Case.01-07
「…………ぇ」
今西くんの告白に戸惑いを隠せない佐々木さん。
そりゃあそうだ。
振られたと思っていたんだから。
「莉子」
僕たち三人の中で、最もその名前を呼ぶべきだった男が、初めてそう口にした。
「は、はい」
急に改まった今西くんの態度につられる佐々木さん。
その表情に影は残っていない。
ただ喜び一色という訳でもなく、純粋に状況を把握しきれていないようだ。
「俺と」
「亮くん、と…………?」
少しの沈黙。
今西くんは、大きく息を吸った。
「付き合ってください」
飾らない告白で、自分の気持ちを伝える。
もっと上手な言い回しが良いとか、直接的で良いとか、そんなことは分からない。
ただ、これまで隠してきた気持ちを伝えるためだったからこその選択だったんじゃないだろうか。
佐々木さんは、呆けたようにその場に立ち尽くしていて。
今西くんは顔を俯けず、その視線はずっと佐々木さんに向けられている。
「嘘じゃ、ないの……?」
そして紡がれる言葉。
信じられないのも無理はない。
「嘘じゃない」
そしてすぐにそう返す今西くん。
視線の向かう先は変わっていない。
「夢じゃ、ない……?」
「夢じゃない」
「本当なの……?」
「本当だ」
「恋愛相談、は……?」
「お前と付き合いたかった」
「私で、いいの……?」
「莉子が、いい」
二人の会話が進んでいく。
佐々木さんはようやく状況を把握でき始めたのか、その頬は次第に赤く染まっている。
今西くんはというと、とうに耳まで紅葉色だ。
「私でよければ――――お願いします」
それは告白の返事だった。
それも今西くんが一番聞きたかっただろう言葉だ。
「う、嘘じゃない?」
今西くんがそう確認する。
「嘘じゃないよ」
「夢じゃない?」
「夢じゃない、と思うけど」
「本当、なのか?」
「本当だよ」
「俺なんかで、いいのか?」
「亮くんがいいの」
さっきとは立ち位置が逆になったやりとり。
僕はそんな二人を見て、立ちあがる。
これ以上は別に僕がいなくても大丈夫だろう。
僕は最後に、視線を二人に移す。
ばれないようにしつつ、指で作った輪っかを目の前に持ってくる。
『81』今西→佐々木
『80』佐々木→今西
「リア充爆発しろ」
思わずそう呟かずにはいられなかった。
「こんなとこにいたのか、種島」
「ん、今西くん」
昼休み、人の少ない屋上でジュースを啜っていると、突然声をかけられる。
振り返った先には、先日の相談人が立っている。
「こんなところまでどうしたの?」
たまにやってくる屋上は、解放されてるというのに人の少なさが目立つ場所だ。
個人的には結構気に入っているのだけれど、周りはそうではないらしい。
「いや、ちゃんとお礼を言ってなかったな、って」
「私もねっ」
そういうのは、突然今西くんの背後から現れた佐々木さん。
あの時は見せてくれなかったとびきりの笑顔は、今日もかわいい。
こんな幼なじみが彼女とか本当妬ましいなこの野郎。
「ほんと、種島には世話になった」
「いやいや、たった一日だけだし、僕は何もしてないよ」
かなりな急展開が続き、僕がしたことなんてほとんど何もなかっただろう。
「いや、種島がいたから佐々――莉子とは付き合えたんだよ。本当にそう思ってる」
佐々木と言いかけた今西くんの足を、その彼女さんが軽くふみつける。
ざまあみろ、だ。
まぁでも、そうやって言ってくれるのは素直に嬉しい。
恋愛相談を受けて良かったって、本当に心からそう思う。
「種島くんにも振られたとき、私どうしようって思っちゃったよ」
「……え?」
笑いながらそんな爆弾発言をする佐々木さん。
全く身に覚えのないことに一瞬固まる。
彼氏さんも驚いた顔でこちらを見てきている。
もしかしてそれって、佐々木さんの恋愛相談を断った時のことを言っているのだろうか。
それにしてもその言い方はさすがにまずいのではないだろうか!?
「い、今西くん? ち、ちょっと落ち着こう?」
じりじりと詰め寄ってくる今西くんをなんとかなだめようとする。
誤解を解くにも時間がなさすぎる。
「種島てめぇぇぇええええええ!」
ついに飛びかかってきた今西くんをなんとか躱し、誤解を解こうと試みる。
しかしどんどんと距離を詰めてくる今西くんにそれをあきらめる。
ふとその時、視線の隅で佐々木さんが小悪魔みたいな可愛い笑顔で、舌をぺろっと出しているのが見えた。
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