有給休暇争奪戦

 有給休暇?

 ああ、おとぎ話に出てくるシステムね!

 ブラック企業で調教された自分はそう考えていたのですが、シンガポールでは基本的に好きな日に有給休暇が取れました。ただし唯一の条件は、同僚と被らないこと。たいてい狙われるのは金曜日、月曜日、飛び石連休の合間などです。

 希望が運悪く重なってしまうと、職場内で有給休暇争奪戦が勃発! 申請のタイミングや、決定権を持つ上司のご機嫌取りなどで、社員同士が火花を散らせる展開になります。日本でも割とよくある光景(?)ですね。

 ところが自分は、有休争奪戦には一切参加せず、高みの見物を決め込んでおりました。飛び石連休の合間ではなく、自由に休めるありがたい有休は、締切直前に取りたいからです。この休みを確実に取るために、むしろ連休中は積極的に出勤し、同僚たちに恩を売る作戦を決行しました。結果として、「常木は有休争奪戦に参加しない」「むしろ休日出勤する真面目な奴だ」「しかし何故か月末によく休む」という、ミステリアスな印象を与えていたと思います。


 そんな心底ありがたい有休ですが、もちろん取得日数には限度があって、使い切ってしまうとそれ以上は取れません。

 締切前なのに有休が使えない、絶体絶命のピンチ到来です。完成に程遠い状態なら大人しく諦めますが、「今日さえ休めば投稿できる」という状況の場合、なんとしてでもその日は休暇を取得したい! そんな時こそ、病欠の出番です。

 とはいえ、ズル休みではありません。シンガポールで病欠を取る場合、「Medical Certificate(病院で診察を受けた証明書)」が必要だと、法律で規定されているのです。逆に言うと、どれだけ重病を患っていても、MCがなければ病欠は取得できません。賛否はあるようですが、ズル休みの撲滅には多大な効果がありますし、いい制度だと思います。

 幸か不幸か(?)、自分は以前から貧血持ちなので、その検査でMCを取得するのが可能でした。そういうわけで締切の直前は、病欠を取った上で貧血の検査を受け、それから一日中執筆するという作戦をこっそり決行。かなり後ろめたい気はしましたが、貧血なのは事実だからと言い聞かせ、罪悪感の重圧をはねのけました。それにしても、食事もそこそこに一日中執筆を続けるのだから、この行動で貧血を悪化させたのはおそらく間違いありません。


 以上、有給休暇と病欠のエピソードでした。

 我ながら信じられない不良社員ですが、その代わり同僚が休んでいる時は全力で仕事をしたので、まあ持ちつ持たれつかな……と思います。

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