Case.03-04


 次の日、僕は放課後にファミレスに呼び出されていた。


「それで、昨日の今日でどうしたの?」


 目の前にいる園田さんに声をかける。

 今日帰る前にファミレスで落ち合おうと突然言われたのだ。


「……それが」


 園田さんは静かに喋りだす。


「田中さんの反応が、なんだか微妙で……」


「SNSの?」


「……はい」


 園田さんは僕に自分の携帯を渡してきた。

 画面には田中くんとのSNSが表示されている。


「うーん?」


 僕はその画面を見て首を傾げる。

 確かに園田さんの連絡に対する田中くんの反応が少しだけそっけないような気がする。


『園田:おはようございます! 今日は何時の電車に乗る予定ですかー?』


『田中:7:20』


『園田;じゃあ私もその電車に乗りますねー!』


『田中:了解』


 こんな感じだ。

 好きな人からのラインだったらもっと嬉しそうな反応をしてもいいと思うのだけど、一体どうしたんだろう。


 これでは逆に嫌われていると勘違いされても仕方ない。

 実際園田さんもこうやって相談してきたわけだし……。

 田中くんは何をしているんだ?


「今も連絡送ってるんですけど、それに対しても反応全然なくて」


「え、今?」


 見てみると確かに三十分前の園田さんに田中くんがまだ反応していない。

 しかしそれはおかしい。

 今は放課後できっと田中くんも電車を待っている時間帯だろう。

 これまでの経験上、この時間帯は田中くんの返信速度は尋常じゃないはずだ。

 送ればすぐ返信が返ってくるみたいな感じだったと思う。


「ちょっと待っててね?」


 僕は園田さんに一言告げるとトイレに向かう。

 園田さんから見えない位置までやってくると携帯を取り出す。


『種島;たなかくーん』


 そしてSNSを送る。

 これで返信がないようなら、何か用事があるのだろう。


『田中:どうしたのー?』


「返信早っ!?」


 僕は思わず叫ぶ。

 返信まで本当に一瞬だったぞ、今。

 ちゃんと暇しているんじゃないか。


「じゃあどうして園田さんに返信していないんだろう」


 ますます分からなくなる田中くんの行動に僕は首を傾げる。


『種島:いや、今クラスの女の子からSNSが来てたんだけど、どうしようか迷ってて』


 その真意を探るために聞いてみる。

 少しというかかなり際どいかもしれないが、これ以上だと聞きたいことも聞けなくなってしまう。


『田中:うーん、僕ならしばらく待ってから返信するかなぁ』


 相変わらず返信の早い田中くん。

 どうやら僕の意図には気づいていないようだ。

 このまま聞いてみよう。


『種島:どうして??』


『田中:だってすぐに返信なんかしたら、まるでその人のことが好きですって言ってるみたいじゃん』


「…………」

 

 僕は携帯の画面を見つめながら絶句していた。

 まさかこれが田中くんが園田さんにすぐに返信しない理由だったなんて。

 目の前に居たら思わずビンタしていたかもしれない。


『種島:でもそれだと相手からは嫌われてるんじゃないかって思われない?』


『田中:え、そうかな!?』


『種島:そんなもんじゃない?』


 僕は馬鹿な田中くんに忠告する。


『田中:あ、ありがとう!!』


 すると田中くんは何に対してかは分からないが、お礼を言ってくる。

 恐らく放置していた園田さんにはすぐに返信していることだろう。

 これで園田さんの悩みも解消されたはずだ。

 僕は田中くんに適当に返事をしながら、園田さんの下へ戻った。




「ただいま」


「あ、種島さんおかえりなさい!」


 僕がトイレに向かった時よりも心なし嬉しそうな園田さん。

 もしかしなくても田中くんからの返信があったのだろう。


「田中くんから返信あった?」


「はい!」


 分かり切っている答えを聞くと、分かり切った答えが返ってくる。


「しかもそれからなんだか返信が早くなったんですよ!」


 嬉しそうに携帯の画面を見せてくる園田さん。

 確かに僕がトイレから戻ってくるまでに何回も会話のやり取りをしている。

 これではいつ終わるかタイミングが分からなくなるのではないかと心配になるけど、そこあたりは今時ガールの園田さんがしっかりと心得てくれていることだろう。


「もしかして種島さんが何かしてくださったんですか?」


 僕に視線を向けてきながらそう聞いてくる園田さんはどうにも勘が鋭い。

 ここで誤魔化したところできっと園田さんにはばれているはずだ。

 それなら、


「まぁ、恋愛先生って呼ばれてるみたいだからね」


 少しだけでも格好つけさせてもらおうかな。

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