Case.04-03


「うーん、中々に高いんだけどなぁ」


『61』――それが神崎先生から裕生先輩への好感度だ。

 もちろん裕生先輩から神崎先生に対する好感度はかなり高く『71』だ。

 それだけでもかなり好きなのだと分かる。


 神崎先生から裕生先輩に対する好感度は普通に考えてそこまで低くない、

 むしろ高い方だ。

 でもだからといって神崎先生にとって裕生先輩が特別というわけではない。


『59』『62』『60』『58』


 これは、神崎先生から他の色んな生徒に対する好感度。

 このことから神崎先生が、裕生先輩にだけ好感度が高いという訳ではなく、みんなの好感度が分け隔てなく高いということがわかるだろう。


「つまり今回の恋愛相談を成功させるには、この中で特別になる必要があるのか……」


 それだけでもかなり難しいというのに、相手は現役の女教師。

 どうしても生徒と先生という間には絶対的な壁があるはずだ。

 それをどう乗り越えるか、そこが今回の恋愛相談を成功させる鍵になる。


「裕生先輩はまず神崎先生の雑用から始めるべきだと思います」


 僕は鼻の下が伸びた顔で神崎先生を見つめる裕生先輩に声をかける。

 少し不思議そうな顔をする先輩に説明する。


「少しずつこつこつと神崎先生との距離を縮めていかなくちゃいけません。荷物運びとか積極的にやってください」


「あ、あぁ」


 緊張したように頷く裕生先輩。

 確かにいきなり好きな人の手伝いをするなんて、他の人から考えたら難易度の高いことであることは間違いないが、裕生先輩には頑張ってもらうしかない。


「じゃあしばらくは裕生先輩、頑張ってくださいね」


「あ、あぁ……分かった」


 裕生先輩のごくりと唾を飲み込む音が聞こえてくる。

 そしてそのまま裕生先輩は、プリントを落としている神崎先生の下へ早速向かっていった。




「……ふむふむ」


 最初に裕生先輩にアドバイスしてから数日が経った。

 僕は今、困っている神崎先生の下に颯爽と手伝いに入る裕生先輩を見ている。

 初めはぎこちなかった裕生先輩だったけど、今では先生とも仲良くなっているように見える。

 ただ一つ問題をあげるとすれば、不良さんでもある裕生先輩が神崎先生の手伝いをしているという姿に周囲の目が向けられているということだろうか。


「好感度は……っと」


 僕は一緒に荷物を運んでいる二人の好感度を確かめる。

『73』裕生→神崎

『65』神崎→裕生

 二人とも頻繁に一緒にいるからか、好感度が上がっている。


 神崎先生の他の生徒たちに対する好感度を見ても『65』というのは見かけない。

 ここまで高いのも恐らく裕生先輩くらいだろう。


「あ、裕生先輩お疲れ様です」


 手伝いも終えて僕の下にやってきた裕生先輩の頬は少しだけ赤い。


「な、なぁ実は、今週末先生と買い物に行くことになって……」


 恥ずかしそうに頬を掻きながら、そんなことを言う神崎先輩。

 顔が赤かったのもそれが理由だったのかもしれない。

 でもそれは二人の生徒と先生という関係を壊すにはもってこいのイベントだ。


「それで出来ればこっそりついてきくれないかと思ってよ」


 どうやら裕生先輩もさすがに二人きりで遊びに行くのは厳しいのかもしれない。

 まぁそんなこと言われなくてももともとついていく予定だったので、本人の了解が貰えたと思っておこう。


「因みにどこに行けばいいんですか?」


「あぁ、日曜の10時に駅前あたりに来てくれればもう一回連絡するからよ」


「了解です」


 日曜といえばやっぱり特に予定も入っていない。

 僕は頷く。

 今週末にどれだけ神崎先生の好感度をあげることが出来るか、頑張らなくてはならない。


「あ、裕生くーん!」


 そんな時僕と裕生先輩の間に降ってくる声。

 ふわり、という声が似合うその人を振り返る。

 そこには僕も数学の授業でお世話になっていて、件の神崎 菜々花先生が立っていた。


「っ」


 突然の神崎先生出現に動揺を隠せていない裕生先輩に、僕は二人の間に入る。

 このままでは変に墓穴を掘りかねない。


「あれ、神崎先生どうしたんですか?」


「あ、種島くん。もしかして裕生くんと友達だったの?」


「えっと、はい。そうですね」


「そっかぁ」


 僕の友達発言に嬉しそうな表情を浮かべる神崎先生。

 一体何が嬉しいのだろうか。


「裕生くんってあんまり友達とかと一緒にいる姿を見かけないから、ちょっと安心しちゃったっ」


 先生の言葉に、僕はなるほどと頷く。

 確かにこれまで裕生先輩が友達らしき人と一緒にいる姿は見たことが無い。

 もしかして友達が少ないのだろうか。


「それで神崎先生は何の用で?」


「あっ、これ裕生くんがいつもお手伝いしてくれるから、そのお礼にと思って」


 そう言いながら何やら差し出してくる神崎先生。

 そこでようやく冷静を取り戻した裕生先輩がそれを受け取る。


「これは、クッキーですか……?」


 驚いたように呟く裕生先輩に、神崎先生は頷く。

 そんな二人を見て、これは確かに裕生先輩が惚れてしまうのも無理はないかもしれないと納得する。


「あ、ありがとうございます!」


 心底嬉しそうにしている裕生先輩はなんというか可愛い。


「いいのいいの! じゃあ今週末も楽しみにしてるねっ」


「は、はい!!」


 可愛らしい笑みを浮かべ手を振りながら離れていく神崎先生に、裕生先輩も心ここにあらずといった感じで手を振り返している。

 そして神崎先生が見えなくなると呆けたように受け取ったクッキーを見つめている。

 どうやらそのクッキーは可愛くラッピングされているらしい。


 さすが若いというべきか、今風な感じだ。

 するとハッと何かに気付いたように裕生先輩が僕を見てくる。

 どうしたんだろう。


「こ、このクッキーはやらねーぞ!?」


 いらないです。

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