第45話

 二月の第三日曜日、諒馬は二十七歳の誕生日を迎えた。

 僕は翌日の月曜日に休みをもらい、諒馬は前日の土曜日に有給休暇、当日に誕生日休暇を取り、僕たちは土曜日から二泊三日の旅行に出かけた。

 一日目は、諒馬の故郷から普通電車で一時間ほどの観光地にあるホテルに泊まった。そして、二日目は、午前中に諒馬の故郷へ移動し、街中を案内してもらい、昼食をとった後に一旦は別れた。

 一人になった僕は、諒馬に教えてもらったおすすめの場所を巡ってから、泊まることになっている旅館へと向かった。旅館がある通りに入り、法被を着た男性が立っているのに気付くが早いか、その男性が僕に向かって手を上げた。

「お待ちしておりました」

 僕が向かい合って立つと、男性はうやうやしく頭を下げた。

「今日はお世話になります」

 僕は軽く一礼し、男性とほぼ同時に頭を上げた。

 僕の目の前にいる男性は、髪を七三分けにして、黒縁の丸眼鏡をかけた諒馬だった。

「そんな、まじまじと見ないでくださいよ」

「まじまじと見ないでいる方が無理だって」

「恥ずかしいなぁ……」

「恥ずかしいって、これが、諒馬の若旦那像なんだろ?」

「まぁ、そうなんですけど……。どうですかね?」

「そりゃあ……」

 僕は改めて、諒馬の頭から爪先までを眺めた。

「似合ってて、かっこいいに決まってるよ。うん」

 僕が満足げに頷くと、諒馬は小さく笑いを漏らした。

「容赦なく褒めますね」

「実際そうなんだから、仕方ないって」

「貴史さんに見てもらえて、よかったです」

「ところで……、ここでいちゃついてて、大丈夫なの?」

「あぁ、そうですよね」

 一度顔を伏せてから、諒馬は引き締まった表情になった。

「どうぞ、こちらです」

 諒馬に先導され、僕は表門をくぐった。

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