つかの間の休息①
アンバル砦を激戦の末、占領した魔王軍。そこへ魔王リコが視察に訪れた。
「魔王さま、遠路はるばるのお越し、誠におつかれさまにございます」
「クロエ、チェンバレン。二人ともご苦労さまでした。ミリア!これを」
メイドキャプテンのミリアが部下のメイドと共に持って来たものは。
「これを二人に授ける」
あらたに作らせた金色に輝く勲章。
「これは?」
「二人の働きに少しでも報いたいと思い、作らせたものです。こちらへ」
ミリアが勲章をリコに渡すと・・・
「クロエ・ルメール!」
「はっ!」
「トレントン・チェンバレン!」
「はっ!」
二人に勲章を取り付けるリコ
クロエは感激のあまり泣き始めた、つられてチェンバレンも。
「わたしは果報者です。下賤なダークエルフなのにも拘らず、このような厚遇を
ありがとうございます。魔王さま」
「しばらくこの地は安泰だろうから、次の指示があるまでは存分に休むように」
「はっ!かたじけなく存じます!」
「そうそうキミたち二人を魔王軍大佐に格付けする」
「大佐?」
「そう、魔王軍も規模が大きくなってきたことだし、そろそろ改革が必要と思ってね
軍隊は上から下まで一体とならないと作戦行動は不可能。だからある程度の階級が
必要なのよ。そうだなメレイ」
「その通りです魔王さま」
「なので今回、アンバル砦を陥落させた功により、二人を大佐に格付けするのだよ」
「なるほど」
「リナにも大佐の階級を授けている」
クロエ、チェンバレンの二人は整備された砦の中の一室で
「やはり魔王軍に加わって良かった。こんな厚遇は騎士団では無かったのです」
「そうですか。チェンバレン殿は騎士団でどのような経験を?」
クロエに聞かれて彼は、苦しげな表情をしている
「なぜ、そのようなお顔を?」
「それは総督の横暴さと傲慢により、住民たちは常に苦しい生活を強いられました。
時に私たちは税金や年貢を納められない住民の下へ出向き、無理やり納めさせたり
収められないと判ると、その家の子供を無理やり連れだし総督の下に送り・・・
その後の事は解りません。奴隷や娼婦に・・・言うも恥ずかしいことです」
「それはひどい話ですね。わたしでもそういう人には仕えたくないですね」
「だから魔王軍が制圧した地域の住民は、みな安堵の表情だし、生き生きしてます」
「辛かったですね。名誉ある騎士の仕事ではありませんよね。
魔王軍に加わったことは、あなたにとって良かったことだと思います。
私も下賤なるダークエルフではありますが、魔王さまの下で働くようになってから
自分に自信がつきました。私の様な身分のものでも分け隔てなく接してくれる
魔王さまに、身命を賭して誠心誠意、仕えることが私の使命であると感じています
チェンバレン殿と共に、頑張っていくつもりです」
「これから厳しい戦いが続くでしょう。クロエ殿と共に魔王さまに尽くす所存です」
「はい。わたくしもそのつもりです」
「美しい風景ですね」
「そうですね、こんな穏やかな気持ちになれるのは久しぶりです」
「となりの州は緑が少ないようです」
「もともとこのような土地らしいですよ。痩せているから農作物があまりとれない
見ると畑や牧草地がないですよね」
「でも反対側は緑がどこまでも広がっていますし、ところどころの集落も美しい
この光景をいつまでも、そのままにしておきたいです」
クロエの美しい横顔を見つめるチェンバレン
「クロエ殿は美しい・・・これほどの美しい女性は私、チェンバレンお会いした事が
ありません」
「そんなこと・・・恥ずかしいですわ」
「いえいえ、クロエ殿のような美しい方と一緒の仕事が出来るなんて私は幸せです」
「・・・私の様な者にそのようなお言葉・・・」
クロエは遠くの山々を眺めながら。
「私どもダークエルフは闇の種族と言われ、人間からは忌み嫌われる存在です。
だから人間に対しては良い印象を持っていませんし、敵対行為を取る者もおります
ですが、私も配下のダークエルフたちにも魔王さまは、分け隔てなく接して下さい
ます」
「その気持ちが私たちには大変うれしいのです。だからこそ命を懸けて魔王さまに
尽くそうと思っているのです。そう思われませんか?チェンバレン殿は?」
「思います。私は人間種ですがこうしてクロエ殿をはじめとする種族の方々と
等しく平等に分け隔てなく接することが出来るのも魔王さまの為ですし、
住民が普通に幸せに暮らせれば、それでよいと考えています」
クロエとチェンバレンが話し合っていると
「隊長!クロエ隊長!」と呼ぶ声がする。
「どうしたミナレット」
「こちらでしたか・・・隊長はどこ?と皆騒いでおります、次は何をすれば?と」
「ハハハ、私はお前たちを指示待ちするようなヤツに仕上げたつもりはないぞ!
時間があるなら、自分で考えろ!と伝えよ!ミナレット!」
「承知しました!」
ミナレットは走って帰っていった。その後ろ姿は心なしか嬉しそうに見えた。
「これからは今まで以上に厳しい戦いが続くでしょう。クロエ殿の武運を祈ります」
「チェンバレン殿も。またこうしてゆっくり話しましょう」
魔王軍が手中に治めたアンバル砦。
あの激戦で、あちらこちらの石垣が崩れ、中は焼け跡もあり、悲惨な状況だ。
「クロエ。キミにはしばらくこの砦を修復する任務を与える」
「承知いたしました。ではこれから早速取り掛かります」
「いままでゆっくり休みことはなかったと思う。修復するとともに適宜休んで良い」
戦いの連続だったクロエ隊も、休息が必要だと感じていた魔王リコ。
「そう言うことさ。もっと休んで英気を養うんだよ。次の戦いに備えて」
「しばらくチェンバレンも滞在するから一緒に修復作業を行っても良い」
「有難き幸せ。私の様なものにまで・・・」
「泣かなくともよい。キミはいままでわたしの指示を忠実にこなしてくれた。
いわばそのご褒美だと思ってくれてよい」
「ありがとうございます!魔王さま」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そのころブーランジュ砦に滞在していたミチルとシャーロット。
「あーひま」
「だね。ひまね」
「なんかしようや」
「なにするん?」
「狩り」
「狩り?」
「そう、なんか動物狩りに行こうぜ!」
「あーね。おもしろそうじゃんよ」
ミチルといっしょにいるせいかシャーロットまでがギャルっぽい話し方に。
草原に出ると、遠くに鹿がいるのを見つけた。
そっと近づき、いきなり剣で斬りつけるも、逃げられた「あー逃げられた!」
「なんか悔しいね。もっと先に行ってみようぜ!」
その逃げたシカを追いかけて、草原を走る二人。
「気持ちいいね!」
「だね。こんな気持ちになるのはしばらくぶりよ」
草の上に大の字になって横になるミチルとシャーロット
くたびれたのか、シャーロットはすやすやと寝息を立てて寝てしまった。
ミチルは座り直し、遠くを眺めている。
(理子・・・あんたと巡り合えて、うれしいんよ・・・
学校ではあんなことをしちゃったけど、マジで友達になりたかった・・・)
今までの事を思い出したのか、目からは涙が一滴・・・二滴・・・・・
「ねぇシャーロット・・・そろそろ帰らね?」
「う?ああ?マジ?そんな寝てた?うそぉぉ~~~マジヤバっす・・・」
「ははは」
「ふふふふ」
ブーランジュ砦へ戻ると、リコとミリアが来ていた。
「転移装置って便利よね。あ!ミチル!元気だった?」
「うん、元気だったよ。いつもありがとうな!」
初めて建設したこのブーランジュ砦も、ランブランズ砦やアンバル砦く比べれば
かなり小規模ではある。だけど「そう、ここをあなたに任せようかと思ってる」
「うちらに?」「そうだけど、なんか変?」「いやぁ良いの?マジで」「うん」
「ただし一つ条件が有るんだけど・・・」
「だよねぇ」
「ですよねぇ」
魔王軍の進軍と共に制圧した集落や街で、
魔王軍に志願してくる若者が男女問わず、多く存在しているのだ。
「なのでその志願してくる人たちを、兵士として育てて欲しいんだよね」
「じゃあ、うちらが教えるってこと?マジで」
「そう」
「解った!やるよ!せっかくリコに仕事任されるんだから!な!シャーロット!」
「やるよ、あたしも。ミチルがこんなにやる気になってるんだしね」
やがて
若い男女がブーランジュ砦へ続々と現れた。
「じゃあ、こっちへ来てくれる!」
ミチルとシャーロットは配下のエルフたちと一緒になり、
志願してくる人たちを選別し宿舎へ誘導し、身体検査を終えると着用する服装を支給
「あーあなたは、ちょっと寸足らずだねぇ。こっち着て見て」
「ぴったりじゃん!あんたさ、似合ってるよ!」
「そうですか?」
「うん、マジでモデルできんじゃね?」
「モデル?」
(ああ、ここは異世界だったわ)「いや何でもないよ」「次の人!」
着なれない服に戸惑っている人も、うれしそうな人も。
整列したおよそ100名の新人を前に
「ねぇ、こんな大勢の前で喋ったこと無いんですけど・・・」
「大丈夫っすよ!ミチルなら」
台の上に立つミチルとシャーロット
「オホン!えーえーマイクテスト!」
「そんなんしなくていいって!」新人から笑いを取ってと。
「私がお前たちをこれから存分に鍛えていくから覚悟するように!」
「あ、あたしがミチル・ヤマモトだ!よろしく頼むぞ!そして」
「リンジー・マリア・シャーロットよ!よろしくね!」
「よろしくお願いします!」
ミチルとシャーロットの新しい生活が始まった。
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