非・キャッチボール
普段の日常生活の中では、自分が言ったギャグがウケたかどうかは、その場ですぐにわかります。
大ヒット、ややウケ、まあ普通、許容範囲、ドン引き……。
わざわざ感想を聞かなくても、相手の表情や反応を見ただけで、どのランクだったのかわかりますよね。ところが、小説の場合は互いの顔が見えないので、ギャグがウケたかどうかは想像するしかありません。自分では素晴らしいギャグだと信じ込んでいても、相手は実はドン引きしていて、その瞬間に心が離れている可能性だってあるのです。
そういう事態を避けるために、必要不可欠なのが読者の視点。
「相手はあくびしてないかな?」
「今どんな顔でこの文章を読んでいるだろう?」
「もしかすると、とっくに愛想を尽かして、もう本を閉じちゃったかも?」
そういう風に、相手がついてきているかどうか、常に気にかける視点が必要ですよね。逆にそういう視点がないと、小説っていくらでも好きなように書けるので、ひとりよがりな内容になってしまう危険性も多々あります。
会話は言葉のキャッチボール。
そういう見方もありますが、小説は基本的に、キャッチボールとは違います。一つの単語を入力しても、その瞬間に誰かのリアクションがあるわけではなく、10万字に及ぶ文章をひたすら書き続けなければなりません。だからこそ、自分が暴投していないかどうか、細心の注意を払う必要があると思うのです。もしドッジボールになっていたら、直撃したら痛いですし、読者は逃げてしまいますからね。
そうはいっても、変な遠慮はいりません。
小説の場合、作者は「ボールを投げ続ける人」で、読者は「それをキャッチする人」。だからこそ、作者がボールを投げなかったら、どれだけ待っても何も始まらないでしょう。そういう状況があるからこそ、相手に届くかどうかも重要ですが、ボールを投げ続ける行為には意味があると思うのです。
新人賞で落選するとやる気を失ってしまいますが、そこでボールを投げるのをやめてしまったら、相手にキャッチしてもらえる瞬間は永遠に訪れません。
「小説は双方向のキャッチボールではない」
「キャッチボールでないからこそ、作者の方から、投げ続けることが重要なんだ」
そう考えて、前向きに活動したいところです。
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