ダブルクリップは書類ではない

 原稿を印刷した。

 返信用封筒も用意できた。

 続いては最後の関門、発送作業の小話です。


 皆様はEMS(国際スピード郵便)をご存知でしょうか。世界120以上の国へ30kg以内の荷物を発送可能で、通常の国際郵便よりも到着スピードが速く、しかも追跡できるという非常に便利なシステムです。少々料金が高いのが難点ですが、海外在住の投稿者として、これを使わない手はありません。

 EMSには印刷物専用の「書類便」と、通常の荷物を送る「国際小包」が存在します。書類便の方が料金は安く、そして何より早く届くため、投稿にはもっぱら書類便を使っていました。しかしある時、郵便局のスタッフと揉めてしまいます。

「この部分、やけに膨らんでいるじゃないか?」

 彼は封筒を撫で回し、こちらを睨みました。

「この固い物は何だ?」

「ダブルクリップです」

「ダブルクリップは書類ではない。よってこの荷物は書類便では送れない」

「いや、今まで何も問題なく送っていたんですが……」

「あんたは、ダブルクリップが書類だと思うのかい?」

 それはまあ、書類かそうでないか聞かれたら、確かにダブルクリップは書類とは呼べません。

 シンガポール・ポスト・センター(中央郵便局)には、この通りやけに厳しいスタッフがおり、彼に当たってしまうと書類便は断固拒絶されました。なので列に並んでいる最中は、ずっとドキドキしっぱなし。彼の窓口があきそうになったら、トイレへ行く振りをして並び直すという工作をしましたが、並び直しても運悪く当たってしまうケースが多々あって、そうなると諦めるしかありません。

 係員によって厳しさの程度が違うのは、日本の郵便局でも割とよくある話です。しかしEMSの場合、料金と届く日数(←投稿者の生命線)が違ってくるため、毎回ロシアンルーレットのようなギャンブル気分を味わいました。ギャンブルといえば、この当時のシンガポールには、まだカジノがありません。以前マカオで大負けして以来、カジノの話はトラウマなので、それでよかったと思います。


 以上、海外投稿の苦労体験を語りました。

 続く第三章では、投稿あるあるエピソードをお届けします。

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