Case.05-02
「…………だめだ」
放課後の教室で一人。
僕の呟きは誰に聞かせるでもなく落ちていく。
舜くんから恋愛相談を受けて何日が経っただろう。
あれから僕たちは頑張ったと思う。
冴島さんの手伝いをするための機会を窺ったり、出来るだけ良いところを見せようしていた。
しかし冴島さんがそんな隙を与えてくれない。
たまに手伝うことに成功したかと思っても、好感度は全く変わっていない。
ここまで来たら好感度を自分で操作しているんじゃないだろうかと疑ってしまうほどだ。
そして何の進展もないまま時間だけが過ぎ、ついさっき痺れを切らした舜くんが冴島さんに告白に行ってしまった。
もともと自分の容姿が整っていることを舜くんは自覚していないわけではなかったし、僕に頼って進展がないならいっそ自分で告ったほうが早いと判断したのかもしれない。
まぁそれも仕方ないが。
でも僕はその告白が失敗することを知っている。
だからこそ今、憂鬱で仕方がないのだ。
恋愛相談を失敗で終わらせてしまったことも。
ほぼ間違いなく、これ以降舜くんが僕と関わることがないことも。
全部、溜息と一緒に出て行ってくれはしないだろうか。
そんなこと出来るわけないと理解しつつも、僕の口からは大きな溜息が零れる。
「僕は、どうすれば良かったんだろう……」
恋愛相談を受けなければ良かったのか。
それとも冴島さんを諦めるよう説得でもすれば良かったのか。
はたまた玉砕覚悟で告白をするように言えば良かったのか。
どれも、全然だ。
きっと間違いしかなかったんだろう。
強いて正解だとするならば、恋愛相談を受けなければ良かった、のかもしれない。
ただもう今更そんなことを言っても遅いことも理解している。
だからこそ僕は放課後の教室で一人、今を吐き出していた。
◆ ◆
「こっちの道で帰るのは、初めてかな」
僕はいつもの帰り道とは違って、学校の裏門から帰ることにした。
今日はなんだか一人で静かに帰りたかったんだ。
誰とも喋らず、誰とも歩幅を合わせず。
誰を気にするわけでもなく、淡々と帰ることだけを考えたかった。
「…………」
でも僕の願いとは裏腹に、生徒が一人だけ裏門のところに体重をかけている。
出来れば今、一番か二番に会いたくなかった彼女は僕に気付いていないのか視線を下げている。
冴島さんはどうしてこんなところにいるんだろうか。
舜くんから告白されたんじゃなかったんだろうか。
気になることは沢山あったけど、話しかける勇気なんてあるわけない。
恐らく冴島さんは誰かを待っているのかもしれないが、さすがに僕ではないだろう。
ここは大人しく、静かに帰ろう。
そう思って裏門に差し掛かった時、
「種島くん」
僕は冴島さんに呼び止められた。
まさか呼び止められるなんて思わなかった僕は心臓を掴まれたような錯覚を覚えて、胸を押さえる。
「今日はこっちなんですね」
冴島さんの言葉に僕は喉が詰まる。
緊張して上手く声が出ないのだ。
僕は頷くだけで、何とか自分の意思を伝える。
「私も今日はこっちです」
そうなんだと思いながら、僕は一刻も早くこの場を離れることだけを考えていた。
「一緒に帰りましょうか」
なのに彼女はそんな僕を苦しめるためか、悪魔の囁きを零した。
「…………」
学校から二人きりの帰り道を歩いている。
他の人から見たら羨ましいことだと言われるかもしれないが、そんなこと決してない。
僕たちの間には会話なんて一つもない。
あるのはただ気まずさだけ。
どうして冴島さんは僕なんかを帰り道に誘ったんだろう。
話したことすらほとんどないし、嫌われているはずなのに。
「……今日は、舜――沢口くんに告白されたんだよね……?」
嫌われてるんだったら今更だろうと思い、僕は唾を飲んでから聞いてみる。
でも口の中は乾ききっていて、声を出すのでやっとだった。
「……やっぱり、また恋愛相談でも受けてたんですね」
僕は目を合わせないように顔を背けながら、頷く。
それを見たのか見ていないのかは僕の知ったことじゃない。
これ以上答えるなんて、今の僕には無理だ。
「告白はされましたよ。振りましたけど」
あまりにもあっさりと、僕の質問に答える冴島さん。
それが彼女にとってどれほど軽いことなのか、僕には分からない。
ただ予想が当たっていたことに、僕は俯く。
「……5人目ですね」
それは、僕が冴島さんに関する恋愛相談を受けた人数だ。
忘れもしない。
僕と依頼人の崩れた関係の数だから。
「種島くんが、私と同級生の関係を壊した回数です」
「……ごめん、なさい」
それも、そうだ。
関係が壊れたのは僕だけじゃないんだった。
それを勘違いしたらいけない。
それを忘れてはいけないんだ。
自分だけじゃなかったんだ。
冴島さんもそうだったんだ。
「……じゃあどうして、冴島さんは、誰も好きにならないんですか……?」
きっとこれ以上僕は何も話せない。
それは最後の最後に聞いてみたかったことだった。
ずっと前から聞きたかったことだった。
どうして何をやっても冴島さんの好感度が上がらないのか。
誰に対しても一定の好感度のままなのか。
それが、知りたくて堪らなかった。
どうやら冴島さんとはここで帰り道が別になるようだ。
僕は真っ直ぐ、冴島さんは右の道を行く。
案外家に近いところまで一緒に帰ってきたあたり、家が近いのかもしれない。
僕たちは互いに何も言わず、振り向かず、ただ静かに別々の道を歩き出した。
『――――好きとか嫌いとか、そう簡単に変わらない人だって、いるんですよ』
孤独に歩く僕の頭の中で、最後に聞いた冴島さんの言葉が、妙に
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