王国の野望②聡明な弟の実態

ナライ公国でゆったりとした毎日を過ごしていたクララ

そのクララのもとに、ある日、手紙が届いた。

「誰だろう?」

差出人は書いていない。


【デレンマレーノはミンタシアはもちろんのこと、アバンツオまで征服しようと

 考えている連中が王宮にも軍内部にも結構いる】

その手紙を読み進めるうちに、クララの頭の中にヴァネッサの顔が思い出された。


(ヴァネッサはなんであたしにこんな手紙を?)


クララは翌日

「王都へ行ってくる。2,3日留守を頼む」

「かしこまりました」


馬を走らせ、王都にある国防部へ。

「ミチル・ヤマモト少将かリンジー・マリア・シャーロット少将に面会したい」

「かしこまりました。こちらでお待ちください」


「よっ!クララちゃん、おひさ~~~」

「どしたん?今日は。ウチらに会いたくなった?」

「二人はいつも通りね。実はこんな手紙が来たんだよね」

「どれどれ~~~」


二人は顔を寄せ合い手紙を読んでいるうちに、顔色が変わってきた。


「これ、マズくね?」

「だよねぇ・・・総司令官に話したほうがよくね?」

「そうだねぇ。ことによっては女王さまにも」

「それもそうね。とりま、総司令官の部屋に行ってみよ」


【在室中】

「あ、いるわ。シャルいってみ」

「ええミチルが行ってよ」

「あたし?解った、行くよ」コンコンとノックすると「どうぞ」


「ミチル・ヤマモト少将入ります」

「リンジー・マリア・シャーロット少将入ります」

「クララ・フォン・ベルガー大佐入ります」


目の前には机で執務中のフィッシャー元帥が柔和な笑顔で迎えてくれた。

自分の孫にも近い年齢の女性士官を前に「どうしました?今日は」


「実は。この手紙をご覧いただきたく」とミチルが差し出した

例の手紙を読む元帥閣下の表情から笑顔が消えた・・・


「この手紙をもらったのはいつですか?ベルガー大佐」

「はい。4日ほど前になります」

「そうですか・・・手紙の内容から察するに、デレンマレーノ王国は我が国を

 制圧し我が物にしようとしている。そういうことですね」

「そう思われます。手紙の差出人の名前は有りませんが、おそらく」

「?」

「私の友人、ヴァネッサ・トンプソン大佐かと思われます。

 彼女はデレンマレーノ王国軍に勤務しており、先の帝国派遣軍では

 私と一緒に部隊指揮を行った間柄です」

「しかしベルガー大佐」

「あの時、キミは無断撤退しましたね。その原因は彼女の行動ではないですか?」

クララはまだ誰にも言ってなかったはずなのに、元帥は分っていたことが

不思議に思っていたが・・・

「親友なら最後までともに行動すると思っていたのに、あなたは撤退したことは

 おそらく相手方の指揮官に不信な行動があったからと考えました」

王国軍参謀本部参謀長であるメレイ・シャルパンティエ大佐が入ってきた。

「ベルガー大佐。軍人である以上作戦行動中に私情を挟むことは許されません

 本来ならば軍事裁判にかけられるべき案件であり、軍籍を解除されるべきです。

 ですが、今回はナライ公国大公親衛隊隊長に異動してもらいました。

 この意味が分かりますか?」

「・・・」

「あなたの才能を女王陛下が認めておられます。この私も元帥閣下も同じです。

 だからこそ、異動してもらったのです」

「・・・女王さま・・・わたしごとき者のことまで・・・」


「この手紙の内容は女王陛下にお伝えする。よろしいかな」

「はい。よろしくお願いいたします」



「用事も済んだし、今日はこっちで泊っていくんでしょ?」

「ううん、二人のことも心配だしね・・・でも一晩くらいは良いかな!」

「そう来なくっちゃ!じゃあ早速あそぼうぜ!」

「でもこの格好じゃあ・・・」3人とも階級章をつけた王国軍の軍服姿。

この国では軍人が軍服姿で街中にいても誰も不思議にも、なんとも思わない。

むしろ国を独立させた軍人への敬意を常に払っている国民が多い。


「着替えようや。うちの部屋にあるからさ。クララと体系似てるから合うと思う」


ミチルの部屋のクローゼットの中には華やかなドレスやスーツが収まっている。


クララは華やかな赤いドレス。ミチルはスポーティなブルーのスーツ。

シャーロットは白の花柄ワンピース。


「やっぱ似合うよね。クラっちは。かわいいよ!」

「あなたもいい感じよミチル。シャルも」


3人はレストランでランチ。

公園を散策したり。

通り沿いの洋服店でウィンドウショッピングを楽しんだりと

珍しい休日を満喫していた。



日も傾き。

「あーもうこんな時間。クラっちはどうする?」

「今夜はホテルに泊まるよ」

「あたしらも行っていい?」


クララが泊っているホテルの部屋でのガールズトークで夜は更けていく・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


デレンマレーノ王国国王ゲルハルト・ツェルナー1世

コレルハウト帝国を滅亡させ、この大陸随一の勢力に王国をのし上げた功労者


だが・・・


「ミンタシアとの交渉はどうなっているのだ」

「はい。賠償金のことで交渉は暗礁に乗り上げている状況です」

「・・・結局は金か。どの位ほしいと言っているのだ?」

「1千万ギニーです」

「それは我が国の10年くらいの国家予算だ。

 そんなにやるわけにはいかんぞ!」

「ではどうなさるおつもりで?」

金は出したくない、でも領土は広げたい。今の総兵力をもってすればミンタシアなど2日もあれば陥落させられる・・・軍事力を使っては、あの帝国と同じことだ。


なぜ彼は、それほどまでにミンタシアの土地を欲しがるのか。


北部で採掘される良質な鉄鉱石が目当てなのだ。

「あの鉄鉱石を使って武器や防具に使えばアバンツオなど一瞬で制圧できる」

「だからこそ、あの土地が必要なのだ」

「ミンタシアの広大な土地を肥沃な大地に変える。さすれば人口も増え、経済も

 良くなり、この大陸を我が物にできるのだ」


「早くミンタシアを併合できるように努力しろ!それがお前たちの仕事だ」

重臣たちに檄を飛ばし、この大陸のデレンマレーノ王国のものとする

妄想に取りつかれた国王ゲルハルト。


「これでは国が持たない」

「今のままでも十分、やっていけるではないか?それなのに何故?」

「以前のゲルハルトさまならこんなことはしなかったのだが・・・」

「だれか唆しているやつがいるのではあるまいか」

重臣たちは集まっては、同じように国王や国への愚痴ばかり。

滅亡したコレルハウト帝国の晩年に何となく似てきたと思う家臣もいた。

「あの帝国と同じ道を歩んでいるのではないか?我々は・・・」



ゲルハルト・ツェルナーの側近に

マルティン・ベルケルという男がいる。

この男の氏素性は誰も知らないのは、帝国が滅亡したときにいつの間にか王宮に

入り込み、あれよあれよという間に国王側近の地位にまで上り詰めたこと男こそ

あのコレルハウト帝国の重臣マンフレート・ゲットマイヤーであり、

コレルハウト帝国の復活を画策しているのだった。

「ベルケルはいるか?」

国王はベルケルのさわやかな弁舌に、騙されているのだ。

「こちらに控えております」

「ミンタシアとの交渉はどうなっているのだ?」

「はい、賠償金についての議論がなかなかまとまりません。

 この際、われらの軍事力をもってミンタシアを侵略し制圧すべき時期かと」

「いやあくまで外交交渉で話をまとめろ」

「心得ましてございます」


ベルケルには仲間が数人いた。

すべてコレルハウト帝国の遺臣たちである。

それは王国軍内部にも入り込み、その仲間を徐々に増やしているのだ。


その男たちの工作によって王国軍内部に同調者が増え、

ミンタシア侵略を公然と口にする者もあらわれた。


「司令官閣下」

「どうした?」

「最近、軍内部でミンタシアへの軍事侵攻を口にする者が多くなっています」

「その話は聞いたぞ。監察官に話しているのか?」

「はい。話はしておりますが、その勢いが日に日に増しているようです」

「若い者は血気盛んだからな。ま、いずれにしても軍は国を守るためにある

 他国への侵攻などもってのほかであることを、私からも直々に話しておく」


ベルケルの工作は王宮内部にも行われていた。


俺はまた帝国を復活させるのだ。

この大陸の覇者はコレルハウト帝国のみ。

デレンマレーノにいるのは、そのためだ。



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