文字化けの衝撃

 海外投稿の珍体験は山のようにありますが、もっとも衝撃的だった失敗は文字化けです。

 その日、初めての小説を書き上げた自分は、誰にも見られないように一時間早く出社しました。職場のプリンターは常にフル稼働しているため、人目を忍んで私用に使おうと思ったら、早朝出勤か休日出勤しか方法がなかったのです。場合によっては深刻な問題になりかねないので、くれぐれも真似をしないように注意しましょう。

 こっそり席についた後、素早くパソコンを立ち上げて、ドキドキしながら印刷をクリック。早朝なので誰もいませんが、なにしろ人生初の小説ですから、緊張のあまり胸が高鳴ります。ところがプリンターの前へ行くと、肝心の原稿は、全編にわたって盛大な文字化け。職場のパソコンは英語OSだったのが原因かと思われます。

 ウィーン、ガシャッ、ウィーン、ガシャッ。

 自分自身の分身とも呼べる大切な小説原稿が、意味不明な記号の羅列となって早朝のプリンターから容赦なく排出される様子は、物悲しくショッキングなものがありました。

 いやああああ!

 もうやめてええええ!

 なんて叫んでも印刷は止まらないので、急いでパソコンの前へ戻り、キャンセルボタンを思いっきり連打。おかげで印刷は止まりましたが、文字化けした謎の怪文書が、自分の手元に大量に残されました。これだけたくさん紙があったら、今後10年程度は、メモ帳に困らなくて済みそうです。

 その後色々試したものの、これといった解決策が見つからないまま、出勤時間になりました。PCには正しく表示されるのに、印刷すると意味不明な記号になるなんて、まるで悪質な呪いのようです。ショックを隠せないままその日を終えて、二日目も早朝出勤しましたが、文字化けの呪いを解くことは叶わないまま。原稿本文こそ無事に書き上げたものの、電撃への投稿を諦めそうになりました。

 そして迎えた三日目、WordファイルをPDFへ変換するという初歩的な方法で、難なく原稿を印刷完了。思えば最初からそうするべきだったのに、気付くのに三日もかかってしまったなんて、我ながら動揺しすぎだったと思います。幸い締切の二週間前に仕上がっていたので、印刷に手こずっても充分に間に合いましたが、仮に直前だったら非常に危険な状況でした。


 文字化けによる印刷の失敗は、紙やインクが無駄になるだけでなく、言いようのない哀愁と物悲しさが残ります。

 それが身に染みたので、日本へ帰国してマイプリンターを買った今も、原稿を印刷する際は試し刷りを欠かさない習慣ができました。

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