第18話
行きは県道沿いの歩道を縦列で走っていったのだけど、帰りは車通りの少ない農道を、僕と光輝は並んでゆっくりと自転車を漕いでいった。
「長内さんって、貴兄ちゃんのこと、好きだったんじゃない?」
農道と平行して走る単線軌道を、長内の弟家族が乗ったと思われる特急電車が通過していくと、光輝が聞いてきた。
「何だよ、いきなり」
「何となく、そんな気がするんだけど」
「ばれちゃあ、しょうがないな」
「えっ、当たり?」
「高校二年生のときに、告白された」
「そうなの?」
驚いた光輝の自転車が寄ってきて、危うく僕の自転車と接触しそうになった。
「危ない危ない」
「でも、元カノじゃない、ってことは……」
「断ったよ。他に好きな人がいるから、って言って」
「へぇ……。学校で一番人気の女子を振りましたか」
「でも、それに関しては、長内さんにすごく悪いことをしたんだよな」
「悪いことって、何をしたの?」
「同じクラスだった男友達の何人かと、好きな女子は誰か、って話をしたときに、長内さんの名前を出したんだよ」
「えっ、他に好きな人がいたのに?」
「そう」
「何で、そんな嘘ついたの?」
「それは……、言えなかったから」
「友達にも言えないような人って……、まさか、先生だったの?」
「先生じゃないって」
「じゃあ、やっぱり……」
「やっぱり、何だよ」
僕が横目を使うと、光輝は意味ありげな笑みを浮かべていた。
「今日……、貴兄ちゃんの部屋に泊まりに行っていい?」
「えっ?」
「これは、話が長くなりそうな案件だから」
「あぁ……、まぁ、ちゃんと正直に話すんだったら、長くなるな」
「じゃあ、決まりね」
僕の答えを待たずに、光輝は立ち漕ぎを始めた。
「あっ……」
「刺身がぬるくなるから」
光輝はちらりと振り返ってから、さらに速度を上げていった。
「ひき肉もぬるくなるからな」
僕はサドルから腰を上げると、光輝の後ろ姿がこれ以上小さくならないよう、ペダルを踏む足に力を込めた。
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