王国の野望⑤戦線拡大

アバンツオ王国デュロリカを占領した

デレンマレーノ軍は、ほぼ同時刻に北部ミンタシアへの全面侵攻を開始した。

それは軍の総兵力のうち60%近い、20万という大軍をもってでの行動。


ミンタシア独立軍が抵抗するものの、開戦1日で5つの州を制圧し

我がものとして、その戦線を拡大させていった。


「イスマエル!どうするんだ?」

「どうするも何も。このままではミンタシアは全面降伏しか道はない・・・」


「アバンツオと連携できないか?」

「誰か使者に立ってくれないか?」

「じゃああたし行くよ」シャルロットが行くと言い出し、

「こいつだけじゃ頼りないし」

「何よステファン。あたしじゃダメだってか?」


ステファンとシャルロットが急行馬車にのってアバンツオに向かった。



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「なに?アバンツオに攻め込んだ?何故だ?」

「はい、当地の盗賊団を討伐しておりましたら、隣国に逃げ込みましたが故」

「だが逃げ込んだとはいえ他の国だぞ!なぜ一報入れないのだ!」

「ことは急を要しますがため」

「すぐにアバンツオ王国へ連絡を取れ!部隊はすぐに撤収させよ」

「はっ」


「ベルケルよ。国王陛下は部隊を撤収させよっていってるぞ」

「構うもんか。そのままにしとけ!」

「だけどよぉ・・・」

「大丈夫だよ。国王には次の作戦があるしよ」

「あ、あれか?」

「そう、そのアレよ」

「それはさすがにマズくないか?」

「まぁ、もうすこし様子を見てからだな」

ベルケルと腹心の男数名が参謀本部の一角で話し込んでいる。


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「リコさま

 デレンマレーノが我が国に攻め込んできました。

 チェンバレン大将麾下の部隊が殲滅されてしまったのです」

「その話は聞きました。女王陛下はどうされたいですか?」

「私は、この国を守る。その決意は変わりません。一部であっても他国の軍隊に

 我が国の街や住民が占領されるような事はあってはなりません。

 身を挺してでも戦いをやめさせたいと考えています」

「そうですか。女王陛下のお考えに賛同します。私もお役に立ちたいと思います」

「これからこの国は苦難が続くと思います。私も同様。その時リコさまの存在が

 私にとっては救いなのです。ずっと私のそばにいて下さいませんか?」

「解りました。私も王宮へ参りましょう」


マルティーヌ・シャリエ女王と共にリコが王宮に入ったとの知らせは

全軍を奮い立たせるに十分なものだった。



ちょうどそのころ。

デレンマレーノに潜入していたニンジャたちが王都へ戻ってきた。


ジャンヌ・アズーレ少尉、ダニエル・ルーヴ少尉が主だったニンジャたちを連れて

参謀本部を訪れた。

「女王陛下が話をしたいそうだ。私も一緒に行く」


フィッシャー元帥と共にシャリエ女王の部屋に赴くと

「ご苦労でした。詳しく話を聞きます。こちらへ」

ニンジャたちは女王の前で緊張しているのか、いつものような快活さはなく

どう喋っていいのか分からない様子だ。

「なに緊張してんの?いつもの通り喋んなよ」ジャンヌが言うと

「だって、おら女王さまとかえらい人の前で喋らんねえべよ。あがっちまってよ」

「大丈夫ですよ。普通にしゃべってくださいな」と女王に諭されると

「じゃあ話しますね・・・」


そばで聞いていたダニエルは(話長くね?)

ジャンヌも(そうねw)と笑っていた。


「だいたい話は分かりました。あなたたちの見聞きしたことをまとめて書類で

 提出してください。アズーレ少尉、ルーヴ少尉は手伝ってあげてください」


できあがった報告書に目を通し

「ではこれは参謀本部内で回覧してください。元帥殿良いですね」

「かしこまりました。そのあとは如何されますか?」

「我が国はデレンマレーノ軍に侵略されています。この報告書を参考に作戦計画を

 練ってください。期日は明日まで。いいですね」

「はっ!」


「元帥殿、

 それと第3軍を増強するために財務卿に予算措置を講じるように指示しました

 参謀部でその予算に応じて人員配置、武器防具の調達を進めてください」

「解りました、忙しくなりますな!」

「これからが大変ですよ、元帥殿には無理を言いますが承知してくださいね」

「大変結構!わたしのような老人にも働き甲斐のある仕事を下さり、

 まことに感謝しておりますぞ!女王陛下」


王国軍参謀本部はその日からほぼ毎日徹夜仕事が続くようになっていた。


「さぁさぁみなさん、これを食べて元気をつけてくださいね」

「これは、女王さま。ありがとうございます!」

シャリエ女王は徹夜で働く参謀たちに、食事の差し入れや交代で休む指示などを

毎日毎夜続けていた。



【トレントン・チェンバレン大将。参謀本部へ出頭せよ】との連絡を受けて

「これで俺もお役御免だなぁ・・・」とうなだれていた

「それはないのではないですか閣下」

「いや、しかし大事な部下をむざむざ死なせてしまった責任は大きいのだぞ」

「それはそうかもしれませんが、ほかの話かもしれませんし」

「う・・・・まずは参謀本部へ行ってくる。ジャネット少尉も同行してくれ」

「かしこまりました」


一軍を預かる身でありながら、奇襲攻撃とはいえ未然に防げなかったことは

大失態と言っても仕方のないものであると考えていたチェンバレン


「チェンバレン大将、お呼びによりまかり越しました」

「遠路ご苦労だった。さっそく女王陛下のところへ参ろう」

「元帥殿。それは?」

「女王さま直々のお呼びだ」

「そうですか・・・」(おれも終わったなぁ・・・)


女王の執務室。

「トレントン・チェンバレン大将。

 今回の奇襲攻撃によって甚大な被害を蒙ったこと、心が痛みます」

「はっ。陛下の大事な兵士たちを死なせてしまった罪、万死に値します。

 この場で軍司令官を解任していただけませんか。申し訳ありません」

「何を言うのですか?あなたにはこれからも軍司令官を続けてもらいます」

「えっ?」

「我が国に侵入した敵を排除し、国に安寧と平和をもたらしてください。

 それがあなたの仕事ですよ」

「陛下・・・」

「第3軍は人員増強をまず行うことにしました。それと第8軍を新設し

 あなたの第3軍と共同戦線を構築してもらいます。これへ」

「はっ!」

現れたのは

「クララ・フォン・ベルガー大佐、第8軍の指揮を執ります」

ナライ公国へ異動していたクララが軍中央へ戻ってきた。

それと同時に少将へ昇任し、さらに女王の二人の子息も連れている。

「マリレーヌ・シャリエです」「ジョルダン・シャリエです」

二人の若き軍人は美しい女王同様、その美貌をしっかりと受け継いでいる

「二人を実戦に出すわけにはいきませんが、しかし現実を見てもらいたい

 そう思って、第8軍で経験してもらおうと思ったのです」


「チェンバレン大将閣下、よろしくお願いいたします」

「ベルガー大佐、こちらこそ。しっかり国を守りましょう」


それとと前置きして

「元帥殿、あの話をしてもいいかしら?」

「どうぞ。構いませんぞ」

「ベルガー大佐、あなたを本日付で少将に昇任させることにしました」

「ありがたき幸せに存じます。一層軍務に励みます」


チェンバレン大将率いる第3軍は、第8軍とともに、ランブランズ砦へ赴いた。



「ベルガー少将、我々は今後困難な局面に何度か遭うでしょう。

 でも女王さまが見守ってくださいます。必ずや勝利を女王さまに捧げましょう」

「心得ました。私もこの身を女王陛下とこの国、国民に捧げる覚悟です」


ランブランズ砦で全幕僚が会して会合を開いて作戦を練ることにした。




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「デュロリカ周辺の索敵を密にせよ」

「ここを橋頭保とし、アバンツオ打倒に邁進せよ!」

と幕僚や兵士に言ってはみたものの、本心では

(わたしはこの仕事をやりたくない・・・はやくここを離れたい)と思っていた。


デュロリカ近郊にアバンツオ軍の先遣隊の姿が見えるとの報告があった。

「その部隊を殲滅せよ」


ヴァネッサ率いる第10軍の第110連隊が先遣隊に襲い掛かる。


激しい戦闘。


半日後には勝敗は決した。

「ただいま戻りました」

「ご苦労でした。戦果は?」

「はっ!敵はアバンツオ第8軍の第81連隊の一部でした、すぐに制圧できました」

「そうですか。ではしばらく休んでください」

「ありがたき幸せ」


(またやってしまった・・・)

罪悪感にさいなまれるヴァネッサ。


だが上官命令は【デュロリカ周辺地域に占領地域を拡大せよ】だ。

そのための作戦計画を練るヴァネッサと幕僚たち。


デレンマレーノ軍はデュロリカとその周辺の小集落を制圧し我が物としている。

「閣下」

「なんだ?」

「次の目標はこの先にある、ブルオトリックの占領を計画しています」

「王都アバンツオへ向かう分岐点にある街だな」

「ここを占領すればこのあたりへの物資輸送や軍隊移送を阻止できます」

「なるほど分った。ではこの街を占領する作戦の起案を頼む」

「承知しました閣下」


一方アバンツオ軍はランブランズ砦で作戦を練っていた。

「この先にあるブルオトリックは宿場町でこの周辺地方の農産物集積地でもあり

 交通要衝となっているところです」

「ここは敵軍も欲しがるであろう場所ですね。逆にここが陥落すると西部国境への

 アクセスはほぼ出来なくなります。絶対陥落させられない地点です」

「そうだな。ベルガー少将はどう思われますか?」

「幕僚殿の説明でほぼ分かりました。陥落させてはならない街である以上、

 防護体制は完璧を期す必要がありますから、私が行きます。

 ブルオトリックとデュロリカの中間点あたりまで進出し、

 周囲の丘陵地域を利用して敵を包囲し殲滅する案を中心に考えています」

「早めに周囲の丘陵地帯へ進出すべきかと」

「そうですね、少将の部隊から一部抽出し、第3軍の部隊と連携して包囲する方向で

 動きましょう。敵が来てからでは遅すぎます」

「解りました。第8軍の2個連隊を派遣します。私も現地で指揮を執ります」

「では反対側の丘陵には我々も2個連隊を配置させます」


クララ・フォン・ベルガー少将が先頭に立ち、4つの連隊がしずしずと出発した。

「クララ。私怖いです」同行して来たマリレーヌは緊張した面持ちだ。


ブルオトリックの街を通り抜け、街道がやや山道になり始めた。

峠道をしずしずと登っていく一行。


やがて切通しの峠に到着。


眼下には、ぱぁっと開けた緑の大地。

少し先にデュロリカの街が見え、その街に沿う形で比較的川幅の大きな川が流れているのが見えた。


「あそこがデュロリカです。敵の旗がなびいていますね」

「そうですね。我が国の国旗に変えなければなりません」


峠のふもとの小集落アニンに着いた。

「ようこそアニンへ。何もないところですが、ごゆるりと」

集落の代表者が数人の男たちとやって来た。

「しばらくこの地に留まる故、よろしく頼む」

「こちらで出来ることは何でもしますので、どうぞお申し付けください」


村の幹部の家を臨時の司令部をおき、マリレーヌとジョルダンがこの幹部の家で

世話になることになった。


「あすは周辺地域を視察する。この村の主たるものを集めるように指示せよ」

「はっ。かしこまりました」


マリレーヌとジョルダンは疲れからか、村幹部ゲルリッツ家すやすやと眠りについた。


翌日

「では視察に出発する」

クララや複数の幕僚は馬に乗り、護衛の兵士は徒歩でついてくる。


「なかなか身を隠すような場所がないな」

「そうですねぇ」

「でもこの付近で敵を食い止め、逆に川向うに追いやらねばならない」

「承知しております。現時点での目標はデュロリカの奪還にあります」

「うむ」

馬上から対岸のデレンマレーノ領を見つめるクララ。

その目は闘志に満ち満ちていた。




ミンタシア戦線ではデレンマレーノ軍の攻勢が続き、

その領土の半分近くまで制圧していた。


「その侵略行為をすぐ辞めろと言ったはずだ」

ゲルハルト国王の怒声が響く王宮執務室。

「なぜ辞めないのか?」

「いえこれは、ミンタシア側からの挑発行為があったがためです」

「それは言い訳にならん!すぐに撤退させよ!」

「かしこまりました」


「また国王に怒鳴られたぞ。そろそろあの作戦を・・・」

「いやまだだ、もう少し放っておこうぜ」





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