど種島
わざわざこんなところまで連れてきたんだ。
何か大事な理由があるに違いない。
「…………」
女の子は言いにくそうな顔を浮かべながら、顔を背ける。
その時一瞬見えた頬は赤く染まり切っている。
おいおい、そんな仕草をされたら思わず勘違いしてしまうじゃないか。
しかし、いつまで経っても女の子はなかなか切り出そうとせず、ちらちらとこちらの顔を窺ってきては、視線が合うとまた背ける。
まるでこれから告白をするかのようだ。
ごくり。
思わず唾をのむ。
初めは恋愛相談だろうと思っていたのだが、よく考えれば相手は下級生。
普通に考えて、一年にまで僕のことが知られている可能性なんてほぼ皆無だろう。
つまりこれは、もしや本当に……。
これまで色々な恋愛相談を受けてきたけど、自分自身で恋愛をしたことも告白されたこともなかった。
それがついに恋愛相談を受ける身として一つレベルアップできるのか……!?
「…………じ、実は私」
長い沈黙の末、華村さんが切り出してくる。
その言葉の後に続くのは、どんな言葉なのだろうか。
ご、ごくり。
「す、す……」
「す?」
「好きな人がいるんです!」
「…………」
思わず黙る。
「そ、それで、恋愛相談を受けてもらえないかと!」
「あ、はい」
やっぱり、世界はそんなに甘くない。
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