Case.04-04
「今日、どこまで二人の距離を縮められるか……」
僕は今、二人の待ち合わせ場所でもある駅前へと向かっていた。
今回僕は完全な裏方なので、先生にばれないようにしなくてはならない。
裕生先輩はまた連絡すると言ってくれていたので、そこら辺を心配する必要はないだろう。
だんだんと駅に近付いてくる。
僕はどうやったら二人の関係を進められるか考えながら歩いていた。
どうやら今僕が歩いている道は人通りも少ないようで、人とすれ違うことも少ない。
考え事をするにはちょうどいいところだ。
そんなことを思っている時だった。
「――――っ」
後ろから誰かに殴られたような、すごい衝撃を覚えたのは。
僕はどうすることも出来ず、意識を手放した。
◆ ◆
「……こ、こは……」
重たい目蓋を開け、ゆっくりと顔をあげた僕は自分の置かれている状況が全く分からなかった。
頭は痛いし、手も何かに縛られたまま椅子に座らされていて、どこか少し広めの部屋に閉じ込められている。
何が、あったんだっけ。
「そういえば、何かに殴られたような……」
僕がそう思い出した時、すさまじい悪寒を感じた。
そしてそれを感じたとき、部屋の外から足音が聞こえてくる。
「ゆ、誘拐……!?」
僕は混乱する頭の中で一つの可能性を見出す。
もしかしたら本当にそういうことなのかもしれない。
そうだったらこれから僕は何をされてしまうんだろうか。
足音は部屋の前で止まり、ゆっくりとドアノブが回されていく。
僕は唾を飲みながら、視線を向ける。
「…………?」
部屋の中に入ってきたのは、いかにもガラの悪そうな人たち。
裕生先輩なんかよりも凶暴そうで、絶対に関わり合いたくないような人たちばかりだ。
しかしとても誘拐なんてことをするような人たちではないように思える。
皆が皆、学生っぽいし、運転できる人もいなさそうだ。
かといってこれまでこんな人たちと関わりを持つよなことをした覚えもない。
一体どうして僕はこんなところまで連れてこられたのだろうか。
「お、目が覚めてたか」
「……あ、あなたたちは一体誰なんですか?」
僕は出来るだけ相手を刺激しないように尋ねる。
「そりゃあお前『星川 裕生』ってやつとダチだろ?」
たくさんいる内の一人が教えてくれた名前は、紛れもない恋愛相談の依頼人だった。
知っている名前に僕は思わず黙り込む。
こうやって僕と裕生先輩の仲を知っているということは、他にどこまでのことを調べられているのか分からない。
変に嘘を吐いたりするのはあまり得策じゃないだろう。
殴られるのが痛いのは分かっているので、本当嫌なのだ。
「裕生先輩とあなたたちは、どういう関係なんですか……?」
僕はもう一度尋ねる。
両者に何かあるでもしない限り、僕がここまでされる理由はないはずだ。
「俺たちは一回あいつに喧嘩ふっかけて、返り討ちにされたんだよ」
「なっ」
僕はその人の言葉に驚く。
ここにいるのは五人。
その全てを返り討ちにしたというのだろうか、あの裕生先輩が。
普段見た目とは違って、親し気な裕生先輩がそんなことをしているとはとても想像がつかない。
しかし僕は少しだけ安心した。
もし裕生先輩から喧嘩をふっかけたりしたのだったらどうしようもないが、どうやらこの人たちの今回の行動はただの逆恨みからくる行動だろう。
「もうお前の携帯からあいつには連絡しておいたからよ、もうすぐ来るかもしれないぜ?」
にやにやと嫌な笑みを浮かべながらそう言う不良の一人の言葉に、僕は今日の予定を思い出す。
本当に来てくれるだろうか、裕生先輩は。
今日は頑張って手に入れた好きな人と距離を縮められるかもしれない絶好の機会だ。
その機会を捨ててまで、裕生先輩は僕のもとにやって来てくれるのだろうか。
「……」
そもそも僕は、やって来てほしいと思っているんだろうか。
僕は、あれだけ頑張った裕生先輩が報われてほしいと思っている。
だから今日、僕も出来るだけ頑張ろうと意気込んでいたのだ。
「……」
裕生先輩。
まだ出会って間もない僕たち。
そんな僕の危機的状況に、裕生先輩はどうするんだろう。
僕は、どうしてほしいと思っているんだろう。
「あなたたちは、裕生先輩を呼び出して、どうするつもりなんですか……?」
「そりゃあもちろん、袋叩きにするに決まってんだろ」
「でも、前回は負けたんですよね。今回はどうなんですか」
「そのためのお前だよ」
どうやら僕は人質としてここに連れてこられたようだ。
僕は思わず縛られている拳を握りしめる。
もうちょっとあの時人通りの多い道を通っておけば。
そう思うと堪らなく悔しい。
どうして今日なんだ。
そう思うと堪らなくこいつらが憎らしい。
「裕生、先輩……」
僕は誰にも聞こえないような小さな声で、その名前を呼んだ。
――――――――――ッ!!
その時だった。
部屋の扉がまるでただの障害物でもあるかのように、簡単に壊されたのは。
「すまん、待たせたな」
そこには、好きな人との予定を放り捨ててきて、少しだけ残念そうな顔をする裕生先輩が立っていた。
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