Case.07-06


 もし仮に、僕と冴島さんが付き合うなんていう未来があるとするなら、その時はきっとどちらかの片想いではないんだろう。

 本当にそんな未来があるとすればそれは――――両想いになった時だ。


「僕は、自分に対しての好感度が見えない」


 冴島さんも知るこの能力は、利点もあればもちろん欠点もある。

 それも大きな欠点だ。

 でもそれを今更どう言っても、誰かが修正や改善が出来るわけじゃない。

 それなら僕が今、想いを寄せてくれる彼女に出来ることはなんだ。

 彼女に対して僕だからこそ出来ること、僕じゃなきゃ出来ないことがきっとある。


「自分から、他人に対しての好感度も、全く見えない」


 今の僕の冴島さんに対する好感度を数字として表すなら、恐らく『0』が妥当だろう。

 なにせ僕にとっては見える好感度が全てだったのだから。


 だから、両想いになるためには、その好感度を少しずつ上げていかなくちゃならない。

 僕から冴島さんに対する好感度を。

 少なくとも僕が冴島さんに片想いしていると思えるくらいの好感度まで、0から上げていかなくちゃいけない。


 結局のところ、僕だからこそ出来ることなんてずっと前から一つくらいしか思いつかない。

 それは『恋愛相談』。

 何人もの、幾つもの恋愛相談を受けてきた僕だからこそ出来ることだ。


 そして僕は今から、一つの恋愛相談を受ける。

 依頼人は僕。

 依頼内容は、『冴島 灯里に対する好感度』をあげる、ただそれだけ。

 それだけなのに、これまで受けてきた恋愛相談の中でもとびきり難しそうな恋愛相談だ。


 見えない好感度が僕にとってどういうものなのかなんてことは嫌というほどに分かっている。

 それでも僕は――――やってみせる。

 それが、僕に出来ることだから。

 僕だからこそ出来ることだから。

 僕にしか出来ないことだと思うから。


「冴島さん」


 隣で座っている冴島さんを呼ぶ。

 顔を上げた彼女は目を腫らし、頬も上気していた。


「僕はこれから、冴島さんのことを好きになるよ」


 今はまだ違うけど、いつか、絶対。

 僕は冴島さんのことが大好きになる。


「だから、これから先の未来」


 自分の決意に、手が震える。

 唇も、口の中も渇き、頭の中では警笛が鳴り響いている。

 でもやめない。

 これが僕に出来ることって分かってるから。


「僕の、冴島さんへの好感度が『100』になったら」


 きっとこれから僕が言おうとしていることは我儘なんだろう。

 あまりにも自分勝手で、どれだけ冴島さんを傷つけるか分からない。

 だから僕が冴島さんのことを好きになった時、それがただの片想いであったとしても仕方ない。

 ただ僕は、二人の関係が進められることを祈っている。

 だから確かめなくちゃいけない。

 両想いかどうかを、中途半端じゃないかどうか、を。




「その時は、冴島さんの好感度を教えてください」




『――――』


 花火が遠くで弾ける。

 きっと祭りに来ていたほとんどの人が、それを近くから見物しようと躍起になっているんだろう。


「……案外、ここからでも良く見えますね」


 冴島さんの言葉通り、生い茂る木々の隙間から花火の咲き散る瞬間が良く見えた。

 次第に大きくなっていくその花火に、僕たちは目を奪われる。

 締めを飾る大きな花火は、この祭りの終わりを暗示しているんだろうか。


「好くん」


 自分の名前が呼ばれた瞬間、僕は自分の肩に触れる冴島さんの肩に気付いた。

 花火も終わって静かな僕たちの間に、早くなる鼓動が容赦なく音をあげる。




「待ってます」




 そんな中で冴島さんの言葉が、小さく紡がれた。

 僕の耳元で囁かれたその声は、耳から脳に、僕の身体中を駆け巡る。

 それとは真逆に、僕の首をきしきしと音を立てるんじゃないかというくらいのぎこちない動きで、冴島さんの顔を向く。


「来年も、再来年も、私はここで待ってます」


 冴島さんが笑う。

 涙で腫れているはずの目蓋、それさえも彼女を輝かせる要素の一つになっているのかもしれないと、気付けば目を奪われていた。


 僕の目の前で一際大きく綺麗な花火が咲き誇る。

 これから僕は冴島さんへの好感度を少しずつ上げていくだろう。

 そしてそんな彼女を大好きになるまで、僕の恋愛相談は――――終わらない。

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