Case.04-01 不良先輩と女教師


「うーん、好感度かぁ」


 僕は帰り道を歩きながら、一人呟く。

 指で輪っかを作り、目の前に持ってくる。

 今は人がいないのでどうともならないが、誰かいればまた違った景色が見える。


「でも、結構制限とかもあるんだよね」


 僕の『好感度が見える』という能力は何も万能ではない。

 むしろかなり制限があると思ってくれていい。


 例えばAさんとBさんがいるとする。

 ここでAさんが僕に恋愛相談をしてきた。

 Bさんと付き合いたいAさんのために、僕はBさんからAさんに対する好感度を見なくてはならない。

 しかしここで僕が好感度を見るには、二人が同じ場所にいて、かつ、僕の視界の中にいないといけないのだ。

 もしBさんが一人の時にAさんに対する好感度を見ようとしても、そこにはなにも映らない。


 そして他にも制限を挙げるとするなら、自分に対しての好感度が見えないということだろうか。

 僕にもし意中の人がいたとして、その人の自分に対する好感度を見てみようとする。

 しかしそこにはやはり何も映らないわけなのだ。


 この二つから考えられることといえば、共通して「自分の視界の中に直接映さなければいけない」ということだろうか。

 これに関しては鏡もだめだったことは確認済みだ。


 こう考えると本当に使いにくい中途半端な能力に、僕は思わずため息をこぼした。




「おい」


 するとその時、後ろから声がする。

 まぁでもさすがに自分ではないだろうと思いながら、歩き続ける。


「おいお前」


「?」


 どうやら呼ばれている相手は中々反応していないらしい。

 少し不思議に思いながらも、また歩く。


「お前だよ!」


「う、うわっ」


 強引に肩を掴まれ、僕は後ろを向かされる。

 何事かとびっくりして見てみると、そこには金髪のいかにも不良と言った男が立っていた。

 しかもどういう訳か僕を睨んでいる。

 あ、これは普通に返事しなかったからか。

 でもまさか僕が呼ばれているとは思わないだろう。


「ちょっと話があるんだが、ついてきてくれるよな?」


「あ、はい」


 不良さんの言葉に歯向かうほどの勇気なんてない僕は、緊張しながらついていく。

 僕は一体どうされてしまうのだろう。

 こんな人と関わるようなことはしていないはずだし、でもいつの間にかやらかしていたなんて可能性だってある。


「……」


 そのまま無言で歩いていると、ふと不良さんが立ち止まる。

 周りをみま

 そしてその強面のまま振り返る。


「……おいお前」


「は、はい!」


 僕はその不良さんの言葉に姿勢を正し、びくびくしながら続きの言葉を待つ。


「……恋愛相談、受けてるんだよな?」


「……はい?」


 一瞬何を言われたのか分からない僕。

 咄嗟に謝ろうとさえ思っていたのに、一体どういうことだろう。


「実はよ、恋愛相談受けてほしいんだわ」


「え、えぇ」


 まさかの展開に僕は思わずそんな声を出す。

 だって不良さんに絡まれたと思ったら恋愛相談されるとは思わないだろう。


 しかし不良さんの恋愛相談なんて絶対ろくなもんじゃないはずだ。

 偏見と思われてしまうかもしれないが、出来れば受けたくはない。

 今回は申し訳ないけど、丁重にお断りさせていただくのが賢明な判断だ。


「えっと、申し訳ないんですけど……」


「あぁ? まさか受けないなんてことはないよなぁ?」


「もちろん受けさせていただきます!」


 僕は背筋をピンと伸ばし答える。

 だってこれまで不良さんなんかと関わりを持つような人生を送ってきていない僕にとってはつらい物がある。

 ここで断れる猛者なんて果たしているのだろうか。



「た、大変なことになった」


 僕は一人帰り道を歩きながら、今回の恋愛相談をどうしようか考えていた。

 詳しい話は明日また会いに来るというので、今は何も聞いていない。

 そもそもあの人の名前すら聞いていないのだ。


「し、失敗したら殺されるんじゃないか……?」


 その可能性はあるかもしれない。

 殺されないまでも、半殺しくらいの刑くらいにはなってしまうんじゃないだろうか。


「不良さんが好きな人って誰だろう……?」


 僕は誰に聞くでもなく呟く。

 それによっては恋愛相談の成功するかの可能性が大きく変わってくる。


「喧嘩が強い女の人、とかかな……?」


 一番最初に思いついたのはそれだ。

 不良さんたちの世界のことは分からないが、田中くんに貸してもらった漫画の中で「拳で語り合う」みたいなものを見たことがある。

 一度喧嘩に負けてしまった不良さんが相手の女の子に惚れてしまった的な感じだろうか。


「こ、今回は大変そうだな……」


 絶対成功させなくてはならない恋愛相談なのに、僕は成功させられる気が全くしなかった。


「そういえば明日また話にきてくれるって言ってたっけな」


 恐らくその時に今回の恋愛相談の内容が分かるはずだ。

 不良さんの名前、不良さんが好きな人の名前。

 どうか不良さんが好きになった人が、現実的な人でありますように。

 そう祈らずにいられない。


「あれ、でも明日っていつだろう?」


 そういえばそれを聞くのを忘れていた。

 多分はまた今日と同じで帰り道の途中だろうが、不良さんは僕と同じ制服を着ていたと思う。


「まさか、校内にいるときに話にきたりはしない、よね……?」


 僕は恐る恐る呟く。

 まぁさすがにないか、と恐ろしい想像を頭から追い出した。 

 

 

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