Case.01-02
恋愛先生。
そう呼ばれるのは甚だ遠慮したいところではあるけど、恋愛相談を受けることについては実はそこまで嫌いではない。
実際いつから恋愛相談を受け始めたのかはもう覚えていないけれど、受けようと思った理由も少なからずちゃんとある。
それはまぁありきたりではあるけど、一つは、恋愛相談を成功させることが出来たときに、付き合い始めた二人の幸せそうな雰囲気を見るのが好きだからだ。
とても幸せそうに手をつなぎながら依頼人から伝えられるお礼は、何回されても飽きるものじゃない。
まぁたまーに、幸せそうな二人に頬がひきつることが無きにしも非ずではあるが、それは非リア充として見逃してほしい。
そしてあともう一つ。
僕が恋愛相談を続ける理由がある。
それは、かなり仲のよかった友達に凄いと言われたからだ。
人の好感度が分かる、それはとても凄いことだ、と。
もちろん後にも先にも、自分の能力について家族を含めて他人に教えたのはそれっきりだったけれど、それくらいその友達のことを信頼しきっていたのだろう。
ただ、昔のことすぎて、今ではその友達の名前も声も忘れてしまっているのだけれど……。
「なぁ種島」
「ん、どうしたの?」
昼休み、購買で買ったパンも食べ終わって、ふとそんなことを考えていた僕に、突然声がかかる。
振り返ってみると、確か今年から同じクラスになった男子が立っていた。
その男子はどこか周りを気にしながら、こちらに話しかけてきているようで、どこか落ち着きがない。
「実は折り入って話があって……」
「話?」
僕は首をひねる。
目の前の男子は確かにクラスメイトではあるが、つい最近そうなったばかりで、正直名前も覚えていない。
恐らく相手との関係はほとんどないはずだ。
そんな僕に折り入って話、とは一体なんだろう。
まぁ何も思い当たる節がないというわけではない。
恐らく目の前のクラスメイトは相談にきたのだろう。
それも、恋愛についての。
「れ、恋愛相談を頼みたいんだ」
やはりきた。
そもそもそんなに関わりのないはずのクラスメイトが僕に話しかけてくる理由など、十中八九それしかない。
「えっと、それは良いんだけど……」
「あ、俺は
そこでクラスメイト、もとい今西くんが察して教えてくれる。
さすがに名前を知らないと、恋愛相談を受けるにしても不便なことこの上ない。
「それで、どんな恋愛相談?」
名前も教えてもらい、僕は本題に入る。
周りには聞こえないように、出来るだけ小さい声を心がける。
「つ、付き合いたい人がいて。それを手伝ってほしいんだ」
少しだけ恥ずかしそうに、今西くんは教えてくれる。
まぁそりゃあ知り合って間もない他人に、こんな相談するのはして気が引けるだろうが。
「因みに、誰か教えてもらってもいい?」
これから行動に移していく際、それは必須の情報だ。
それを知らなければほとんど何もすることが出来ないのは、今西くんも分かってくれるだろう。
「……さ、佐々木 莉子」
「佐々木、さん?」
どこかで聞いたことのある名前のような気がする。
でも去年のクラスメイトではないはずだし……。
「ほ、ほら、あいつだよ」
今西くんの示す方へ視線を向けてみると――――いた。
どうやら、新しいクラスメイトらしい。
だから名前に聞き覚えがあったわけだ。
「あの人、かぁ」
僕は佐々木さんをみる。
佐々木さんは他の女子と楽しそうに話していて、笑っている。
その表情を見ても、間違いなく美少女といっても過言ではないくらいの女の子だ。
正直言って、結構レベルが高い、と思う。
今西くんも顔は整っている方だと思うけど、どうだろう。
「幼なじみ、なんだ」
ふと、今西くんがそう呟く。
「なるほど……」
それならいけるかもしれない。
接点としては十分以上だろうし。
ただ、こんなにかわいい幼なじみがいるなんて、少しずるくはないかい?
「りょーっくーん! 何話してるのー?」
その時ふと、そんな声が聞こえてきた。
まさかと思いみてみると、やはり、佐々木さんがこちらにやってきている真っ最中だった。
「ど、どどどどどうしたんだ?」
突然のことに、今西くんは動揺を隠せていない。
そしてあろうことか、僕に視線をよこしながら、助け船を求めている。
「なにあわててるの?」
佐々木さんは、そんな今西くんに首を傾げている。
「あー、実は今西くんが佐々木さんと付き――」
「うわぁぁぁああああああああああああああああああ」
僕が助け船を出そうとしていると、今西くんは突然大声をあげて、僕を教室の隅へと追いやる。
まったく、どうしたというのだろうか。
「お、おまっ、なに口走ろうとしてたんだよ!?」
今西くんは心底驚いた様子でそう聞いてくる。
「いや、あれにもちゃんと狙いがあったんだよ?」
「ね、狙い……?」
「そうそう、まさか僕が何の考えもなしにあんなこと言おうとしてたと思ってたの?」
「ち、違うのか?」
「あぁやって伏線を貼っておいて、相手も君のことを意識するように仕向けてたんだよ」
まったく、僕をなんだと思ってるんだ。
これでも恋愛相談はいっぱい受けてきたんだから、そういうテクニックは人並み以上に知っている自信がある。
「そ、そうだったのか。悪かったな……」
申し訳なさそうに頭を下げる今西くん。
分かってくれればそれでいいのだ。
あれはそういう意味でやったってことを。
断じて、可愛い幼なじみがいる今西くん爆発しろなんて思ってない。
これ本当。
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