王国の野望④実力行使

エルフたちの住む平和な森を破壊したデレンマレーノ王国

その森にあるとされる金塊目当てだとは言え、森を伐採し、エルフたちを追い出し一部は殺し、傷を負わせ、王国への反感を育てたのは、ゲルハルト国王の指示が

遠因だ。


「陛下、リツローネ村の金塊はほぼすべてをわが国が確保することになりました」

「そうか。たしかあの森にはエルフたちが住んでいたはずだが?」

「はい、彼らと交渉を行い、無事何一つ騒動はありませんでした」

「そうか、それなら良い。その金塊をどうするのだ?ベルケル」

「この金塊は現在の貨幣価値にすると王国の国家予算の100年分にも及ぶ

 莫大な資金を得ることになります。ですからこの金塊は他の大陸に売り

 その売り上げのすべてを我々が確保することが可能です」

「100年・・・」その膨大な量の金塊から得られる資金を思うと絶句する国王。


(それだけあれば、この国をもっと豊かにすることが出来る)

ゲルハルト国王は国民を豊かにすることを考えていたのだが・・・


ベルケルをはじめとするコレルハウト帝国の遺臣たちはそう考えてはいない。

「あの国王は甘いな」

「そのようだ。

我々が莫大な資金を得ることで軍備増強しアバンツオを打倒する

 そこまで考えが及ばないようだな・・・俺たちの帝国が復活するのも目前だな」

「コレルハウト帝国!万歳!」



「国防卿」

「ベルケルか?なにごとか?」

「はい、アバンツオへの侵攻作戦計画の立案を依頼したと思いますが」

「ああ、そのことか。それは参謀本部長閣下に提案したところ却下された」

「なぜです?閣下」

「かの国は我が国の同盟国であるとの国王陛下の認識だからだ」

(やはりそうか・・・)

「承知しました。しかしながらアバンツオ打倒は我らの共通認識のはず

 ですから参謀本部長閣下への、さらなる計画推進を依頼すべきです」

「それは分っている。だが国王陛下のご認識が変わらない以上、依頼は無駄だ。

 だが戦力的に考えればアバンツオは相手にならん。

 我々の勝利は間違えないのだ。安心しろ」

「ですが国防卿閣下」

「何を心配しているのだ?問題はない。わが軍を総力を挙げた攻撃には

 さしものアバンツオもどうする事も出来まいて」

「ですが、閣下」

「もうよいではないか。アバンツオを打倒し、この大陸を我が物にする。

 その計画は出来上がっている。あとは国王陛下を説得するだけなのだ」

「国防卿閣下、国王を説得できるとの自信がおありなのですか?」

「ある。私は国王陛下を子供のころから教育してきているのだぞ?

 その私が説得出来ないわけはないだろう?違うかベルケルよ」

「承知しました。ではよろしくお願いいたします閣下」

「うむ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「では出発します」

アバンツオ王国軍参謀本部から正式な作戦命令書を受け取った

ジャンヌ・アズーレ少尉、ダニエル・ルーヴ少尉の二人はニンジャたちを率いて

デレンマレーノ王国へ向かって出発していった。


「彼らならしっかり任務を果たしてくれるでしょう」


60名からなる部隊の先頭にはジャンヌとダニエルが馬に乗り並んで行軍している。


「難しい任務だよね」

「そうね。無事帰れるか分からないね」

二人の不安を払しょくするかの様な陽気さで話しかけてきた、ジョルジュという男

「大丈夫ですよ。我々だって不安ですよ、そりゃあね。他の国に潜入するなんて

 でも仕事ですからね。任された以上はしっかりやりますから安心して下さいね」


やがてデレンマレーノとの国境近くの村に到着。

「ここから先はデレンマレーノの領地だ。ここからは5人ずつ分かれ潜入せよ。

 私たちはここでキミたちの帰りを待つ。分隊ごとに魔道具を渡すから我々との

 連絡はこれを使うように。あくまでデレンマレーノ側には悟られないように

 以上だ。武運を祈る!」

「はっ!かならずこの地に戻ります」

10組の分隊がデレンマレーノ王国へ潜入していった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

フランツィスカ・アルスマイヤー中佐が第7軍司令官となってしばらくして

ランブランズ砦への移動を下令された。チェンバレン大将の後任としてなのだ。


チェンバレン大将の第3軍は西部国境地帯が担任区域だがランブランズ砦では

移動距離が長く、不測の事態が発生しても対応するまでに時間がかかりすぎ、

第3軍の一部部隊は国境の街、デュロリカへ移駐している。


「チェンバレン大将の第3軍をデュロリカへ移動させ、ランブランズ砦へは第7軍を

 移駐させる。王都は第5軍に守備させるが、王宮親衛隊を兼ねているだけに

 兵力不足が否めない。メレイ。キミならどうするか?」

「元帥閣下のおっしゃる通り、王都守備部隊が手薄になりますから部隊新設が

 もっとも効果があると思われます」

「そうだな。しかし予算的に国防部の認可が下りるかだな・・・」

「では第5軍そのものを増員させますか?」

「その手もあるが、いずれにしても兵力増強には予算措置が必要だ・・・

 予算は限りがあるし、さりとて国の守りも重要だ。デレンマレーノの野心が

 この国に向いている現状を考えればだ」

「そうですね、元帥閣下から直接女王陛下へ進言されては?」

「最終的にはそうするしかない。ただまぁその前にできる限りの手は打っておく

 必要はあると思う。その案をメレイ、キミが考えてくれるか?」

「はっ!かしこまりました。では早速」

「うむ、頼む」



「第7軍が移駐?」

「だってさ、ランブランズ砦らしいよ。フランツィスカが言ってた」

「そうなの・・・私ひとり置いてけぼりだなぁ・・・シャルだってそうだし」

「あたしもそう。シャルが行っちゃったし、フランツィスカも行っちゃうしさ

 クララちゃんが戻ってくればいいんだけどなぁ・・・」

「ミチルはさ、女王さまをお守りしなければならない重要な任務があるしさ

 私とは仕事の質が違うからね。気苦労も多いよね」

「そうよ。女王さまについて国内視察に行くことが多いし、地元の有力者とか

 会食とかさ、マジ無理なんよね。あたしって」

「そんな感じには見えないけどね」


「王都にはまだ帰って来られないの?」

「まだその話はないのよ。女王様のお子様の教育もしっかりやらないとね」

「そっか、じゃあまだしばらくは無理っぽね」

「帰るときは連絡するよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「比較的警備の手薄な西部から侵攻しランブランズを陥落させれば

 王都アバンツオまでは一直線、一日あれば到着するでしょう。

 そこでわが軍の総力を挙げた攻撃を行えば半日程度でアバンツオは陥ちる」

「さすれば、わがデレンマレーノがこの大陸を制することになる」

アバンツオ王国打倒の野望に取りつかれたデレンマレーノ王国軍参謀本部では

連日侵攻作戦計画を練っていた。だがそれは国王や王宮の重臣たちには無断での

ことだ。


数日後

ヴァネッサは国防部へ呼び出された。

「ヴァネッサ・トンプソン大佐は本日付で少将に昇任し、第10軍司令官を命ずる」

「はっ。誠心誠意軍務に励む所存にございます」

「頼むぞ」

ゲルハルト国王臨席のもと昇任式が行われた。


その後参謀本部に呼ばれた彼女には過酷な任務が待っていた。

「ヴァネッサ、キミは第10軍司令官だが、この第10軍の任務は知っているか?」

王国参謀総長であるフリードリッヒ・ケスラー大将から問われた彼女は

「いえ、これから司令部で聞く予定にしています」

「ではその前に話しておこう。アバンツオ侵略軍だ」

「!」

彼女の頭の中で稲妻が光ったかのような衝撃にとらわれた。

前からそのような話がなかったわけではないのだ、だが実際に言われると・・・

「本当ですか?それは」

「本当も何も、キミには先陣をきってもらうと話したはずだが」

「ええ、そうですが・・・」

「どうした?軍人としてこれほどの名誉なことはないのだぞ。成功した暁には

 キミを中将ではなく大将への特別昇任を国王陛下に依頼する予定だ」

「・・・」

「どうしたのだ?まぁこの話は国王陛下が作戦命令に署名されてからの話だが」



自室で彼女は泣いていた

「クララがいるアバンツオを攻めるなんてできない・・・」

「でも上官命令は絶対・・・どうしたらいいの?」

唯一の望みは国王陛下が作戦命令書に署名されないことだけだが・・・


第10軍司令部で

「私があらたに司令官に任命されたヴァネッサ・トンプソン少将だ。

 デレンマレーノ王国のために皆と働く所存だ。よろしく頼む」

「はっ!」

司令部の幕僚たちを前に訓令するものの、その心ここにあらずだった。


日々訓練の様子を幕僚たちと見て回っていても・・・

司令官室で書類に目を通していても・・・

常にアバンツオ侵略の先陣を務めることの重大さを考えると、

ノイローゼになりそうだった。


司令官に着任して2か月がたったころ。

「参謀総長閣下がお呼びです」


参謀本部へ出向くと、やはりあの話だった。

「ヴァネッサ、来週いよいよアバンツオ侵略作戦の第一段としてデュロリカを

 陥落させるための前哨戦を行うこととなった。国王陛下の承認が下りたのだ」

「名目上は国境付近での匪賊掃討である。だがその匪賊がアバンツオ側に逃亡の

 場合は国境を越え追討行動をとれ。以上だ」

「それは国境を越えた時点で戦争となるのではありませんか?」

「そうだ。今回の匪賊討伐についてはアバンツオ側へも通報している。

 だが国境を越えた場合の措置については連絡していない。奇襲攻撃を行うのだ」

「・・・・」


「出発は一週間後、それまで作戦行動のための準備を行うのだ」


ヴァネッサは悩んでいた。

本当にアバンツオ侵略を行うんだ・・・

クララ・・・すまない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


デレンマレーノ王国へ侵入していたニンジャたちが一部だが帰ってきた。

「かの国でいろいろと聞きまわったり見て回りました。

 一部の軍部隊が増強されているようですが、それが我が国へのものとは

 わかりません」

「もしかすると、西部への侵略行為があるかもしれませんが」

「どうしてそう思うんだ?」ダニエルが聞くと

「だって、西部って守りが手薄でしょ?わたしらなら、そこから攻め込みますな」

「そうか・・・西部か・・・魔道具を使ってこの話を参謀本部へ伝えろ!」

「了解!」


西部への戦力増強をアバンツオ軍が実行する前に・・・

デュロリカ近郊にデレンマレーノ軍が姿を現した。


「どうも領内の匪賊を討伐しているらしい」

「我が国へも通報があったそうだ」

「なら、そのまま様子見だな」


国境は湖と川になっている。

橋は一か所のみ。


数日後、匪賊の一部がアバンツオ側へ逃げ込んできた。

それを追いかけてきたデレンマレーノ軍が国境を越えて領内に侵入を開始した。


「デレンマレーノ軍が領内侵入!」

魔道具を使っての通報が王宮にも軍参謀本部へももたらされた。

「なに!デレンマレーノが?なぜだ?」

「一応匪賊討伐とのことですが・・・」

「侵入を阻止せよ!一歩たりとて領内に入れてはならない!」


「女王陛下。如何されますか。デレンマレーノが領内侵入してきた件ですが」

「聞いています。すぐにゲルハルト国王へ連絡してください。大至急です!」

「はっ!」


その間にもデレンマレーノ軍はそのまま進撃しデュロリカが占領されてしまった。

デレンマレーノ軍の指揮官は少将に昇格したばかりのヴァネッサ・トンプソン。


デュロリカに駐屯していた第3軍第38連隊は壊滅的な打撃を受け敗走した・・・


デレンマレーノ軍は第38連隊をほぼ殲滅していた。

駐屯地は占領され、その街もデレンマレーノ軍の支配下に。

「チェンバレン大将!申し訳ありません、デレンマレーノ軍の進撃を止められず」

「仕方ないことだ。今しばらくは援軍を待て。我々もすぐに助けに入る!」


デュロリカ占領の報はすぐにデレンマレーノ軍参謀本部へも通報された。

「かの地の軍部隊を殲滅!」

「戦死は1名のみ戦傷が10名ほど。完勝です!」


アバンツオ王国デュロリカを占領したのと、

ほぼ同時刻にもう一つの作戦行動をデレンマレーノ軍は起こしていた。





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