それは、初恋が叶う前の恋だった

　僕は通っているヘアサロンで髪を切ってくれるスタイリストの松尾に恋をしていた。
　しかし、別の常連客と交わしていた会話から、松尾が来年の秋に結婚すること、来年の春に仕事を辞めて実家に戻ることを知り、片想いを完全に諦めなければならなくなった。
　その翌日、店の前を通りかかった僕は、一人で閉店作業をしていた松尾に引き止められ、改めて本人から結婚の報告を受けた。しかし、松尾には、僕にもう一つ話したいことがあった。
　結婚する前に一年間の自由な時間をもらっていて、相手も了承してくれているので、その一年間に好きな人と付き合いたいと思っている。
　その好きな人とは、僕だった。
　仕事場の友達である藤田に相談すると、その気持ちに応えてあげてほしいと言われ、僕は松尾と付き合うことに決めた。
　仕事で疲れた松…続きを読む