アバンツオ州侵攻作戦④意外な敵

「リナ隊長!お待ちしておりました!

 魔王軍新基地建設を任された魔術師のトラダートです。

 昨日も騎士団の襲撃を受け、数名のゴブリンナイトが戦死しました。

 これですでに20名が犠牲になりました。申し訳ありません」

「いやいやキミの所為ではない。このまま魔王さまの命令通り建設を進めよ」

「はっ!リナ隊長の部隊が来られると聞いて安心しました」


リナは配下の部隊長と幕僚を従え、周辺の視察を始めた。

ランブランズ村を見下ろす小高い丘の上に建設されている新基地。

この丘の3方向は川と湖に囲まれ、1方向からのみの攻撃しか出来ないから

当然その方向の守備は硬くしなければならない。

「襲撃を受けたとき、敵はどちらから来たのだ?」

「はい、明け方背後の湖から上がって来たようです。正面からはまったく」

湖側から攻撃を受けたと言うことか?「甲冑の色は?」「赤です」

やはり赤い鎧を着た一隊からの攻撃を受けたと言うことか・・・

ゴブリンナイトを瞬殺したということから奇襲に慣れている?かもしれない。


湖側は急峻な崖になっていて容易に上ることが不可能だ。

川は流れが速いし、ここからも難しい・・・正面側は柵で侵入は不可能となると。

「崖を良く調べてみよ」

「はっ!」


すると崖に人一人がやっと歩けるくらいの小径を発見した。

(ここから来るとなると、大男は無理だな)


その夜

松明をいままでよりも多く使い、建設現場をより明るくすることにした。

「様子に異変はないか?」周囲を警戒中の兵士を見回るリナ。


すると


ガサッ・・・カサッと音がする。

(なんだ?)


トッ・・・

と赤い鎧を着た騎士が3名現れた!

「何者だ!」

「魔王軍の奴らだな?ここがお前らの死に場所だ!死ね!地獄へ落ちろ!!」


早い!素早い剣捌き・・・

相当な使い手であることが容易に見て取れる。


だが魔王軍最精鋭部隊を率いるリナが一歩一歩赤い鎧たちを追い詰めていく。

ゴブリンナイトも激しく戦い、またゴブリンアーチャーの矢もその精度を高め、

赤い鎧たちを崖際に追い詰める。

その3人のリーダー格のマスクがゴブリンナイトの剣で引き裂かれ顔があらわに。

顔を見て、驚くリナ。

「リナ。久しぶりだな・・・あたしだよミチルだ」

「ミチル?何故ここに?」「今に分かるさ!じゃあな!あばよ!」


それから騎士団からの襲撃はパタッと無くなった。




「ミチルが?」

「そうだ。自らそう名乗ったのだ」

「・・・何故だ?ミチル・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あのとき理子の槍で身体を突き貫かれ死んだはずのミチル。


あ・・・・あたし・・・死ぬんだ・・・・ごめんな理子・・・・・・

仲良くなりたかったんだよマジで・・・・・・・



・・・意識が遠のいていく・・・・・


・・・キミは・・・やりのこした・・・ことは・・・ないか?・・・

誰?

あなたは誰?


わたしは天使。


あなたの願いを一つ叶えよう


あたしの願い・・・生き返りたい!・・・・・現世に戻りたいんですけど!・・・


現世には戻れない。

この世界で出来る事を考えなさい・・・


んだよ!・・・

でも理子にあって謝りたいんだ・・・何とかしてくれよ!


解りました。

あなたは帝国騎士団の騎士に転生しなさい。

戦場で相手と相まみえたときに謝罪するのです。

許してくれるかどうかは、相手次第。あなたの誠意を尽くした謝罪があれば

許してくれます。そしてあなたが望むように終生の友達でいられるでしょう。


そういうこと?

でも騎士って何?

どうして騎士なの?

何がなんだかわからない・・・


と考えているうちに。


ミチルは女騎士の姿である建物の中にいた。

色とりどりの鎧や防具で身を固めた人物が歩いている、男も女も・・・

「お!やっと来たか?キミだろ今日から騎士団に入るって女騎士は」

「え・・・あ・・・えーっと・・・あんた誰?」

「あ、俺?親衛隊副隊長のアンドレアっていうんだけど。キミの名は?」

「ミチル」

「変わった名前だね。ミチルね、覚えとこ!じゃあいっしょに行こう」

「なんで一緒なの?」

「え?知らないの?キミも親衛隊の一員なんだけど」

「はぁ?昭和のアイドルかよ!親衛隊とかさ・・・まぁいいわ。連れてってよ」


壮麗で豪華を建物にしたような感のある帝国騎士団。

「ここだよ」

【帝国騎士団親衛隊事務室】と書かれた看板。入った先には・・・

赤い鎧を着用した若い男女が数10名。

「ここが親衛隊の詰所。みんなキミの仲間だよ。そして一番奥にいるのが隊長だね

 挨拶しておいてね!」

「あ、ミチルっす。よろしくです」

「よろしく~~~」


「話は聞いていたよ、ミチルくんだね。隊長のニナだ、よろしく頼むよ」

「うっす」

「じゃあ明日から戦闘訓練やるからそのつもりで。きょうは宿舎で休んでよし」

「うっす」


翌日

「ふわぁぁぁ~~」

ベットから抜け出て、顔を洗い、歯を磨き、食堂へ行くと。

すでに大勢の騎士たちが食事中だ。

「よっ!ミチル!おはよう!」

「うっす」

「キミはうっすしか言わないね」

「え~~ダルいっす」

「だるい?」

「あーめんどいから話しかけないでくれます?」

「あ、え、あっ・・・そう。じゃまたあとで」

「うっす」


部屋に戻り、鎧を着用し講堂へやってきた。

すでに騎士同士で訓練用の剣で対戦しているのだが・・・

こんなこと出来るんかい?と言う感じしかなかったミチルのもとへ

「おはようミチル。きょうはお前の剣を見ておきたい。こいつとやってみてくれ」

隊長のニナが連れてきたのは、小柄なニナの倍はあろうかと思われる大男。

「お前がミチルか?ふん!小娘ごときにやられねぇぜ!かかって来な!」


「ふわぁぁぁぁ~~~」

「てめぇ!舐めてんのか!この俺を!」


剣を構える男。

いやいやながら構えるミチル。


大男と剣で斬り合うふたり。


いやぁぁぁと突っ込んでくる男を

ヒラリと交わし、反転してくる男の喉元に剣を突きつけ。


うっ・・・


「勝負あり!」

「キミはなかなかの腕前だな。親衛隊に呼んでよかったよ」

「そうっすか」

「そうだ。これからも精進してくれよ」

「うっす」


次の日もその次の日も、元からいた騎士を相手に訓練の日々。

「あーだりぃなぁ・・・外へ出てぇなぁ」


「ミチル。ちょっと来てくれ」

「はぁ?なんなんよぉ?」

呼び出したのは隊長のニナ。

隊長室へ行くと、二人の女騎士が立っていた。

「あなたがミチルね?よろしく。シャーロットよ」

「貴様か?新しく入ってきた奴ってのは?クラウディアだ」

「う~~~っす」

気だるげなあいさつに・・・「舐めてんのか!てめぇ!」とクラウディアがキレた。

「まぁまぁ。これから3人で、ある任務に就くことになったのよ。

 なので明日、3人で模擬戦を行うことになったから、準備して講堂へ来てね」

「うぃっす」


次の日

模擬戦闘訓練が始まった。

親衛隊長のニナが審判を務め隊員たちが見つめる中、

その訓練が「はじめ!」の号令でスタートした。


襲い掛かるクラウディア

だが身軽なミチルは、スイスイと交わしていく。

「なんだ?あいつ、クラウディアが遊ばれてんじゃないか?」

カンカンキンキン、剣と剣がぶつかり合う音しか聞こえない講堂に、

いつの間にか、親衛隊以外の騎士たちが見に来ていた。


不意に突きだしたミチルの剣がクラウディアの喉元に。「勝負あり!勝者ミチル!」


ふぅふぅと息遣いが荒いクラウディアに対して平然としているミチル。

「次は私よ!さあ来なさい!」

「あーだりぃんですけど。しゃーないな」その言葉にチッとイラつくシャーロット

だがすぐに素面にもどって剣を構えじりじりとミチルとの間合いを詰める。


ヤッ!と構えた剣を目にもとまらぬ速さで振り下ろそうとしたその瞬間!


ドッ!

うっ・・・くぅぅぅぅぅ~~~~~

床に倒れ込んだのはシャーロット。


ミチルが剣を横に薙ぎ払い、シャーロットはその剣をまともに食らって倒れたのだ。


「うわっ・・・実力トップのシャーロットまで・・・なんなのあいつ?」

「うーだりぃ・・・帰っていいっすか?」


「ちょっと待てミチル。

 今回の任務は極めて特殊だ。3人の連係がカギだ。しばらく3人で生活せよ!」

「あー、まぁいいっすけど」


それから3人の共同生活が始まった。

ぎくしゃくしていた3人。それはミチルとクラウディアだけなのだが・・・

シャーロットはいがいに大胆な行動をとることが有る。それはどちらかと言えばクラウディアのお家芸かと思っていたけれど。


それも時間がたつにつれて、ギクシャク感もなくなり、普通に生活出来ていた。

3人の中ではミチルが最年少の17歳。クラウディアは一つ年上の18歳、

シャーロットは20歳とほぼ同じような年齢なのだ。



そしてその日がやって来た。



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