Case.03-02
「いつから田中くんのことが好きだったの?」
僕と園田さんは今、二人で駅に向かっていた。
別に僕は電車を使うような通学路ではないのだが、これも田中くんと恋愛相談のためだ。
「い、一年の時からです」
園田さんは頬を少しだけ紅潮させ、おずおずと教えてくれる。
それにしても一年前、か。
つまり田中くんと園田さんが別のクラスになった時はもう既に好意を持っていたということだ。
僕が記憶している限りでは、田中くんの方も去年から園田さんに好意を向けていたはず。
時期まで一緒なんて凄い偶然もあったものだ。
「どうして好きになったのかは聞いてもいい?」
「そ、それはちょっと恥ずかしいんですけど、言わなきゃダメ、ですか……?」
うわぁ、これが今時ガールの力か。
きっとこの上目遣いも意図せずしてやっているんだろう。
こんな子に好かれるなんて田中くん、親友として嬉しいよ……っ!
「ま、まぁ恋愛相談を受けていく側としては、教えておいてくれたら嬉しいかな」
それでも僕は園田さんの上目遣いに揺らぐことはない、うん。
好きになった理由を話そうとする園田さんは、さっき以上に頬を紅く染め、手でぱたぱたと顔を仰いでいる。
「そ、その、田中さんには何度か助けていただいていて……」
「田中くんが?」
好かれるようになるほどのことなんて、一体どんなことをしたんだろう。
僕は首を傾げる。
「えっと、変な人に声をかけられてた時とかに、連れのフリをしてくださったり、手を引いて遠ざけてくれたり、してくださいました」
そう言う園田さんの顔はもう林檎のように真っ赤だ。
これ以上はさすがにやめてあげよう。
それにしても田中くんがそんなことをするなんて……。
僕は普段の田中くんを思い浮かべる。
『たっねしっまくぅぅぅぅぅぅん!!』
…………ちょっと想像が出来ない。
それだけ愛の力というものが凄いということだろうか。
僕は思わず感慨深くなる。
「田中くんは、凄い良い人なんです」
園田さんは顔を赤くしたまま、好きな人のことを僕に教えてくれる。
「電車で困ってるお年寄りの方や妊婦の方を見つけたらすぐに席を譲ったりしてますし、迷子の男の子をお母さんが見つかるまで一緒にいてあげてそのまま学校に遅刻しちゃったり、他にも一杯あるんです」
「うん」
僕は頷く。
これでも田中くんの親友を自負している僕だ。
田中くんの良いところを知らないはずがない。
本当に田中 勉って男は良い奴なんだ。
だからこそ幸せになってほしいっていうのもある。
こんなに田中くんの良いところを理解してくれている人と、幸せになってほしい。
恋愛相談、頑張らなきゃ。
僕は心の中で密かに鉢巻を頭に巻いていた。
でも今回の恋愛相談で僕は何が出来るだろう。
お互いに理解はしていないけれど今二人は両想いなのだ。
どうやって二人をくっ付ければいいだろうか。
家に帰ったらじっくり考えるのが良いかもしれない。
僕たちはそれから田中くんの良いところを交代で一つずつ挙げていって、どちらが先に言えなくなるかというゲームをしている。
余裕で勝てると思っていたこのゲームだったけど、園田さんは中々に手強い。
さすがに好きな人だというのは良いところが沢山見えるのか。
ただ僕だって親友の田中くんの良いところなら一杯言える。
でも結局そのゲームは終わることなく、最終目的地である駅が見えてくる。
園田さんと田中くんの良いところの言い合いをしていたらあっという間だった。
「あれって田中くんじゃない?」
「え、ほ、本当です」
僕たちの視線の先ではちょうど田中くんがコンビニから出てきているところだった。
大方、毎週発売されている漫画雑誌でも見ていたのだろう。
田中くんの顔はとても満足げだ。
「私の方が先に見つけたかったです……!」
僕が田中くんを初めに見つけたからか、園田さんは悔しそうに拳を握っている。
普段では見れない園田さんに僕は思わず吹き出してしまいそうになるのを堪える。
「ほら、ここからは田中くんと一緒に帰ったら?」
「はいっ、そうします!」
僕の提案に嬉しそうに頷く園田さん。
確か二人の帰りの電車は同じだったはず。
一度だけ僕を振り返り小さく手を振ると、園田さんは面白い顔をしている田中くんの下へ向かっていく。
「ふふ、びっくりしてる」
案の定と言うべきか、園田さんに声をかけられた田中くんはあたふたとしていて、見ていて面白い。
そんな二人は少しだけ立ち話しているかと思うと、改札へと向かっていく。
「……両想い、か」
僕は改札の奥へと消えていく二人の背中を見ながら、目の前で指で輪っかを作る。
「うわ、どっちもどっちだなぁ」
二人の好感度を見て、僕は思わず笑ってしまう。
『74』田中→園田
『74』園田→田中
二人は好感度まで仲良く両想いだった。
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