視覚と想像力

 続いての話題は、視覚と想像力について。

 たとえば、映画の冒頭シーンを想像してください。状況をあえてまったく説明しないまま、ド派手なバトルシーンやアクションシーンで観客を惹きつけるのは、ハリウッド映画などによくある手法です。しかしそれは、映像があるからこそ可能な演出。イラストのない投稿小説の冒頭で、もの凄いアクションシーンを描写しても、「誰が勝っても別にいいや~」で終わってしまうと思います。


 文字だけで作品が構築される小説は、相手の視覚ではなく、想像力に訴えかける媒体ですよね。

 そして人間というのは、興味のあることには多大な想像力を発揮できますが、興味のないことにはまったく想像力を発揮できない生き物です。だからこそ重要なのが、丁寧なキャラクター描写ではないでしょうか。

「このバトルは誰がどういう気持ちで戦っているのか?」

「もし負けてしまった場合どんな不都合が起こるのか?」

 そういう背景が一切わからない状況では、主人公の応援に熱が入るわけありません。

 とにかくまずは、キャラクターを丁寧に描写して、その作品の世界に入り込んでもらうのが重要です。それが確実にできた後なら、派手なバトルシーンだけに限らず、同級生とのちょっとしたケンカでも、読者に興味を持って読んでもらえるでしょう。


 個人的には、ラブシーンも同様だと思います。

 どういう状況なのか全然わからないまま、いきなり知らない人間同士のラブシーンを見せられても、「勝手にやってくれ」としか思えません。見て楽しめるどころではなく、不快なのではないでしょうか。

 それが一転、作中で読者の心を掴んだ後なら、ただ単に指先が触れ合うだけの状況でも、読み手をドキドキさせるシーンが書けるでしょう。

 繰り返しになりますが、小説は相手の視覚ではなく想像力に働きかける媒体なので、興味を持ってもらう(=想像力を発揮できる状態になってもらう)のが重要です。それができていない状況では、どれだけ迫力あるシーンを描写しても、「ふーん」という適当な感想しか出てきません。

 まあこれは、「言うは易し」の典型で、自分もできていないわけですが……。

 とにかく視覚と想像力の問題は、小説を書く上で無視できないと思うので、気を付けたいと考えています。

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