ザ・切手

 便利で住みやすいシンガポールですが、それでも手に入らない物はありました。

 ズバリその筆頭は、風呂の椅子です。「そんな物……」と言われそうですが、本当にどこにも売っておらず、探し出すのに大変な苦労をしました。海外の風呂には湯船がない(シャワーだけ)が常識で、洗い場で身体を洗うという発想がないらしく、風呂の椅子という概念がそもそも存在しないのです。結局どこで買ったかというと、日系の100円均一ショップ、『DAISO(ダイソー)』でした。ダイソー万歳!


 しかしながら、ダイソーでも買えない物がありました。

 それは日本の切手です。シンガポールから日本へ原稿を送る際は、シンガポールの切手を使用するので、当然ながらまったく問題はありません。しかし「評価シートの返信用封筒」には、日本の切手を貼りつける必要がありました。これが入手できないのです。

 困り果ててインターネットで検索したところ、シンガポールの中心部に切手博物館というミュージアムが存在し、その売店で日本の切手が売られているという情報をキャッチしました。やったー! 喜び勇んで現地へ向かうと、博物館の併設ショップには、世界中の切手がありました。どれも全部使用済みで、非常にレアな切手です。未使用の切手は一枚たりともありません。

 違う、そうじゃない!

 マニア用のコレクションじゃなく、普通の82円切手が欲しいんです!

 逆ギレ気味にスタッフへ尋ねても、ない物はどうしようもなく、泣く泣くショップを後にしました。わざわざ入館料まで支払ったのに、トホホ……。


 それで結局どうしたかというと、日本の両親へ事情を説明し、切手を送ってもらう作戦を決行。

 ところがいざ国際電話をかけてみると、母の反応は好ましくありませんでした。

「あんた、海外まで行って小説投稿してるの? もっと他に楽しいことあるんじゃないの?」

 すまんな……。

 世界中どこへ住んでいようが、小説投稿が一番楽しいんや……。

 しかし切手は送ってもらえたので、返信用封筒は無事に用意できました。それ以降、一時帰国した際に切手を補充する習慣ができましたが、何度も書いている通り今はウェブ応募が主流になったので、海外投稿の苦労はあの頃に比べると劇的に減っていると思います。

 重ね重ね言いますが、当時からウェブ応募が可能だったら……。

 とはいえこうやって悪戦苦闘した経験も、今になって思い返せば全部楽しい想い出なので、それはそれでよかったかなと感じています。

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