Case.01-03


『71』


 これが今の今西くんから佐々木さんへの好感度だ。

 どうやら昼休みの言葉は本当だったらしく、かなり高い。


 帰りのHR中、僕は周りに気づかれないようにしてそれを確かめていた。

 幸い僕の席は後ろの方なので、難しいことではない。


 そして僕は、佐々木さんへと目を向ける。

 もう一度指で輪っかを作り、目の前にかざす。


「えっ!?」


 まさかの事態に声を上げる。

 近くの席の数人が何事かと振り返ってくるが、何でもないと伝えるとすぐに顔を前へと戻す。


 しかし、これは予想していなかった。


『74』


 これは、佐々木さんから今西くんへの好感度だ。

 なんと、今西くんよりも高い。

恋愛相談をしてきたのは今西くんで、佐々木さんの好感度も高いということはつまり、両思いということだ。


 これは、少し面倒なことになるかもしれない。


 普通なら両思いであるということを伝えれば、それで終わりと思うかもしれない。

 ただ、知り合って間もないような人から、自分の想い人と両思い、なんて伝えられて、いったい誰が信じてくれるだろうか。


 自分の能力のことをばらせばいいのかもしれないが、さすがにそんなことできるわけがない。

 それにその能力のこと自体、信じてくれるかは微妙だ。

 いくら今までの恋愛相談の積み重ねがあるからといって、どうだろう。


「うーん……」


 やっぱりいい案はあまり思いつかない。

 そんなこんなしているといつの間にかHRも終わりの時間。

 担任に挨拶をして、各々、自由に放課後の過ごし方を選ぶ。


 今西くんに視線を移すと、クラスメイトの友達と帰ろうとしている。

 これは事前に聞いていたとおりだ。


 今西くんと佐々木さんは、今でも一緒に帰ったりするらしいのだが、今日は別々で帰るということを昼休みのうちに聞いておいた。

 佐々木さんも恐らく自分の友達と帰る、とのこと。


「あれ?」


 さっきまで佐々木さんがいたはずのところに、いなくなっている。

 慌てて探そうとした時ーー




「種島くん」




 ――――その声が降ってきた。


 振り返った先にいたのは、佐々木さん。

 どこか少し緊張したように、手に力が入っている。


「今日、一緒に帰らない?」


「……え?」




「どうしてこうなった……?」


 僕は今、どういうわけか佐々木さんと二人で帰り道を歩いている。

 一体全体どうしてこんなことになったのだろう。


 佐々木さんはまだ特に何も話すことなく、少しだけ離れた隣を歩いている。


 女子とこうやって二人きりで帰ったりしたことが今まであっただろうか。

 少なくとも今は思い出せそうにない。


 世の中のカップルはこんなことを毎日経験しているのだろうか。

 今までは羨ましいと思うことが多かったけど、こんなのが毎日続くと思うと心臓に悪いことこの上ない。


 佐々木さんの赤くなった顔が夕陽のせいであるなんてこと分かっているけれど、やっぱり気になってしまう……!


「あ、あれってもしかして今西くんじゃない?」


 僕たちが歩いている少し前に、友達と三人で話しながら歩いている今西くんたちが見える。

 今西くんと佐々木さんが一緒に帰ることがあるというくらいなのだから、帰り道が重なるのはぜんぜん不思議じゃない。


「・・・・・・」


 ずっと黙っている佐々木さんをちらりと窺う。


「種島くん」


「は、はいっ」


 いきなりかけられた声に思わず素っ頓狂な返事をしてしまう僕。

 恥ずかしくてたまらない。

 一瞬前の僕、死んでしまええええ。


「今日、亮くんと話してたよね?」


「えっと、うん」


 やっぱりその話か。

 僕が伏線をはっておいただけある。

 全く期待なんてしていなかったんだからね?


「恋愛相談、受けたでしょ?」


「っ!?」


 まさかの発言に思わず動揺を隠せない。

 確かに伏線ははっておいたが、そんなところまで気づかせる気なんてなかった。


「種島くんは知らないかもしれないけど、女子の間でも結構有名だよ?」


「な、なにが?」


 聞きたくないことを言われてしまうことが嫌でもわかる。


「恋愛相談するなら、種島くんだー!って」


「……おっふ」


 僕は大ダメージを受ける。

 まさか女子の間でそんな噂をされているなんて。


 確かにこれまで何件も恋愛相談を受けてきたが、まさかそんなに知られているとは思わなかった。


「だから、亮くんが種島くんと話してたときにはもう、恋愛相談してるのかなーって思ってたよ?」


「ま、まじですか」


 渾身の伏線の意味はいったい何だったんだろう。

 思わずうなだれる。


 それにしても、困ったことになった。


「……」


 夕陽が僕を照らす。

 まるで僕がしている隠し事を全部さらけ出してしまおうと、どこかの誰かが仕組んでいるようだ。


 逆光で隠された彼女の顔は、今どんな表情を浮かべているのだろう。


 僕は、視線をおろして、そんな彼女の陰を見つめていた。

 

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