Case.03-05


「そ、そういえばこの前貸した漫画は面白かった?」


「あ、はい! すごく面白かったですよ!」


 昼休み仲良さそうに話している二人。

 もちろんその間には僕がいるけど、主に話しているのは田中くんと園田さんの二人だ。


 どうやらこの前SNSの交換をしてから数日、ぎこちなさは残るものの徐々に仲良くなっている。

 僕はそんな二人を見ながら、少し安心する。


 昼休みも終わりかけになり、田中くんは一人自分のクラスへと戻っていった。

 僕は少しだけ残念そうな顔を浮かべる園田さんに声をかける。


「かなりいい感じになって来たね」


「そ、そうですか……?」


 僕の言葉に顔を紅く染める園田さん。

 しかし自分でも少しは自覚しているのかその言葉に否定はしない。


「僕を他所に二人きりの世界を築いているくらいだからね」


「え、えぇ!? ご、ごめんなさいぃぃ……!!」


「冗談だからっ! 別に気にしてないよ!」


 申し訳なさそうに頭を下げてくる園田さんに、他のクラスメイトが何事かと視線を向けてくる。

 僕は慌てて園田さんの頭をあげさせるが、少しだけ注目が集まってしまったかもしれない。


「れ、恋愛相談してきた園田さんと、親友の田中くんが幸せそうにしてくれているのは僕も嬉しいからね」


 園田さんにだけ聞こえるような小声でそう言う。


「あ、ありがとうございます」


 するとまた同じように頭を下げようとしてくるが、なんとか止める。


「思い切って遊びに誘ってみるのもいいんじゃない?」


 未だに頭を下げようとしてくる園田さんの気を他に向けるために提案する。

 咄嗟に出た考えにしては、案外いいんじゃないだろうか。


「あ、遊びですか……!?」


 すると園田さんはぎょっとした目をこちらに向けてくる。

 なんだか少し前もこんなことがあった気がする。


「な、難易度高すぎます……!!」


「高くない高くない」


 首をぶんぶんと横にふる園田さんはやはりヘタレだ。

 思わずため息を吐きたくなるが、何とか堪える。


「園田さんが遊びに誘って断る男子なんてそうそういないよ」


 こんなに可愛い女の子から誘われたら喜んでついていくだろう。

 それも「この子、俺のこと好きなんじゃね?」なんて勘違いする輩も少なくないはずだ。


「た、田中さんも、ですか……?」


 心配そうに聞いてくる園田さん。

 こんなかわいい子に思われるなんて、田中くんは本当に羨ましい。


「もちろん」


 僕はそう答える。

 そもそも田中くんが園田さんの遊びの誘いを断るなんてあり得ない。

 というか好きな女の子の誘いを断る男なんているだろうか、いやいない。


「そ、そうですか……」


 僕の言葉を聞いて、ゆっくりとそう呟く園田さん。

 その顔はどこか少し嬉しそう。


「そう、ですか……」


 そしてもう一度確かめるようにして呟く。

 その視線はさっき田中くんが出ていった教室の扉に向けられていた。


 ◆   ◆


「種島さああああああああああああん!!」


「うわっ、な、なに!?」


 次の日の朝、HRが始まる前。

 僕は突然の大声に身体を震わす。

 何事かと思い振り返るとそこには園田さんが大きく息を吐きながら肩で息をしている。


「ど、どうしたの……?」


 これまでの園田さんからでは考えられないその姿に僕は戸惑う。

 一体どうしたのだろうか。


「た、田中さんに…………」


「た、田中くんに………?」


「遊びの誘いを、断られてしまいました……」


「えっ」


 園田さんの言葉に僕は思わず聞き返す。

 いやまさか、そんなことあるはずないじゃないか。


「な、何かの間違いじゃなくて?」


 じゃないと田中くんが園田さんからの遊びの誘いを断る理由が思いつかない。

 僕は園田さんの差し出してくる携帯を受け取り、田中くんとのSNS画面を見せてもらう。


『園田:今週末、どこか遊びに行きませんか……?』


『田中:こ、今週末? うーん』


 確かに園田さんは頑張って田中くんを遊びに誘っている。

 対して田中くんは何か少し考えているようだ。

 もう少しSNSの画面を見てみる。


『田中:えっと、誘ってくれたのは凄く嬉しいんだけど、実は今週末は別の人との用事があって……』


『園田:そ、そうなんですね』


『田中:せっかく誘ってくれたのにごめんね……』


「な、なるほど……」


 僕は思わず唸る。

 確かに用事であるならば仕方ない。

 普段田中くんは家で漫画を読んでいるので、その可能性を考慮していなかった。


「田中くん、誰か他の人と遊びに行くって言ってます」


 園田さんは落ち込みながらそう言う。


「もしかして、女の人かもしれません」


 どうやら遊びを断られたことではなく、そのことに落ち込んでいるらしい。

 しかしそんなこと田中くんに限ってあるだろうか。

 いやぁ、ないな。


「さすがにそれはないんじゃない?」


「……分からないじゃないですか」


 しかし園田さんは納得してくれない。

 確かに僕は田中くんが園田さんを好きという事実を知っているからこそ、そう言えるのだが、園田さんはそのことを知らないのだ。

 当然、心配してしまうのも頷ける。


「うーん、田中くん誰と遊びに行くんだろう」


 僕は首を捻る。


「………………あ」


 そこで思い出してしまった。

 今週末の予定を。


「ごめん、園田さん」


 僕は園田さんに謝る。


「田中くんと今週末遊びに行くの――――僕だった」


 本当、ごめん。

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