王国の野望⑥逆襲のクララ
デュロリカにほど近い小集落アニン近郊に布陣したクララ率いるアバンツオ軍
ある日の朝
駐屯しているアニンから西の方角から煙が上がっているのが見えた
「あれは何だ?すぐに見てこい!」
「はっ」
戻ってきた兵士からの報告では「デレンマレーノ軍が村に放火しているようです」
「ジョルダン少尉!部隊を率いてその集落と住民の様子を見てくるように
逃げてくる住民がいれば保護せよ」
「解りました!」
ジョルダン少尉が自分の部下たちを率いて出発していった。
「おい!あれを見ろ!」
ジョルダン少尉が指さす先には住民たちを虐待する兵士たちが見えた。
「あれはデレンマレーノ軍だ。住民たちを救う!ついてこい!」
「おおおお!!!!」
少尉が率いる兵士たちは虐待するデレンマレーノ軍を一蹴し
数十名の住民を保護した。
「大丈夫か!」
「はい!あの連中はいきなり村に現れて放火し始めました。
止めようとした村長は槍で数か所突かれ殺されました・・・」
指さす先に血を流して横たわる男がいた。
周りには住民が死んだ村長を弔うかのように集まっている。
村長は腹を複数刺され即死状態だ。
「これは・・・村長に神のご加護を・・・」と兵士たちと共に祈りを捧げる。
「村長を埋葬してくれ」
焼け落ちた村を後に、住民たちを保護しつつ駐屯しているアニンに戻ってきた
ジョルダン少尉たちをクララをはじめとする幕僚や将校たちが出迎える。
「住民は、ジョルダン少尉、キミが保護してランブランズ砦へ移送してくれ。
移送後はすぐにここへ戻るように」
「はっ!心得ました。では住民の皆さんは私と一緒に来てください」
着の身着のまま逃げてきた住民たちは、馬車に分乗しランブランズへ移送された。
「デレンマレーノ軍はずいぶんと手荒だな。いきなり村に放火するとは・・・」
「そして止めに入った村長を殺してしまうなんて。あり得ません」
「このままではダメだ。やはりデュロリカを奪い返すのだ。それ以外にない!」
デュロリカを占領しているデレンマレーノ軍はどの程度なのか?
それをまず知りたい・・・
「アレクサンダー中尉。デュロリカを占領している軍の規模を調べてくれ。
すこし危険な任務だが、やってくれるか?」
「承知しました閣下。では行ってまいります」
アレクサンダー中尉は手練れの兵士をごく少数連れて出発した。
「中尉殿、もうすぐデュロリカに入ります」
「解った。ではあの森の中で夜まで待機しよう」
夜
「では行くぞ」
「はっ」
夜でも今日は月明かりに照らされているデュロリカの街。
「あの教会だけ明かりがついています」
「よし、行くぞ」
壁伝いに中をのぞくと、いた!
デレンマレーノ軍の軍服を着た数名の男が机を囲んでいる様子が見えた。
その後、街の中を見て回るも軍隊の姿は見えない。
「では少し外へ出てみよう」
街から少し離れた広場にテントを張っている一団がいた。
これが敵であるデレンマレーノ軍第10軍の一部。おおよそ500名程度の中隊規模の
部隊がいくつかの大型テントに分かれて分宿しているようだ。
周囲の集落にも複数の部隊が分宿しているし、
国境警備所も占拠されデレンマレーノ軍が100名ほどの小隊が駐屯しているようだ。
「閣下、ただいま戻りました」
「ご苦労だった、で状況はどうだ?」
「はい、デュロリカの街の教会を奴らは司令部代わりに使っております
また周辺には200名程度の部隊がテントに分宿しています」
「そうすると、すべて合わせても1000人程度ということになるな」
「そのようになります」
「では作戦計画を立てよう」
デュロリカ中心部へはクララ率いる第8軍第18連隊と第3軍第23連隊が突入する
同時に、第3軍第8軍は郊外に3か所に分かれて分宿している敵を包囲殲滅する。
「一気に片を付ける。全員配置につけ!」
「はっ!」
クララの指示により各部隊が動き出す。
(わたしは奴らを許さない。敵は殲滅するのみ)
その日の夜
「ではデュロリカ中心部へ突入する。
ジュリアス曹長、キミは突入と同時にのろしを上げよ。一斉攻撃の合図だ!」
「かしこまりました」
今夜は月明かりもなく、暗い街中へしずしずと侵入する。
デレンマレーノ軍が司令部としている教会を包囲する・・・
「では行くぞ!」
アレクサンダー大尉がドアをけ破り、いっせいに内部へ突入する。
「誰だ!」
「アバンツオ王国軍第8軍、クララ・フォン・ベルガーだ!」
「なにアバンツオの連中か?面白い!相手になってやる」
ひときわ体格の大きな男がクララの前に現れた。少将の階級章が付いている
闘志に燃えるクララの激しい剣裁きに翻弄される敵将。
教会の中ではアバンツオ軍が敵軍を追い詰めている。
俊敏なクララの動きについていけなくなる敵将の脇腹を斬る!
返す刀で袈裟懸けに斬り捨てたクララ。
その首を落とし、槍の穂先に突き刺すと
アバンツオ軍から歓喜の雄たけびが上がる!
ほぼ同時刻に、ジュリアス曹長が挙げたのろしを見たアバンツオ軍が
一斉に、近郊で分宿していたデレンマレーノ軍に襲いかかり、
侵略してきたデレンマレーノ軍を追い出すことに成功した。
国境の川に架かる長い橋を、彼らは逃げて行った。
デュロリカもその周辺の小集落はすべてアバンツオ王国の国旗が掲げられた。
デレンマレーノの国旗は破り捨てられた。
デュロリカがアバンツオ軍に奪還されたという一報はすぐに
首都デレンマーにも届けられた。
「ベルケルさま!」
「あ?逆襲にあっただと?それで被害は?」
「派遣した第10軍の一部が殲滅されました!戦死者は105名戦傷者は2388名です」
「なに!ぐぬぬぬぬぬぬぬぬアバンツオめ!目にものを見せてくれる!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【デニア歴783年8月1日をもって我がデレンマレーノ王国は
貴国に対し宣戦を布告する デレンマレーノ王国国王ゲルハルト・ツェルナー】
マルティーヌ・シャリエ女王は宣戦を布告する手紙を受け取ったのだが・・・
(どうも書体に違和感が感じられる)
「元帥殿、参謀長、この手紙を見てください」
「これは宣戦布告状ですな」
「ついに来ましたか」
「しかしこの書体というか、書き方に違和感を感じるのです」と言いながら
執務机の引き出しから、ゲルハルト国王から以前届いた手紙を見せると。
「うーん、なんとは無しに違和感はありますね」
「別人が書いたものではありませんか?」
「そう思いますか?メレイ」
「そうですね、ゲルハルト国王は確か冷静に物事を判断される方かと思いますが」
「デレンマレーノ王国内部で何か異変があったのかもしれませんね」
とは言ったもののシャリエ女王は、どうしてよいか分からない感じだった。
「ゲルハルト国王の身に何かありましたね。これは」
アバンツオ王国軍参謀本部では、敵国の内情をどうにか把握しようと作戦を
練り始めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「国王、わたしたちはあなたたちに攻め滅ぼされたコレルハウト帝国の遺臣です」
ゲルハルト国王の執務室に乱入してきたベルケル一派は、国王に縄をかけると
「これからこの国は我々が支配することにします。
この大陸の覇者はコレルハウト帝国こそがふさわしいのです。
それをこれから実行しますから、あなたは当分、地下牢で過ごしてください」
「すでにアバンツオにもミンタシアにも宣戦布告を宣していますから
ご安心を」
ゲルハルト国王も側近の家臣たちも一斉に縄をかけられ地下牢へ連行された。
「どうしてこういうことになったのか?」
「如何しましょう?陛下」
「どうもこうもない。いち早くこの地下牢を脱出してアバンツオへ逃れよう。
シャリエ女王と話がしたい」
「そうですね、でもどうして此処を出ましょう?」
「・・・どうするか・・・」
薄暗い地下牢で粗末な食事に耐える国王と側近たち・・・
牢の上には明り取りの窓がある。
しかしただ穴があけられていて鉄格子もはまっているから、出ることはできない。
外を見るとデレンマーの街並みが見えるが、今のところ異変はなさそうだ。
「このままではこの国は大変なことになるな」
「さようで」
「こういう時に兄上がいれば・・・」
「兄上さまは、今どこにいるのでしょうな」
「そうだな・・・」
ゲルハルト国王の兄、ウルリック・ツェルナーはイスマエルと名を変えて
ミンタシア独立軍のトップになっていたのをゲルハルトは知らない。
そのイスマエルは
「どうすんだよ!イスマエル。もう半分以上の領土を奪われてしまったぞ!」
「まぁ待て。アバンツオにも奴らは攻め込んだらしい。同時に二つの戦線を維持するのは簡単ではない。アバンツオとうまく連携して敵を両方から攻めるのだ」
「アバンツオに行った連中はどうしたんだ?帰って来たのか?」
「まだだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「女王陛下」
「どうしました?」
執務室に入ってきた、王宮警護隊隊長アンナ・クラフト大尉がミンタシアから客が
来たことを知らせてきた。
「如何されますか?」
「会いましょう。ここへ連れてきてください」
「かしこまりました」
王宮警護隊の兵士と共に女王執務室に入ってきたミンタシア独立軍の二人。
「私はシャルロット、彼はステファンと言います。
女王さまにお目にかかれること、光栄に存じます」
「遠路、お疲れではありませんか?食事とシャワーを浴びてからにします?」
「いえ、いまミンタシアはデレンマレーノ軍によってその領土の半分が失われ
我々は北部の辺境地帯に追い詰められてしまいました。
どうか私たちを助けていただけませんか?どんなことでもします」
シャルロットはやや焦っているようだが
「彼女の言う通り、我々ようやく帝国から独立できたにもかかわらず、
今度はデレンマレーノの圧力にさらされています。なんとかしたいのですが」
「話は分かりました。
しかしながら、わがアバンツオ王国もデレンマレーノから宣戦布告されています
ですから直接的な軍事支援は今のところ出来かねる状況ではありますが
できる限りの支援はしたいと思います。そのための作戦も考えています。
あなた方はしばらく此処に留まって作戦計画の策定に加わってもらえますか?」
「お安い御用です!ミンタシアの地理はすべてこのステファンの頭の中に・・・」
「何よ!ステファンばっかいい顔してさ!あたしだって」
そんな二人を見つめるシャリエ女王の慈悲深い笑顔をみて顔を赤くする二人。
「参謀長を呼んでください」
「お呼びですか?」
「このお二人はミンタシアから来られた方です。
デレンマレーノの圧力にさらされている現状を考えると我々と共同戦線を
張るのが得策ではないかと思いますが、メレイはどう思いますか?」.
「我々とミンタシアで挟撃するのが一番ですが、それはデレンマレーノも考える
はずですし対策も検討しているでしょう。一気にデレンマーを攻略することも
考えられるのではないでしょうか?」
「それと」
「なんですか?」
「あの国王は冷静な判断が下せる方のはずなのに、いきなりの軍事行動には
違和感を禁じ得ません。なにかあの国に予想外の事が起きている気がします」
「あなたもそう思いますか」
「はい」
「あの国の内部、特に王宮内の様子が知れれば、手も打てるのですが」
「シャルロットさぁ、一度ミンタシアに戻るべきじゃないか?」
「それもそうだ」
「女王さま、私たち一度ミンタシアに戻って協議したいを思いますが」
「そうですか。それなら・・・アメル大佐を呼んでください」
元グラモント砦の守備隊長であったリンカ・アメル。
数々の激戦地を歩いてきた彼女も、いまでは女王直属の独立機動歩兵軍を
率いていた。女王の指示を受けいつでも戦地に赴くことが出来る軍団だ。
もちろん参謀本部の起案する作戦計画により行動することもあるなど
機動性を持たせた兵力5千ほどの部隊である。
「お呼びでしょうか」
「アメル大佐、あなたはこれからこの二人と共にミンタシアへ向かって下さい」
「承知しました。私の軍、すべてでしょうか?」
「それはあなたに任せます。ミンタシアまでは敵国からの攻撃を受ける可能性も
ゼロではありません。かの国の領地を通りますから。それに耐えられる兵力で
二人を保護しつつ、ミンタシアでの軍事支援を行ってもらいたい」
「解りました。では早速」
「よろしく頼みます」
リンカ・アメル大佐は部下の独立機動歩兵軍と二人のミンタシア独立軍を保護し
ミンタシアへ向かった。
その地でアメル大佐は意外な人物と出会う。
完
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