王国の野望⑦兄と弟。再会.
シャルロットとステファンの二人を護衛しながら、国境を越え、
ミンタシアがかろうじて勢力を置いている地域へはいるものの・・・
「貴様たちはアバンツオの連中だな?」
「そうだとしたら?」
「ここはデレンマレーノの領土だ。入ることはまかりならん!」
「違うぞ!ここはミンタシアのものだ!」
「お前は?」
「ミンタシア独立軍の者だ」
「はっ!そうかい、それならここで死んでもらおうか。おい!」
するとたちまち30名ほどのデレンマレーノ軍が現れた。
だがそれを取り囲むようにアバンツオ王国軍独立機動歩兵軍が散開する。
「おい!いつのまに・・・囲まれちまったぞ!」
「やべぇな・・・逃げるぞ!」
「おい!逃げるぞ!全員捕まえろ!歯向かうやつは斬れ!」
必死に抵抗するデレンマレーノ軍をあっさり片づける。
一人の将校と兵士を捕虜として連行することにした。
盗賊やデレンマレーノ軍の襲撃があったものの、
ほぼ順調に歩を進め、ようやくミンタシア独立軍の本拠地セリンノムに着いた。
「一緒に来てくれて、ありがとうございました。
何もないところですが、ゆっくりされてください。宿舎はこちらです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
王宮の地下牢に閉じ込められたままのゲルハルト国王と家臣たち。
「今日は何日だ?」
「ここに入れられて1か月は立とうかと」
その日はベルケルたちがアバンツオに対して宣戦布告の日、一週間前。
「国王さま」
「どうしたのだ?」
地下牢の管理人が人目をはばかるように、ある話をしてくれた。それは・
「デレンマレーノ王国は隣国のアバンツオに宣戦布告しました」
「まさか!それは本当か?」
「はい。私も聞いた話なので確たるものは言えませんが、ほぼ確実のようで」
「・・・ベルケルめ・・・何ということを」
「同時にミンタシアへも宣戦布告をしていますが、こっちはすでに奇襲攻撃で
ほぼ半分くらいの領土を奪ったようです」
「なに!!!」
「アバンツオにも一時奇襲攻撃を行いましたが、こちらは撃退されました」
まさかの出来事に頭の中の整理が出来ていないゲルハルト国王
「陛下、これは大変なことをしてくれましたなベルケルは」
「そうだな。だがこの状況では何をすることもできん・・・
シャリエ女王はさぞお怒りであろう・・・」
「そうですね、まずはここを出ることを考えましょう」
「と言ってもだなぁ・・・」
悩む国王と家臣たち
宣戦布告による回線の日まで1週間を切っていた。
「帝国の復活までもう少し。手を抜くなよ」
「解ってる。国王たちはどうする?」
「そのうち・・・解ってるよな?」
「ああ。死んでもらおうってことだよな」
「そういうことだ」
ベルケルたちが国王を暗殺するべく話をしているころ。
デレンマレーノ王国に潜入を試みる一団があった。
「あれが国境だ。ずいぶんと警戒しているようだな」
「そうだね、兵隊が見回りしているようだし・・・まぁ俺たちなら大丈夫だ。
潜入するのは得意中の得意だしな!そうだろカトリーヌ」
「あたり前なことを言うな!」
カトリーヌと呼ばれた若い女。
それはミンタシアの南部、イセリヤを拠点とする反帝国組織、ゲリラのリーダー。
南部の中心都市イセリヤは
帝国時代から反帝国の気風が強く、支配者がデレンマレーノに変わってからも
それは変わらず、たびたび首都での放火事件や役人や軍人へのテロ攻撃を繰り返し
その都度討伐軍が送られていたが、その攻撃を跳ね返しそれどころか討伐軍を
制圧することもしていたから敵地潜入くらいは朝飯前。
「よし、じゃあ二人づつ分かれて行こう。集合はここに明後日の朝な」
「ひさびさだし、ひと暴れして来ようぜ」
その次の日、王都デレンマーの街のあちこちで放火事件が発生した。
上がる火の手、逃げ惑う人々。
消火活動もおぼつかない・・・
「またイセリヤの連中の仕業か?見てこい!」
ベルケルの部下が現地へ飛んでいく・・・
(あの連中、俺たちの邪魔ばかりしやがって・・・)
その部下の何人かが帰ってこない。
「あいつまだ帰らないのか?」
「ジャスティンが殺された!イセリヤの連中に」
「くそ!イセリヤめ!よしそれならあいつらのところに近衛軍を送ってやる!
ロジャース!軍に指示しろ!近衛軍をイセリヤへ送れって!」
「おう!」
デレンマレーノ軍の中でも最精鋭とされる近衛軍をイセリヤへ送り
かのゲリラを殲滅することにしたベルケルだが・・・
同じころ
「外で何か騒動が起こっているようだ」
「陛下!街のいたるところで火の手が上がっています!」
地下牢の明り取り窓から外を見た家臣の一人がゲルハルト国王へ。
「それはまずいな。もしかするとゲリラかもしれんな」
「イセリヤですか?」
「そうだ、あの連中ならやりかねない」
イセリヤのゲリラの一部が王宮まで侵入していた。
「ここが王宮だ。俺たちを搾取しまくっていたやつらがいるとこだぞ」
「そうだな、ちょっとひやかしてやろうぜ」
衛兵はいるものの、案外のんきなもんで。
「あの衛兵さ、怠けてないか?あれ」
「そうだなぁ・・・なんだかやる気ないのかね」
「このまま歩いて行っても気が付かないんじゃないか?」
「そうだな、行ってみっか」
平静を装い、そのまま衛門をくぐろうとした二人のゲリラは、あっさり通過。
「マジかよ・・・これじゃあ王宮も簡単に墜とせるかもな」
「だな、奥へ行ってみようぜ」
王宮の中は迷路のようだが、
彼らはその経路を頭の中に入れて行って・・・
「これは地下へ続くのかな?」
「かもな。ヤバくなったらこういうところから逃げるとか聞いたぜ」
階段を降りていくと、やがて・・・
「お?あれを見ろよ」
「なんか役人がいるな?アイツもやるきなさげだな」
二人の役人が何か飲みながら談笑している。
鍵らしきものが複数壁に掛けられている
「もしかすっと、地下牢とかか?」
「あーそうかもな」
少しづつ近づいていく二人。
「ん?なんだお前たちは」
「あ、あの上役の人が呼んでいます」
「そう、じゃあ行ってみるか」
「そうだな」
と立ち上がった瞬間、背後から襲い掛かり、二人の首を短剣で切り裂いた。
ぎゃっ・・・
一瞬の出来事だ。
牢役人二人を瞬殺し、「奥へ行ってみようぜ」
役人の机にあったランプをもって歩いていくと・・・
「ずいぶん臭うな・・・」
複数の牢に入れられた囚人たちの異臭が鼻を突くようになった。
その一番奥の牢には、ほかの囚人とは明らかに違う雰囲気がしている
こここそ、ゲルハルト国王と家臣が閉じ込められている牢なのだ。
「あなたは?」
「私は国王ゲルハルト・ツェルナーだ。キミたちは?」
「イセリヤの者です。国王がなぜここに?」
「ベルケル一派の陰謀で此処に幽閉されているのだ」
「そうか。それで分かった。なんで俺たちのイセリヤにあなた方の軍が攻めてきたか」
「イセリヤにも軍を送ったのかベルケルは・・・」
「ベルケルって誰です?」
「コレルハウト帝国の遺臣だ。いつの間にかこの王宮に入り込み、言葉巧みに
家臣や軍を率いれ、私たちをここに幽閉したのだ」
「とんでもない奴ですね。早くここを出ないと」
「だが出る手段がないのだ」
「そうですか?今ここには何人いますか?」
「6人だ」
「俺たちだけじゃあ無理だな。応援を呼ぶか、それとも」
「明日には全員集まらないとな。そこで話すか」
「そうしよう」
「王様、しばらくここで待ってもらえませんか?かならず助けに来ますから」
「大丈夫か?無理するなよ」
二人のゲリラが王宮を出て集合地点に行くと、すでに潜入していたメンバーが
すべて戻ってきていた
「遅いな。おまえたちは」
「すまん。でも国王が幽閉されているのが分かったんだ」
「えっ?国王が幽閉」
「そうだよ」
「それは救出すべきだな、ほかにもいるのか?」「王様も入れて6人」
「6人?」
「ああ、そうだ。家来だろうなぁ。救出してさウチらで使えないかね?」
「使うって?」
「デレンマレーノ王国に対してさ、なにか揺さぶりをかけるとか。そういうの」
「出来なくはない。それより先にミンタシア独立軍に言っといた方が良くない?」
「そうだ、じゃあ俺とお前、エリック、連絡してよ」
「あれを使ってか?」
「そう魔道具」
通信用魔道具はミンタシア独立軍の中で使用することが多くなり、
アバンツオの研究所から追加発注していたのが最近届き、
ゲリラたちに使われるようになっていた、それはアバンツオ軍内でも同じ。
「イスマエル?」
「俺だよ!ゴメスだ、イセリヤの」
「ああゴメス?どうした?何かあった?」
「そう、その何かなんだよ。デレンマレーノの王宮に潜入した俺たちの仲間が
国王が幽閉されているのを発見したんだ。それでどうするか?ってとりあえず
イスマエルたちに知らせとこってことになってな」
「そうか?じゃあ国王を奪還して俺たちで匿う。そのあとのことは任せろ」
「解った、じゃあ俺たちで国王を逃がす。それでいいな」
「いい、よろしく頼むぞ!」
「おう!任せろ!」
数日後
イスマエルのもとに、捕らえられていた国王たちが連れられてきた。
ゲルハルト国王は部屋に入るとイスマエルの顔を見て「兄上!」
「・・・」あっけにとられるミンタシアのメンバー
「兄上って?どういうことイスマエル」
「なんで国王に?兄上って?」
「わけわからねぇんだけど」
イスマエルはミンタシア独立軍のメンバーを前にして
「いままで騙していて悪かった。
俺、実はデレンマレーノ王国の前国王ウルリック・ツェルナーなんだ」
「ええ!!!!!」
「ホントか?イスマエル!!!」
「俺たちを騙してたのか?」
「いや、そうじゃない。こいつとは色々とあって追放されたんだ」
「そうだったのか?でも今は俺たちのリーダーだ。どうするこれから?」
「兄上、いままでどちらにいらしたのですか?」
「俺はあのあと、あちらこちら放浪していたのさ。デレンマレーノ王国を」
「そうだったのですか?私は兄上にもうしわけないことを・・・」
「もう済んだことだ。それよりもお前は幽閉されていたそうだな」
「はい、あの帝国の遺臣だった男たちが今は王宮でやりたい放題なのです」
「そうだったか。俺たちのミンタシアを制圧しようとしたのは、そいつらか?」
「そうです。私はミンタシアを併合しようと考えていたこともありました。
でもそれは我々のデレンマレーノ王国を滅亡に導く道と悟りました、だから
私は併合や武力をもっての行為は禁じてきました。ですがあの男は」
「解った。では我々と一緒に、帝国の残滓どもと戦おう」
「兄上!」
「俺とお前は兄弟ではないか。いままでのことは俺に問題があった。それは
もう過ぎたこと、お前と一緒にデレンマレーノを立て直す。それでいいか?」
「はい。兄上といっしょなら」
(ミンタシアのリーダーは元デレンマレーノ王国の国王、ウルリッツだ!
女王さまに知らせねば)
現国王ゲルハルトと前国王ウルリックの前でリーダーの一人カトリーヌが
「その帝国の残滓どもは今、どうしていますか?」
「いまは、王宮をすべて自分たちの仲間で固めていて、意見が言えない状況
軍もそいつらに牛耳られています」
「どうしたらいいだろう?」
「アバンツオと連携し挟み撃ちというか二方面作戦を強要させ、戦力を分散させる
そうすれば少しは勝てる望みが出てくる」
「アバンツオ側がどうでるかでしょう」
「シャリエ女王は聡明な方ですし、こちらの話も分ってくれると思いますが」
「そうか。ではミンタシア側から向こうへ問い合わせてみよう。カトリーヌ頼む」
「解った。じゃなくて解りました」
「いいよ今まで通りで」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
シャリエ女王の元に、ミンタシアへゲルハルト国王が亡命した知らせが届いた。
「亡命?」
「そのようです。ミンタシア独立軍が一枚かんでいるようですね」
「元帥殿、この状況をどうみますか?」
「ミンタシアだけでデレンマレーノの攻勢を止められない。我々に助力を求めているように思えます」
「そうですか。少し考えさせてください」
「かしこまりました」
マルティーヌ・シャリエ女王はミンタシアとの関係をどうするか悩んでいた。
今回の手紙では助けてほしいという内容だが、自分たちもデレンマレーノから攻撃を仕掛けられている。一度は撃退したが、二度三度とあるかもしれない・
「メレイを呼んでください」
「お呼びでしょうか?」
「元帥殿から聞きましたか?」
「はい、ミンタシアからの手紙の件ですね」
「そうです。彼らの依頼を受けようと思いますが、どう思いますか?」
「私個人的にはお受けするのが筋と思います。
ですが彼我の兵力差は大きいので簡単には出来かねると思うのですが」
「そう、ですが今のところミンタシアへ大兵力で攻め込んでいます。
ならば我々から逆に攻め込んで兵力を分散させるのも手ではありませんか?」
「しかし我々にデレンマレーノを攻める口実は無いのでは?」
「それはつい先日デュロリカを一時的でも占領されたわけですし、それが口実に
なりませんか?あの時彼らはデュロリカを橋頭保にする作戦もあったようです」
「なるほど。ではわが参謀本部で作戦計画を起案することにしましょう」
「そうしてください。それと元帥殿を呼んでくださいませんか」
「心得ました」
好々爺然としたフィッシャー元帥が部屋に入ってきた。
「お呼びと聞きました」
「メレイにも言いましたが、横暴なデレンマレーノに鉄槌を下すことにしました」
「解りました。相当難儀な作戦になりそうですな」
女王執務室で元帥と女王が、話し込んでいた。
完
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