第25話
最後の連発花火が終わってからも、僕たちはしばらく夜空を眺めたまま、楽しかった時間の余韻に浸っていた。
「終わっちゃい……」
僕を挟んで立っていた藤田と諒馬が、ほぼ同時に口を開いた。
「あぁ、どうぞ」
「いや、松尾君の方が、若干早かった気がするし」
「終わっちゃいましたねぇ……」
二人が譲り合っていた台詞を、僕が感情を込めて呟くと、藤田と諒馬が呆れたような表情を浮かべた。
「いや、だって、これが一番平和的な解決法かな、って思ったから……」
「こういうのって、一番年下の子が言うことで、風情が出るもんじゃないですか」
「そういうもんですかねぇ……?」
「自分だって、言おうとしてたくせに」
「だから、譲ろうとしたじゃないですか」
藤田は口を尖らせてから、再び夜空を見上げた。
「来年は、こうやって観ることができないんですよね……」
藤田の口調からは、マンションが建つせいで観ることができないのを惜しがっているのではなく、三人で観ることができないのを寂しがっている、そんな心情が伝わってきた。
「そうですね……」
僕と同じように感じたのだろう、諒馬はぽつりと呟いてから、夜空に向けていた視線を少し下げた。
「あぁ、ごめん。何か、しんみりさせちゃった」
「いや、そんな……。花火大会が終わった後って、しんみりするもんじゃないですか」
「そうだな。その、しんみりするところも含めて、花火大会なんだと思う」
「じゃあ……、しんみりしたついでに、聞いてもらっていいですか?」
藤田は小さく笑いを漏らしてから、僕を見つめ返した。
「えっ、何?」
「僕……、今年いっぱいで、今の仕事を辞めることにしました」
言葉よりも先に目で問いかけた僕に、藤田は微かに頷いた。
「それって……、転職する、ってこと?」
「実家に帰って、父の仕事を継ごう、って考えてるんです」
「父さんの仕事って、確か、印刷会社……」
「そうです」
「そうか、仕事継ぐんだ……」
「すいません。せっかくの楽しい雰囲気に水を差したくないし、今日は言わない方がいいかなぁ、とは思ってたんですけど」
「いや……」
「でも、いつ言おうか、って考えて悶々としてるよりは、早く言ってしまって、すっきりしたいなぁ、っていう気持ちもあって……」
「そうですよね。早く言ってしまえば、その分だけ、大切に過ごさなきゃ、っていう時間が長くなりますし」
「そうだな。早く言ってくれてよかったよ」
「やっぱり、早く言ってよかったです」
藤田が清々しい笑顔を見せたので、僕と諒馬はお互いの顔を見ながら微笑み合った。すると、涼しい風が頬を撫でていき、風鈴をちりんと鳴らした。
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