王国の野望③親友を裏切るのか?

ここはアバンツオ王国の北のはずれの小集落、リツローネ村。

小さな教会と赤い屋根のレンガ造りの家が、肩を寄せ合うように立っている。


海に面したこの村には小さな漁港もあり、この港から揚がる魚がこの村の収益源。



数日前から村の外に、エルフたちが集まり始めた。



村の代表が、エルフたちに話を聞いてみると・・・

「私たちが住んでいる森がデレンマレーノ王国が無理やり開発するというので

 森を追い出されたのです。なので仕方なく、こうしているのです」


村の幹部が集まって

「王国軍に通報したほうがよいだろう」と落ち着いた。


この村の郊外にクロエ・ルメール率いる王国軍第2軍第21連隊が駐屯している

村の代表が衛兵に「あの、ちょっとお話が」

「どうしました?」

「村の郊外に、エルフたちが集まっていて・・・」


「そういうことですか。詳しく話を聞きますので、こちらへ」


「お待たせしました。連隊長のジェフ・シンプソンです。

 ご用件は伺いました。エルフたちの処遇についてですが、

 とりあえず、騒ぎが落ち着くまで我々が保護することにしましょう」

「それはありがたいです。では早速」

「そうしてください」


その夜

「すみません、いろいろとお世話になって」

エルフの代表はジュリエットと言い、一族30名ほどを連れてきた。

村の代表に連れられて駐屯地へやってきたエルフたち。


「私はこの駐屯地司令を兼務しているジェフ・シンプソン大尉です。

 しばらくここにいて構いません。落ち着いたら森へ帰ってもらっても

 村に行ってもどちらでも構いませんよ」

「ありがとうございます。何から何まで・・・」



エルフたちは世話をしている王国軍兵士たちとも打ちとけ。


「連隊長さまにお話ししておきたいことが」

「そうですか。話ができるか聞いてみますよ」


「ジュリエットさん。どんな話なの?」

「ええ、実は・・・」

デレンマレーノ王国はエルフや少数の種族に対して弾圧政策を進めているという。

ミンタシア独立軍の支配地域やデレンマレーノ王国の施政下の地域にはデレン人が人口の98%を占めていて、ミンタシア独立軍が支配する地域の北端に住んでいる

人外のエルフや獣人族はミンタシア独立軍が保護しているという。


「解らないですね。でも彼らにとってエルフたちが邪魔だからなんでしょうね」

「私たちの住む森には、巨大な量の金塊が眠っているという噂がかねてあり、

 それが目当てではと話し合っているのです」

「それに反対した私の兄や、ほかのエルフ族は殺されてしまいました・・・」

「酷いですね。あなた方はしばらく此処で過ごして貰った方が良いと思います

 軍中央を通じて王宮にも知らせるようにします」

「一つ使っていない隊舎があります。そこを使ってよいですよ。

 森の中とは違うので慣れないと思いますが、何か気がかりなことあれば

 遠慮なく言ってください。このアラバン・カルトー曹長があなた方の世話を

 します」

「ジュリエットさんも皆さんも、何かあれば私に言ってくださいね」

「ありがとうございます。何から何まで・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


デレンマレーノ王国による少数種族への弾圧は

このエルフたちだけに限らず、アバンツオ王国との国境付近に居住している

少数民族や人外のエルフやダークエルフ、獣人族へも行われているという報告が

シャリエ女王のもとへ入ってくるようになった。


「リコさま

 デレンマレーノ王国が少数民族や種族への弾圧を進めているようですが

 ご存じでしたか?」

「いえ、女王さまから聞いたのが初めてです。その人たちはどうしています?」

「保護できる人たちや種族はわが領内でできる限り保護するように伝えました」

「それでいいと思います。でもデレンマレーノ王国の国王はその様な事をする

 人なのでしょうか?」

「若く聡明な方です。あの帝国を滅亡させたときも我が国と緊密に連携できたのは

 冷静沈着な国王の存在があってこそだと思っています」

「であれば、国王を唆す連中がいる可能性がありますね」

「そうですね、私もそう考えましたが・・・その証拠をどうやって見つけるか

 それが分かれば、手を打つことが出来るやもしれません」

「あのニンジャたちを使うのはどうでしょう?」

「いまは、彼らも故郷に帰っていて、諜報活動はやっていませんし・・・

 頭領もいまは代替わりしていて、わが軍の依頼を受けてくれるか判りません」

「まずは情報収集ですね」

「解りました。やってみましょう」


王国軍参謀本部

「ジャンヌ・アズーレ少尉、ダニエル・ルーヴ少尉、

 キミたちはこれからニンジャたちに会って、今回の依頼を伝えてほしいのだ

 同意してくれれば、すぐに同行してデレンマレーノ王国へ潜入してほしい」

「はっ!かしこまりました」

アズーレ、ルーヴの二人は王国軍参謀本部情報部に所属する若きエリート軍人だ。


ニンジャたちがのんびり農作業をして暮らす王国東部のイロファナ村へ向う二人。


「ニンジャのことは情報学校で習ったけどさ、実際どうなんだろうね?」

「そうね。私もニンジャは初めて会うわけだしさ、なんか怖いイメージあるよ」


移動すること5日間

ようやくイロファナ村の入り口が見えてきた。


周囲は畑ではなく水を張った畑、このあたりでは田圃というらしい。

その田圃が遥か彼方まで広がっていて、緑のじゅうたんを敷き詰めたかのような

風景が広がっている。

「きれいね」

「そうだね、こんな風景は初めて見るよ」


入り口で馬を降り、徒歩で村へ入っていくと一人の村人が歩いてくるのが見えた。


「あなた方は?」

「はい、私たちは王国軍の者です。

 私はジャンヌ・アズーレ、こちらはダニエル・ルーヴ」

「して、王国軍の方がどうして。この里へ?」

「軍の作戦に協力をお願いできないかと」

「無理です」

そういった若い男性は、続けて

「私たちは、帝国軍との戦いで十分に協力したつもりです、何人かの仲間を失い

 それ相応の対応を王国はしてくれました。それには感謝しています

 ですが、もう仲間を失うような行動はしたくないのが我らの決めたことです

 申し訳ないですが、ご協力はできませんので、お帰り下さい」


「こまったなルーヴ」

「そうだね、どうするか・・・」

「ここまできて断られると思わなかったしね」

「だよな。仕方ない帰るか」

「だね、とりま魔道具使って参謀長へ連絡しとこうよ」

「じゃあ俺やるわ」


村の入り口の教会の尖塔くらいの大きな樹の下。

屋根の付いた小さな銅像があるところで参謀本部へ連絡している二人。


「帰ろう」

馬にまたがり帰路に着こうとした二人。

「お待ちください」

振り返ると、先ほどの若者と長老らしき男、そして何人かの住民が歩いてきた。


「どうしました?」

「先ほどは、この者が失礼しました。

 我々は一概に軍の作戦行動に参加しないということではありません。

 その内容をお伺いし、村会に諮ることにしたいので、今しばらくお待ち下され」

「解りました」


村の集会所には老若男女、村人たちが集まっている。

「この場には入れないです。外で待っています」

「そうですか。解りました」


集会所の外で待つ二人

「お待たせしました。こちらへどうぞ」

村人たちが議論を終えて和やかな雰囲気な集会所へ二人の軍人が入る。

「私どもは今回の軍の作戦に協力しますので、詳細をお話願いたい」

「そうですか。解りました。ではこれをご覧ください」

ジャンヌが差し出した書類を見る村人の代表が

「作戦の内容は分りましたが、もっと詳細な内容を詰めたいので、

 国防部へお伺いしたいと思いますが如何でしょうか?」

「問題ありません。では私たちは先に戻ります。この魔道具を置いていきます

 これで話が出来ますから。来られるときにはこれを使ってください」



「ただいま戻りました」

「ご苦労だった。そうそうに参謀長閣下へ報告せよ」

「はっ」


ジャンヌとルーヴの二人が参謀長に報告。

「なるほど、わかりました。

 作戦命令書は参謀第2部で作成します。二人は作戦内容をニンジャたちに伝え、

 詳細を詰めてください」

「解りました」


「元帥殿、今回のニンジャたちを使ったデレンマレーノ王国への情報収集作戦は

 比較的難易度の高い作戦になりそうです」

「そうですね、一応友好的な国ですがその内実を探ろうとすると予想外の出来事が

 発生する可能性もあるから、慎重に進めるべきでしょう。

 メレイならその作戦起案は出来ますね?」「はい問題ありません」


デレンマレーノ王国は一体、この大陸をどうしたいのだろうか?

金塊だけが目当てではあるまいとメレイは考えていた。

そして彼女はその部屋からしばらく出ずに作戦を考えていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「リンジー・マリア・シャーロット少将は第6軍を率いて北部リハテットへの

 進駐を命ずる。北部の状況が予想外に悪化しており第2軍を補強するのだ」

「はっ!」


「シャル・・・さびしいよぉ~~~」

「大丈夫、報告もあるし戻ってくるからさ」


「そんな寂しい顔しないでよ・・・あたしまで悲しくなっちゃうじゃん」

ミチルの顔は涙で濡れている

「あなたは女王様をお守りしなくてはならないんでしょ?

 ミチルじゃないと務まらない役目なんだから・・・ね・・・泣かないで・・・」


兵力を増強した第6軍を率いてシャーロットは出発していった。


しばらくしてシャーロットから手紙が来た。

それはミチルを気にしてのもの、長い間二人一組で激しい戦いにも臨んだし、

常に互いを思いやりながら、ここまでやって来た。その片方がいない状況は

ミチルにとっては、つらいものだ。

その寂しい思いを思いやるシャーロットからの手紙はミチルを元気づけた。

(シャル!あたしも頑張るよ!女王さまを守る!何があっても!)




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(わたしは何故クララにあんな仕打ちをしたのか・・・)

帝国が滅亡する端緒となったグラモント砦での戦いでも帝都を制圧したときも

自分たちが先陣を切り、クララたちにはあまり仕事をさせなかった。

無断で撤退したときも、自分は何もしなかった。というか出来なかった。


「今回、アバンツオと連合軍を組む。

 だが奴らに仕事はさせるな。ゆくゆくは奴らを滅ぼすためだ」

軍幹部の一人、ビバルディ元帥から聞いたのだが、聞いたときに違和感しか

感じなかった。連合軍なのに?先々アバンツオを滅ぼす?何故そんなことを?

ヴァネッサの頭の中は混乱していたけれど、下令された以上作戦は実行せねば

ならない。

クララには悪いと思っていたが、それでも上官命令は絶対だ。


【ゆくゆくはデレンマレーノ王国はアバンツオを攻め滅ぼすことになる

 でもあなたは私の親友。これだけは信じて。親友だからこそ、このことを

 前もって教えておくよ。親愛するクララへ】

そんな手紙を送ったのが2か月くらい前だったが、クララから返事はなかった。


手紙を送ってしばらくしたころ、

クララ・フォン・ベルガー大佐が軍中央を離れたといううわさが流れてきた。


無断で戦場から離脱したことを考えれば軍から排除されることもあり得る。

だが、アバンツオ軍はそうはしなかった。辺境の地の大公親衛隊に異動させた。

ヴァネッサは安堵すると同時に、手紙を送ったことが自分の身に何かが

降りかかる予感をするようになった。


ある日

「ヴァネッサ・トンプソン大佐、軍司令官閣下がお呼びです」

「司令官閣下が?」


「お呼びでしょうか?」

「うむ。他でもないキミにしかできない任務だ」

「いったいどのような?」

「これはまだ極秘なのだが・・・」と言って軍司令官が話した内容は


「1年以内にアバンツオを滅ぼす」

やはり・・・ヴァネッサは思った。そう来ると思っていた・・・

「キミにアバンツオ打倒の先陣をきってもらいたい」

「承知しました」

「やってくれるか?」

「はい、軍人である以上上官命令は絶対です」

「では頼む。作戦については今後参謀本部から話があると思う。

 キミにも作戦起案に携わってもらうから、そのつもりで居てくれたまえ」

「承知」


クララ・・・私の大親友。

その国を亡ぼす役目を担うとは・・・

ヴァネッサは自分の運命を呪った。



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