第16話

 ふと目が覚めると、寝息を立てている藤田の横顔が見えた。

 僕は自分の布団から出て、藤田の寝姿を覗き込んだ。薄手の布団を腹にかけただけの状態で、浴衣ははだけて左の胸があらわになっていた。僕は左の乳首にそっと唇を触れてみたのだけど、藤田の寝息に変化がなかったので、今度は唇に触れようと顔を近付けていった。しかし、あと少しというところで身体が固まってしまい、極力音をさせないことを意識しながら呼吸を整えていると、ふいに頭を後ろから押され、僕は藤田と唇を重ねることになった。

 慌てて顔を離し唖然とする僕に、ゆっくりと身体を起こした藤田が優しい表情を向けてきた。その意図が分からずにまごついていると、藤田は僕の身体を引き寄せてきた。僕は抵抗することもできず、覆いかぶさってきた藤田と見つめ合った。二度目の口づけはじっくりと時間をかけて、唇を擦り合わせたり、舌を絡ませたりした。藤田は舐っていた僕の口の中から舌を抜き出すと、顎の下から、喉元、鎖骨のくぼみ、薄い胸板の間へと、僕の素肌に唇で触れる部分を下げていき、吸い付いた右の乳首を舌で転がし始めた。僕は藤田の頭に回していた右手で髪を強く掴んでしまったのだけど、藤田は気にする様子もなく、左の胸板を撫でていた右手を這わせていき、パンツの上から僕の硬くなっていた陰茎を掴んだ。情けない声を漏らした僕が恐る恐る視線を向けると、藤田はにやりと笑ってみせ、パンツをずり下ろしてむき出しになった僕の陰茎をそっと握った。そして、観念したように天井を仰いだ僕が目を閉じるのを待ってから、握る力を少しだけ強くした手を上下に動かし始めた。


 夢の映像はそこで途切れた。現実の射精により、強制的に終了させられたのである。

 目を覚ました僕は、つけたままのラジオから聞こえるパーソナリティの声で、午前五時過ぎであることを認識した。スウェットパンツのゴムを引っ張り、恐る恐る中に手を入れてみると、パンツの前開きになっている部分が濡れていて、そっと触れたつもりの指先にぬめりが残った。

 松尾と付き合っているにもかかわらず、藤田との性的な夢を見て射精してしまった。

「ごめん」

 僕はスマートフォンを手にすると、画面の中で眠っている松尾に、小さく声に出して謝った。

 画面から松尾の声が返ってくる、なんてことは当然なかったのだけど、松尾が最近のお気に入りだと言っていた曲がラジオから流れ始めたので、僕は少しだけ救われたような気分になり、曲が終わらないうちに眠ってしまおうと再び目を閉じた。

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